第64話 文香の覚醒と死霊騎士の罠・血徒ルべオラ介入の意図
「文香様、貴方の声、良く届いていましたよ」
「文香様、立派になられましたな……」
「あたしゃよ、心配だったんだぜ」
「お前ら、行くぞ。文香様を守るのだ!」
どうも文香の具現霊の核となっているのは、昔まだ彼女が幼いころに亡くなった文治郎の部下たちであり、全員がナイフや銃を持ち文香の盾として存在していた。
それら具現霊は巧みに死霊騎士を追い詰め、敵の攻撃を許さぬ猛攻からの包囲攻撃を行っていた。巧みな連携の前に死霊騎士は反撃すらままならず翻弄されていた。
「ぐぅおあ!、何、だと、なぜ、だ、なぜ何人も……!」
「あれは、なあリリエット、群体型の具現霊ってもしかして……」
「珍しいわね。だけど扱いが大変よ……ヴァンとかボガーは特別だけど」
「あの2人はそもそも具現霊使いとは言えないわ。精霊、悪霊使いの領域だし」
リリエットの言うとおり、複数体で一体の具現霊とみなし操るのは至難の業である。それがそれぞれ性能が違うほど、運用に関しての難易度は上昇する。
1体だけならばそれに専念できるが、流石に4体も能力がそれぞれ異なる具現霊の運用は術者である文香の精神などを疲弊させやすくする。
例外として複数体の守護霊体を使役しているボガーとヴァンがいるが、この2人、とても特殊な霊量士でありボガーは数々の悪霊、ヴァンは自然の精霊とそれぞれ外部から集め引き連れているため、現霊士ではないという。
そんな中文香は、途切れそうな意識の中、的確に具現霊を指揮し采配を振るっていた。かつての義兄姉たちとの連携は死霊騎士ですら翻弄される。
しかし体力と精神力にも限界が訪れ、彼女は膝を地面につく。既に彼女の体も心も相当疲弊していたのであった。霊量士、現霊士の訓練を受けていない者が力をここまで行使できていること自体が奇跡なのである。
「貴様ら、ここまで来たことは誉めてやろう、だが終わりだ!」
「っ!数は27、全員魂食獣が来るぞ、包囲を破壊しろ!」
「行くぞ言之葉!竜巻斬!」
「ロナウ、新技ぶちかますぜ!コロナショットバズーカ!」
響と言之葉が呼吸を合わせ、強烈な竜巻を斬撃で発生させる。そこに巻き込まれた数体の魂食獣に翼が強烈な火焔球を3発脚から放ち、大炎上と共に獣を焼滅させる。
「アイアス、みんなを守って!」
「マスラオ、あいつらをまとめて仕留める!黒嵐流・嵐投げ!」
「まとめてぶっ潰す!我流・四天殴(してんおう)」
間城は味方に防御シールドを展開し支援しながら、九龍と五丈厳に指示する。それを聞いた九龍は新技で鹿型の獣を強引に掴み、豪快に振りかぶる様に投げ飛ばす。するとそれが風を生みだし複数体を巻き込む。
そうして敵が一か所に固まったところに、五丈厳とスサノオは棘付きの金属バットによる強烈な連撃をぶちかます。あまりの力に獣たちは次々霧散していくのであった。
「試しにやるしかないわね。地を刺す楔 死者の刻石 雨のように悲しみ降り注げ 幾多の無念よ墓標から解き放たれろ!大魔法闇の10式・石墓呪殺黒剣(せきぼじゅさつこっけん)」
ミカエルは増援と既存戦力を分断させるため、ハーネイトが召喚したドローンに飛び乗ったまま意識を集中し、ある魔法の詠唱を行った。
するとイメージ通り、黒曜石の墓石剣がいくつも空中で形成され、雨のように降り注ぎ残りの獣たちに突き刺さりそのまま墓標と化した。
彼女はこの時、意識を集中させれば詠唱次第でイメージを確立し霊量子でも行けなくないことを理解した。
しかし単位数の違いから霊量子で実行するとどうしても必要な量を集めるのに時間がかかる。それをどうするべきかが今後の課題であった。
「詠唱ありなら……どうにかってところね。でもこれでほとんど消えたわ!」
ミカエルの魔法で一気に頭数が減り、ハーネイトはすかさず超突進を仕掛け死霊騎士に弾丸の如く襲い掛かり吹き飛ばす。
「よく耐えたな、文香さん。後はこの私が!紅蓮葬送・紅蓮奔流(クリムゾンブレイザー)!」
さらに追い打ちをかけ、ハーネイトは紅蓮葬送を展開し引き伸ばし、巨大な波に見立てて押し流すように死霊騎士を巻き込みこれで勝負を決めようとした。
だが次の瞬間紅蓮葬送の一部を何者かが切り裂き攻撃を妨害してきた。
それは、魔界復興同盟の下級メンバーが配置させた死霊騎士たちであった。全員霊馬に乗りそれぞれ、剣ととげのついた鈍器、馬上槍を構えハーネイトたちの前に現れたのであった。
「ぐっ、やはり待ち伏せか!」
「まいったな、俺たちはめられたぜ」
「計4体の死霊騎士か、いいだろう!」
「ここで、お前らを倒す!出でよ、魂食獣!!!」
死霊騎士の集団は武器を地面に突き刺すことで魂食獣を大量召喚し包囲させる。響たち高校生はその数に驚きハーネイトに指示を仰ぐ。
「先生、この数はいくら何でも」
「包囲を突破するしかないな。伯爵たちでまとめてあれを撃破して。私が死霊騎士をまとめて倒す。それとミカエルとリリエットであそこにいる文香さんを回収して」
「分かったわよ!」
「邪魔よ、退きなさい!!!桃色之瞬斬(ロザード・モーメティア)」
すると早速リリエットが敵陣に突撃し、素早く魂食獣を数体切断し撃破する。
「こいつを、使う!俺から離れろ!!!旋風斧起動!闘神の壊撃(バトライア・ギラガドゥン)!!!」
「私は眠りたい、されど邪魔するもの、排除する!神弓技・トリシューラ!」
ユミロは背負っていた武器を手に取ると、その武器の先端にある6枚の刃を扇風機の羽のように回転させ、豪快にまとめて周囲を薙ぎ払う。それに合わせシャックスも、精神集中し青白い巨大な光の矢を手持ちの弓から放つ。
「いい鍛錬になるじゃねえか、纏めてスクラップにしてやらあ!行くぞスサノオ、五崩落だ!」
「うじゃうじゃうるせえ!マスラオウ、あれを!」
「行くぞ娘よ!震天脚っううう!」
九龍と五丈厳は秘かに開発した戦技を使用しアタッカー役の名に恥じない派手な戦いを見せてくれていた。
「先生たちの援護どころじゃないな!言乃葉、まとめて倒そう!」
「勿論だ、閃刃斬!我が刀の錆となれぃい!」
「これだけ倒せば霊量子もたくさんか?ははは!」
「全く翼君は……弁天、彼らを援護して!」
響と翼、彩音は包囲を切り抜け先生を援護するため前進しながら迫りくる獣たちを消し飛ばしていく。
「きりがないですわね、お兄様、纏めて吹き飛ばします?」
「それがいいな。合わせろ妹よ!暴風(あばれかぜ)だ!」
「先生たちにもバリアを張っているけど、あの4騎士の連携は厄介だわ」
「まずここを突破するのが先だ、いやな予感がする。ミチザネ、全ての敵に裁きを!」
後方組の3人も響たちの突撃支援に回り戦技を放つが、時枝はハーネイトの姿を見て大丈夫かと心配していたのであった。
「っ!こうも複数だと!」
「危ない先生!」
「何を!がはっ、や、やってくれるじゃあないか」
死霊騎士たちは四方八方から攻め立てハーネイトを翻弄しつつ確実に傷を入れていく。ハーネイトは紅蓮葬送などで戦うがわずかなスキをついてこられいつも以上にやりづらいと焦りの表情が見えていた。
まとめて口からゲロビなる物でも出せばまとめて処分できると思いながらも、巻き込みを恐れ中々大技を出せずにいたのであった。
「あちゃー、どうなっているのじゃこれは。しかし、エヴィラ曰くあのハーネイトという男なしにU=ONEにはなれないと聞いておる。……加勢でもしてみようかのう!聞く限り、とても良い青年だとな。フフフ」
その間、ルべオラは彼らの戦いを最初から見ていたが、最初こそ統率のとれたいい連携を見せていたのに対し、今の状況では荒い所があることと、気になっているハーネイトという男がどこか全力を出し切れていないような感じであり、死霊騎士たちの猛攻を受けていることに疑問を抱いていた。
しかし自身の計画のために彼が必要だと考えた彼女は移動し、騎士たちに奇襲をかけるのであった。
「ちっ、予想以上の連携だなっ。弧月流・三月光路!!!」
「いい腕をしているが、数の前には敵わないだろう!」
「もらったああ!これで完だ!」
騎士の1人がハーネイトが技を放った隙に懐に迫り、もう1騎と連携し間城が展開したバリアを破壊、手にした槍でハーネイトの胴体を貫こうとしたとき、ある少女の声と共にその騎士は赤いエネルギー弾をまともに受け吹き飛ばされたのであった。
「それでは困るのじゃ!血闘術(ブラッドアーツ)・呪血鎖(ブルームチェーン)!!!」
「ぬぉおおお!鎖だとぉ?」
「こ、これはどういうことだ、何者だ貴様!」
いつの間にか、ハーネイトを守るかのように前に立つ声の主、それは血徒・ルべオラであった。
彼女はすかさず右手を突き出すと死霊騎士たちの周囲に赤い鎖の檻を展開し動きを制限しつつ、首だけ彼の方を向いて思っていたことを口に出したのであった。
「全く、何をしておるかこのヴィダールの縁者は。出し惜しみなどせねば超余裕で勝てるじゃろ?」
「なっ、よ、幼女?いや違う、今の技は血徒の使う技か、どういうわけで加勢する!答えろ!血徒は、俺の、敵だぁ!」
「まあそれよりも、今は眼前の敵をどうするかじゃな若造」
「っ、本当に何者なんだ。血徒は、っ!はあ、っ!」
少し期待外れだぞと言わんばかりで膝をつく彼を見たルべオラは、そう言いながら死霊騎士たちを目線だけでけん制していた。
一方でハーネイトは言うと、殺意のこもった眼で彼女を見ながら、昔のことを思い出し激情に駆られそうになっていた。それもそのはず、ルべオラの姿がどこか亡き恩師と重なっていたからである。
「あの少女はもう回収できたのじゃろ?引けばよい」
「何者か知らないがこちらにも事情がある。それと……恩師を殺した血徒を俺はっ!」
「何を言うておる、周りを気にして全力を出せないお主が今のあれらを相手にしても何にもならん」
「っ、言ってくれますな!そもそもお前は、血徒だろう?今の技は、血を使った血闘術。戦闘微術の発展形を扱えるのは、それしかいない!」
ハーネイトは、このいきなり現れた幼女のような存在が血徒に属するものであると先ほど見た技などから把握し指摘する。
彼女の放った技は、元々微生界人が共通で使用する戦技、戦闘微術(せんとうびじゅつ)と呼ばれる戦闘術をアレンジしたものである。だからこそそう指摘する彼だったが、何故自身を助けようとするのか、その意図を掴めずにいた。
血徒は、自分の大切な物全てを奪い乱した憎き敵。だからこそ血徒であるルべオラの行動が分からない。
「何をごちゃごちゃ言っておる、この鎖、そこまで拘束力ねえな!」
「見破られたか、ぬぅ!じゃが全く効かないわけではないのう」
「いつの間にこれを、舐めた真似を!」
一方でルべオラは、啖呵を切って見せたが霊体相手に自分たちの技が通じる保証はないと緊張しながら血闘術を使用していたが、全くではなく少し拘束が効いていることに驚くも相性の悪い敵だなと思い表情がゆがむ。
「やはり霊体相手にはきついのう、エヴィラのような力があればなあ」
「貴様、エヴィラと知り合いなのか?」
「そ、そうじゃよ。彼女からお主の話を聞いてのう。力を貸してくれるならばこれらを一蹴できるのじゃが」
「U=ONEか……」
ルべオラは、エヴィラからU=ONEに至った経緯を聞いていたためハーネイトにそう提案するが、それを聞いていた伯爵が怒号を浴びせながら制止しようとする。
「相棒、そいつはやめろ!恐ろしいウイルス界の微生界人だ!くっ、俺や相棒があの呪いを受けなければ、ッ」
「……話を聞いたってことは、デメリットも分かっているな?血徒!」
U=ONE、究極の一 (アルティメット・ワン)とよばれる伝説の存在。正確にはヴィダールの神々と同じクラスの力を獲得するそれは強力無比の力である一方、対象の性能自体を変えてしまう点がありそれについて聞いていたかをハーネイトは彼女に問うが、笑いながら彼女はそう答える。
「有無、メリットしかないのう。もうあんな目立つことしたくないしのう、宿主を殺してしまうのも問題じゃ、さあ。修正パッチとやらを当ててくれ、最後の神造兵器よ!いや、修正パッチ配布人!」
「あのさぁ、その言い方はどうかと、だが背に腹、替えられぬ……か!創金術・鋼牢!こいつで時間を稼いでやる!」
ルべオラはずっと昔から悩んでいた。自分が微生界人であり、その中でも他生物にかなり依存しているという事実にである。
自分たちは永遠の命が欲しいだけ、なのに邪魔をする存在がいる。だけど今後ろにいる男は全ての微生界人にとっての希望だ。エヴィラと出会いそう思った彼女は、改めてU=ONEになりたいと強固な意思を示す。
その決意を感じたハーネイトは、敵対勢力に属するはずの彼女に対し、苦渋の決断の末、死霊騎士たちの動きを創金術で封じてから力を貸すことを決めたのであった。
「背中を向けるんだ、力を注ぐ」
「うむ、なっ、こ、これはっ!力が溢れてくるわぁああああ!何じゃこれは、あはははははははははははあははははは!」
ルべオラはハーネイトの指示に従い、その通りに動くと背中から莫大なエネルギーの奔流が注がれ自身の体が作り替わっていくことに感動し盛大に叫ぶように笑うのであった。
「おい馬鹿やめろぉお!そいつは!」
「新たな段階へ足を進めた、究極の一、U=ONE(アルティメット・ワン)だ。っ」
「さあ、言葉通り鎧袖一触じゃ!血蝕斬界(ブラッドエンドディバイディング)!!!」
ルべオラは宣言通り、血と空気を合わせ無数の斬撃を放ち、目にもとまらぬ速さで死霊騎士4人をまとめて撃破したのであった。体中に無数の傷が走り、騎士たちは一瞬で戦闘不能に追い込まで唖然としていた。
「ガァアアア!!!そんな、馬鹿なあぁ!」
「これ以上もたん、撤退だ、畜生!」
「いきなり、強くなるとは、どういう……ぐっ、覚えてやがれ!」
「覚えなくてもいいぞアハハハハ!まっこと心地よいのう。ありがとう、若きヴィダールの霊王よ」
瀕死の傷を負った死霊騎士たちは、やむを得ずその場から撤退したのであった。ハーネイトもわずかによろめくが、刀を地面に突き刺し杖代わりにして立っていた。それから響たちに声をかける。
「お疲れさん、無事に助けたみたいだな」
「どうにかな。文香さんも能力者になってしまったが……響たちは大丈夫か?」
「どうにかやりました!疲れたっす。えーと、まじか、仕方ねえなあ」
「いっそのこと増やしまくった方があれかしら」
「私が過労死間違いないのでやめて。それと……」
どうにか任務は完遂した。文香を無事救出しほっとしていたハーネイトと伯爵は、リリエットたちと話をしてから、遠くの方を儚げに見ているルべオラに声をかけた。
「フフフ、あれを見ていられなかったからのう。なぜ手を隠す」
「隠さざるを得ない、のだ。俺はヴィダールの最高存在に、呪いという名の制御をかけられ力を出しづらい状態なんでね。正直、状態が良ければお前も倒したかったがな」
「なんじゃと?それを早く申せ。それと、血徒に対し相当恨みがあるようだな」
「流石にあの状況では無理です。……ああ、大事な物全てを奪ったお前らに、俺は復讐を誓っているのでな。……一応名前は聞いておくが」
なぜ彼ほどの力を持ちうる存在が、あのような戦いをしていたのか理由を聞き、その力を封印された経緯ややり口などから、改めてヴィダールの造物主を倒さなければ何時世界が無かったことにされるのか永遠に怯えることになると彼女は思いつつ、彼の血徒に対する恨みがかなりの物であることを把握しつつも自己紹介をしようとした。
「そいつぁ、ウイルス系微生界人の中でも相当にやべえ存在だ。麻疹、と言えば響たちは分かるか?」
「え、それって。あの赤頭巾の女の子が、麻疹の微生界人、なのか?」
「伯爵、あんな女の子と知り合いなんてねえ……」
少し気の抜けたハーネイトと違い、伯爵はまるで目の前にいる存在を親の仇だと言わんばかりにそう言い、どういう存在かを教えるのであった。
「ちょ、違うってリリー!こいつはぁ、細菌界を滅茶苦茶にした血徒を裏で支援していた貴族級の、ルべオラ家当主、ミズルス・ルべオラ!よくも俺たちの前に面出せるな、あああ?俺も血徒に恨みがあるんでな!相棒と同じくっ!」
「誰じゃ、お主も微生界人のようじゃが……っ!もしや、あのサルモネラ家の者か?」
「ああ、そうだ!俺は、サルモネラ・エンテリカ・ヴァルドラウン!血徒に復讐を誓うものだ!ここであったが億年目、覚悟しろや!」
ルべオラの姿を見た伯爵は終始怒りに満ちた表情で、今にも彼女を殺しにかかるほどの覇気を見せていた。しかし彼女はそれを意に介さず、彼に謝罪をするのであった。
「落ち着け、Pを管理する一族の者よ。あの件は、今では間違っていたと思うておる。今更どうすることもできんがな。このような者がいるなら、そなたらに最初から手を貸せばよかったのう。」
「P……?何の話だ貴様ぁ!」
「とぼけても無駄じゃ、サルモネラ家の者である以上何か知っておるじゃろ?あれの解放する方法とかのう」
ルべオラは、先ほどスフティスといたときに話題にしたPという存在の解放についての話を伯爵に問うが、彼は苛立ちを隠せずそんなものは知らないと一点張りの主張をしていた。
「ああ?あれってなんだ。俺は、知らねえ、知らねえんだ!」
「ふうむ、嘘はついていない。もしや、記憶とかなくなっておるのか?」
「手前、俺をおちょくってんのかああ!あああ?」
「落ち着いて伯爵。もしかしてだけど、俺たちが探している第1世代神造兵器のことじゃないよねえ」
ハーネイトとサルモネラのやり取りを見ていたルべオラは、彼らの秘密を知り手助けをすれば血徒という組織など不要であると考え、そのためには敢えて血徒に残り真意をもう一度確かめる必要があると考えていたのであった。
「まあええわ。エヴィラから聞いたとおり、そなたなら失った、と言うか封印された力を開放すればあれを倒せる。我にU=ONEの力を与えてくれた礼じゃ、お主等の力になってやろうかえ」
「なっ、どうして敵が。私が血徒を恨んでいることを知っての上か!」
「俺は、お前を許すつもりはねえ。エヴィラもそうだがな」
ハーネイトから送られた力により自身の内側から無尽蔵に溢れ出すエネルギーを感じ、先ほど死霊騎士に与えた攻撃がしっかり通り大打撃を与えたことに驚愕しつつ、これがU=ONEの力なのかとルべオラは激しく感動していた。
これならもう様々な脅威に怯えることなく、自由に活動し勢力を広げられる。こんなところで手に入るとは思っていなかったのも合わさり、彼女の興奮度はMAXであった。
明らかに、このヴィダールの造物主と同じ気を持つ彼らに支援なり協力したりした方がいい。だから彼女はエヴィラと同じく、何か吹っ切れたかのようにそう言ったのだが、当然ハーネイトたちは盛大に戸惑っていたし、血徒は本来倒すべき存在だと2人は敵意をむき出しにしている。
特にハーネイトは涙を頬に流していたため、何があったのかルべオラはきにせずにいられなかった。
「どう弁解しても覆らない物もあるのじゃが、それでもなあ。それに、血徒についてはわしらも責任重大でなあ。彼らがわしらをだまし支援させた以上きついお仕置きが必要じゃ。今回はここでお別れじゃが、次に会った時は正式に仲間に入れるのじゃよ?……それと、お主等に何があったのかも、話せるときに話してくれ」
ルべオラは改めて全員に謝罪の一礼をしてから、自分たちウイルス界系微生界人が血徒の宣伝文句に乗せられ多くの仲間たちが勢力拡大に協力していると彼らに教え、他にU=ONEという神霊化に至る方法があることを黙っていた今の血徒17衆(スフティスを除く)を詐欺罪などでとっ捕まえてやると高らかに宣言した。
終始彼女のハイテンション差についていけてないように見えたハーネイトたちに対し、こうして出会えたことがうれしく、もっと早く会えていれば血徒の活動を抑えることができたと悔しそうにしていた。
「最後にじゃ、血徒はPという存在の解放に全てを費やしておる。その動向、常に気を配っておくのじゃぞい」
そう言うとルべオラはじゃあねと手を振り、その場を後にしたのであった。
「何てことだ……しかし、だまされていたってどういうことだおい」
「その、Pという存在でしかU=ONEの域に至ることができないと宣伝し、血徒は協力者を募っていたのか。少なくとも、かなりの微生界人を相手にしないといけないかも」
「それが本当なら、今の自分たちであんなのに勝てる自信が、ないです先生」
ルベオラの話からハーネイトは、彼女もまた面倒なことに巻き込まれた微生界人であり、事実なら多くの微生界人が血徒の元に集っていることになる。
また、響たち高校生は神霊化した彼女が放った一撃を目の当たりにし勝てるヴィジョンが見えないといい動揺を隠せずにいたのであった。
「本格的に事を構えるまで時間がある。出来る限りのことをし望まないといけない。君たちを守るための研究も、早く行わなければならない」
「さあ、もう出ましょうハーネイト」
「その前に、こいつを、壊しておく!」
「最後の一仕事だ、やるぜ!」
怯える響たちに対し、自分らでもその血徒という存在は脅威でありその特性、凶悪性はけた違いだと教えつつも対策法を開発し運用していくことが必要だと自身の考えを述べるハーネイトは、まさか3人目のU=ONEが誕生したことにすごく頭を抱えていたのであった。
本来なら、あの場面で倒しておきたかった。なのに、なぜ自分はあのような行動を取ったのかが自分でも理解できないところがあり、しばらく俯いていたのであった。血徒は、恩師の命も、村人の命もすべて奪った。2度、恩師を助けられなかったことを思い出し、ハーネイトは悔し涙を流しつつ、それを服の袖で拭うと深呼吸し心を落ち着かせた。
最後に、今起きている異界化浸蝕を止めるため、近くに会った装置を全員で破壊してから元来た道を戻り、亀裂のあった路地裏まで帰ってきたのであった。
ハーネイトは至急宗次郎に連絡し、記念病院に文香を搬送したいと連絡した。すると救急車が10分ほどして到着し、文香は担架に乗せられ文治郎と共に記念病院の方まで搬送されたのであった。
一方でハーネイトと伯爵は大和の車に、響たちは宗次郎の部下が運転するバスに登場し春花記念病院まで向かったのであった。
その後、文香は3日ほどで退院できると医師は判断し検査入院という形になった。そして病室に、文治郎、大和とハーネイトが入ってきた。伯爵は病院が何かあれなのでという理由で響たちとホテルに戻り事務室で話をしていた。
「うぅ……ここ、は?父さん……なんで?」
「気が付いたか、文香」
気づいた文香は父の顔を見て、少し背けてから窓の方を向いた。
「ああ、ええ……迷惑をかけたのは、わかっています。それに、貴方はあの時の」
文香はハーネイトの顔をちらっと見てからそういう。ハーネイトは無事に救出できたことにほっとしていたが、あの空間内の状況がどうしても気になっていた。
「ありがとう、ございました。貴方の仲間にも伝えてください……」
「文香……今は休むのだ」
「では、私はこれで失礼します」
「待ってくれ、ハーネイト殿」
ハーネイトは事務所に戻って研究の続きがしたく、病室を後にしようとしたが文治郎に呼び止められた。
「何かありますか?依頼の件はこれで達成しました」
「だからじゃ。報酬を払わねばならないだろう?」
「……考えていませんでした」
「そのようだな、全く」
この男はどこか捉えどころがない、そう思いながらも文治郎は報酬の件について話をする、それに文香も便乗した。
「私からも、何かお礼、させてほしい……九龍ちゃんと五丈厳君にも迷惑をかけたし、私にも何か……」
「君にはあれらと戦う力がある。……もし覚悟があるなら、私の事務所を訪れるとよい」
そう言いハーネイトは静かに病室を後にし、伯爵や間城たちは彼らに一言声をかけ彼の後を追いかけたのであった。
「ふうむ、困ったのう。せめて礼として……」
「文治郎さんも、彼と共に怪異を倒すのはどうですか。少しでも力のある人間は必要ですしね」
出て行ったハーネイト達を見送りながら、まだ文香の病室にいた大和は文治郎にそうアドバイスした。
「それしかないかのう。実際、儂の祖父は光る獣に襲われ命を落としたとな……彼と親交を深めるのは悪くないな」
「でしょう?まあ彼も一筋縄ではいかない存在ですが、とても礼儀正しく思慮深い、責任感と面倒見の強い人物であることは私も宗次郎さんも認める限りです」
文治郎は過去にあった先代の不審な死について話してからその上で、ハーネイトたちと交流を深めるのも一つの手だと考え、それを支えるかのように大和は彼らの人柄などについて話をし共感していた。
それと余談だが、この日ルべオラがU=ONE化したため、その影響で麻疹という病気が世界から消えることとなったのであった。
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