第66話 熱が入る鍛錬と宗次郎からの依頼



 新たな現霊士、天糸文香あまし ふみかが仲間に加わり、それからも響たちは時間があるときはホテル・ザ・ハルバナの地下を訪れ訓練場でリリエットたちと鍛錬に勤しんでいた。


 先日の事件でも大分あのような化け物を相手に立ち回れるようにはなっていたものの、それよりも強い存在を目の当たりにした影響か、いつも以上に気合を入れて鍛錬に励んでいた。


「あれが血徒、って思うと私たちも、もっと強くならないとぉ!」


「いけねえのが実感だよなあ!彩音、トレーニングを手伝ってくれ」


「だけどよお前ら、あのルべオラってやつ、色々怪しくねえか?」


「勝也、それは大体みんな同じだと思うぜ。だけどさ、逆にこちらも利用すればいいんだよ」


「ケッ、俺はそういうやり方大嫌れえなんだけどな」


 互いに同じくらいの力量を持つ人たちで鍛錬用の武器を持ちながら実力を確認したり、具現霊と息を合わせ更なる技術の向上、戦技の開発。瞑想したり筋トレをしたりなど、自由に活動しているようである。


 響や彩音は今まで以上に鍛錬に精を出していた。一方で九龍と五丈厳はハーネイトのあの時の対応などについて筋トレをしながら話をしていた。


「勝也君、言いたいことは分かるけどこちらもだいぶ不利な状況って分かってるよね」


「相手の情報が少ねえってのはよく分かってらあ。だがよ、向こうも俺たちを利用しようとしているんじゃねえのかってよ」


「腹の探り合い、という奴だな。ルべオラ……か。あんなのが敵にいると思うと怖くなるな」


 それを見ていた、ダンベルを手にし鍛えている間城は五丈厳の発言にそう返すが、彼がいら立つ理由を聞くとある意味同感だと思ったのであった。


 時枝もミチザネと戦技の開発をしつつ敵との情報戦に関してさらに強化する必要性があることを言いつつ、ハーネイトの力を注ぎこんだルべオラの圧倒的なまでの力を恐れていた。


「あ、もしかして兄貴ってさ、敵もまとめてこちら側に引きずり込んで相手をがたがたにしちゃう系?」


「ありえなくないんだよなあ、大将ならな。俺らもそうだぜ、元々あのハーネイトとは敵同士だった」

 

 ニコニコしながらその話を聞いていた文香は身体能力の高さを利用し更に戦闘技術をあげるため複数のダミーに対し超高速で切りかかり鍛錬していた。それに対し見張り役のボガーたちが話に加わろうとする。


「ボガーさんやシャックスさん、ユミロさんも?てかここにいる人殆ど?」


「その通りです、でも、私は嬉しい。同じお昼寝同盟をこうして組めることに。ネムネムしたいです」


「シャックス、お前なあ……。だが、元々いた組織が極悪な連中ばかりでな。俺たちも不本意ながらそこに在籍していたのをハーネイトが勧誘してな、身分など諸々保障すると言ってきてだな」


 リリエットやボガー、ユミロやシャックスなど今こうして教官として働いている人たちは全員、ある戦争屋組織に属していたという。


 だがそれもハーネイトたちの活躍で瓦解し滅亡したという。ハーネイトはそんな彼らを好待遇で迎え入れ、重要な戦力として共に戦う仲間としてみていたのであった。


「ハーネイト、優しい男。共感する力、誰よりもある。真摯に向き合い、共に寄り添う姿勢。嫌いな人の方、少ないほどだ」


「今回血徒と遭遇し、そいつに助けてもらったってのが色々引っかかるのだが……どうもあの後リリエットたちから話を聞いたら一枚岩じゃない感じがするな、その血徒ってのは」


 ユミロは、初めて自身がハーネイトと出会った頃のことを思い出し彼に取って敵である組織に属する自分をとても良い待遇で迎え入れ、長く使ってくれていることに感謝していた。


 そんな中、別の調査に出ていたヴァンが戻ってきて話に加わり、作戦に参加していた仲間たちから話を聞いたことについて話題を出す。その中で、今まで不明な点が多すぎたところの幾つかが判明したことについて教官たちは話をする。


「けれど、とてつもなく巨大な組織、って感じねえ。伯爵みたいなのが数百億種いると考えたら逃げ出したくなるわ普通」


「同感ですねリリエット。しかしそれが分かっただけではありません。どうも血徒という存在も、何かを開放しようと暗躍しているようですね」


「ったく、あの死霊騎士と、それを操る連中の動向と合わせ要注意だな。坊主たちも可能な限り手伝ってくれ」


「言われなくてもですよ、5年前のこともありますし、少しでも先生や貴方たちのように強くなりたいですから」


 響たちはボガーの言葉にそう返してから、その後も彼らはしばらく組み手や筋トレなどを行い、部屋を出るとホテルの温泉に入って汗を流してから各自自由に行動していたのであった。


 そんな中ハーネイトは伯爵、リリーを交え宗次郎、亜里沙と話をしていた。


「いやあ、わしの従弟とその娘を救い出してくれて助かった。何度礼を言っても言い足りぬほどだ」


「仕事ですから、ね」


 宗次郎は彼の活躍、仕事ぶりがいかにすごい物か目の当たりにし驚愕していた。あの堅物の文次郎でさえ彼の働きをべらぼうに評価していたことから、今回の捜索及び救出の件も流石だなと思いつつ、ハーネイトに対しできる範囲で仕事を持ち掛けたいと話す。


「ひゅうひゅう、相変わらずストイックでクールに澄ますなあ相棒は」


「よしてくれよ伯爵……何か、恥ずかしい」


「全く、それにしてもみんな学生なのよね……あ、あの田村先生と大和さんはあれだけど」


 今思うと、能力者の大半が高校生であることに一抹の不安を抱えていたハーネイト。できれば彼は、みんなに対し普段は日常生活をゆっくり送ってほしいと願っていた。


「学生たちは学業の方が心配だな。どうしても授業中は呼び出すことができないし、夜の活動も彼らに悪影響を与えないかとな……」


「そこまで学生たちに配慮しているのか、ハーネイトよ。1つ聞きたいことがあるのだが、学校の先生をしていた頃はあるのか?」


 宗次郎はその発言が気になっていた。そこまで気を遣うのならば、それに関する仕事にもついていたのではないかと。この男は探偵以外にも相当な能力を持っているかもしれないと彼は確かめたかったのであった。


「私は魔法学を中心とした初等から高等教育まで多くの子供たちに教えていた先生、教授でもあります。本当は、その方が私には向いていると思うのです……戦うのは、ええ、実は苦手で」


 少しうつむきながら宗次郎の質問にそう答えたハーネイトは、両手を顔の前で組み本当は戦士としてより教師として働いて、みんなのようなありふれた日常をもっと過ごして満喫したいと思っていた。


「まあ、ハーネイト君の言うとおり、儂もそれは思っておった。何よりそれなりに人員が必要となると、今の状態では学生である彼らに負担が大きすぎる。こちらも学園の理事長として彼らにできるだけの配慮をしているが他の生徒たちとの兼ね合いもあってのう」


「せめて任務完了後すぐに各自家に帰宅できるシステムとか、各地域を行き来しやすくするようにするのも必要ですね。そうなると、霊量転移装置の小型化が必要ですね」


 ハーネイトは少しでも移動時間を減らし、浮いた時間で彼らの時間を確保するためある装置の開発や設置をしたいと宗次郎に申し出た。


 それを聞いた彼は、理解するのに苦労したがどうにか内容を把握し、彼に対しできる限り手伝う旨を伝えた。


「そうなると本当に、この世界の技術水準をはるかに超えた代物ですな。しかしあなた方も破格の存在。その程度問題ないだろう。わしらが管理する施設が色々あるが、そこならばそういう装置を置いても構わない」


「ありがとうございます宗次郎さん。……置くとしての問題は、わずかですが世界に与える影響、ですかね。それと昼間は自分たちで亀裂や異変を記録し、必要があれば夜招集をかけ2時間以内には終了させるようにするか……そうなると観測装置の設置と観測所が必要……」


 まだ足りないものがたくさんある。しなければならないことも数々存在する。それに追われているハーネイトを見た宗次郎は感想を述べる。


「相当悩んでおるな。しかし彼らのそういう面にまで意識が向くとは」


「責任感強すぎるし仕事人間だからな」


「その移動というか転移装置、私が試してみてもよろしいでしょうか。霊量士にしか扱えないのでしたら、早々悪用はされないでしょう」


 亜里沙がその装置の運用に関して試験を手伝いたいと申し出て、ハーネイトたちはそれを了承した。少なくとも霊量子制御ができる、あるいは具現霊を出せるまでの力があるなら難なく移動ができるため彼女の申し出は彼らにとってありがたかった。


「ああ、準備が出来たらそうしよう。まあ、技術の維持のために時間のある時に瞑想や実戦訓練くらいはしてもらうようにしますか」


 任務以外の時に関して、ハーネイトは自主練という形でそういう鍛錬を時間の空いた時に全員に対し行ってほしいという。ただし、次の日に疲労があまり残らない程度でという制限付きである。


 いざ実戦に出てそこで体調がよくなれけば本末転倒なため、何時でも出撃できるようにある程度準備していける体力の温存についてもCデパイサーで連絡することに決めたのであった。


「Cデパイサーつけているだけでも負荷の関係で鍛えられるからな。本当に良く作るよな」


「これが私のクオリティ、と言う奴です」


 Cデパイサー自身が肉体にほどほどの負荷をかけ、霊量子制御能力を向上させるというとても都合のいいというか便利な機能もあったのでそれをガンガン使ってほしいことも伝える。これに関しては偶然彼が開発後に見つけ、実験の結果そうなる仕様になってしまったのが原因であった。


「それと、できるならばでいいがある依頼を君に頼みたい。集団行方不明事件の際に、2人に助けられたという人物が多くてな、医学的な治療だけでなく、不思議な治療もをしてもらったと言っていた。それを見込んでの依頼だ」


「宗次郎さん、何かありましたか」


 そういい、宗次郎は暗い表情を見せる。誰かが病気なのだろうか、そうハーネイトが察し話を聞くことにした。

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