第61話 無限の軍勢(パーフェクトアーミーズ)発動!



「ここが、例の探偵事務所か。しかしなぜ地下に構えておるのか……分からん」


「文治郎、来ていたのか」


「お前が教えたのだろ。全く、大和と言いお前と言い……まあいい。娘を助けた男の顔を見たいからな。好青年とは聞いておるがな」


 大和の案内で、ホテルのエレベーターで地下2階に降りハーネイトのいる事務所まで向かう老齢の男性がいた。


 彼の名前は天糸文治郎(あまし ふみじろう)と呼ぶある地域を収める任侠であった。


 と言っても以前は国のために働いていたが、ある事件が起きた後捨てられた経緯があり、その影響で性格が以前よりやさぐれていると言う。


 それから2人は事務所のドアをノックし入ると、目が合った宗次郎を見るないなや愚痴を言う。


「にしてもだ、一応客は多いしサービスも問題ないが……。綺麗すぎるな。まあそれはいいか」


 顔がいかつく怖い表情を見せている文治郎だが、これでもリニューアルオープンしたこのホテルに関して評価しており、施設全体が常に清潔でスタッフの対応などが機敏でよいと彼は感じていた。


 従業員の教育や連携がしっかりしておると感心していることに、大和がその理由もハーネイトという男によるものがあると説明する。


 これもハーネイトやオーナーが主導となり全員で色々と問題点を洗い出し、オープン前にすべて解消した結果であった。


「その点は、あの男とこのホテルの支配人やスタッフら全員の努力の賜物ですよ」


「そうか、武も文も長けておるようじゃ。あの男が、我が娘を救った恩人というわけか」


 文治郎はそう言ってから、ゆっくりとハーネイトの元まで歩き声をかける。するとハーネイトは先に名刺を丁寧に文治郎に手渡し一礼した。


「初めまして、私はこういう者です」


「ハーネイト・スキャルバドゥか。どこの国の人間なのだ……まあいい。まずはあれだ。我が娘の命を救ってくださったこと、誠にお礼を申し上げる」


「それも、私たちの仕事ですから。一応探偵ですし」


 文次郎はそう言いその場で深く礼をする。大事な娘を危機から助け病院まで搬送してもらったことについて彼は非常に感謝していたのであった。


 それに対し、自分だけでなく高校生たちや大和、病院関係者なども協力してくれたからうまくいったことを説明する。


 その言葉を聞き、謙虚な姿勢に驚く文次郎は思っていた以上に好青年であったことや今までの彼の経歴などに非常に興味を持った。


「そうか、うむ。文香や宗次郎からそなたの名を聞いてな、その腕を見込んで依頼を持ってきた」


「そうですか、ここに持ち込んでくるということは、ただ事ではない案件ですよね」


「その通りじゃ。捜索のプロと聞いておるのでな、その手腕を借りたいというわけじゃ」


 そうして2人は部屋のソファーに対面で腰かけ、ハーネイトは黙って文治郎の話を聞く。すると彼は驚いていた。


 そう、依頼とは先日巻き込まれた被害者の一人天糸文香の件であり、入院中の病院から抜け出して行方をくらませたということであった。


 つまりその彼女を探し出さないといけないのが今回の依頼であった。


 自身の立場上警察には言えず、そもそも警察としての機能も件の事件により低下していたため宗次郎に相談した結果こうなったわけであった。


「何ですって?文香さんが病院から抜け出して行方不明?」


「ああ、なんでも何かに取り付かれたような、あるいは幻覚を見ているかのような素振りだったと目撃者から話を聞いたがな」


 文治郎もまた独自に聞き込みをしたが、看護師数名から娘の様子について情報を得ていた。しかしあまりの勢いにだれも止められず、警察も呼んだが見つからなかったという。


「人探しは最も得意な分野です。恐らく遠くまで入ってないはずです。事件により力に目覚めかけているのでしょう。急いで向かいましょう」


「能力だと?」


 ハーネイトは不思議がる文次郎に対し要所について少しぼかしながら霊量士についての話をしながら、文香もまたその影響を受けているという説明を行った。


「ほう、あのよく見かける化け物を倒せるのか。あれは長らく倒せない危険な存在と思って居ったが」


「十分に今でも危険です」


「そうなると、娘は……くっ、手を貸してくれ!頼む!」


 文治郎は一刻も早く娘を探し出し救わねばと焦っていた。それは話を聞いたハーネイトも同じであった。何より素質のあるものを狩る存在がいるから、それが理由である。


「恐らく今暗躍している存在に狙われるおそれがあります」


「何という、ことだ……何故私の娘が」


「娘さんは別の病院に転院していたらしいですが、その病院の場所を教えてください、そこを起点に捜索します。私にはとっておきがありますので。宗次郎さん、今から探しに行ってきます」


「そうか、ではそれに賭けるほかないな。ハーネイト、捜索の件頼んだぞ」


「すぐに車で向かおう。地下駐車場に急ぐぞ!」


 どうやっても見つからない娘を、目の前の男は容易く見つける術がある。もはやそれにすがるしかなく文治郎はハーネイトに託すことを決めた。


 そして大和にその病院のある隣の町まで車で送ってほしいとハーネイトは頼み、彼は快諾し3人はホテルの駐車場に止めてあった大和の車に乗り込み、伯爵とリリーはその車の上に秘かに乗りついて行くことにした。


「すっかり俺も足役だな」


「済まないな大和。時間があまりない」


「本当に大丈夫なのだろうな?」


 そうして車で15分ほどかけて隣街の上川街まで足を運び、文香が入院していた病院の前に到着した。


 全員車を降り、ハーネイトは周囲を警戒しながら人気のつかないところを探し、そこである能力を発動させた。


「この周辺ならいけそうだ。では……やるか。無限の軍勢(パーフェクトアーミーズ)、第1の能力! 隠れざる蜂影軍 (ハーミット・ホーネット)」


 ハーネイトは右手で印を作り、静かにそう言葉を口にする。すると数匹の近くを飛んでいた蜂がハーネイトの周囲をホバリングしたのち、彼の目の前に待機する。それに合わせ彼は胸ポケットから文香の写真を蜂たちに見せた。


「ねえねえ、そこの蜂さんたち。この女の子どこかで見てない?」


「さっき、見た」


「遠く、ない、それ、縄張りの中」


「……恐らく、この辺り、いる。仲間、食料、集めたとき、なんか変だ、ブルブル」


「お前、この前女王救ってくれた。ありがとう。だけどその人間、様子、おかしい。近づく、危険」


「分かった、ありがとう皆。お礼にこれあげるからね」


 ハーネイトはいつの間にかこの街の紙地図を用意し、蜂たちにどこに文香がいるか印を毒針でつけさせた。幾つかの印から導き出した結果、どうも国道からそれた商店街の路地裏付近にいるようで、彼は蜂たちに謝礼としてウエストポーチに入れていた瓶からはちみつの塊のようなものを一匹ずつプレゼントした。


 あくまで自身と相手は対等であり、協力してくれた以上謝礼は当然払う。彼のそのスタンスは絶対に崩すことはない。そのおかげか、彼が起こすビジネスはほとんどうまくいき、巨大な事業にまで至ると言うからこの男の底知れなさがよく分かる。


「ブーンブーン!」


「な、一体彼は何を……」


「私にも分かりませんな文次郎さん。今のは初めて見たので」


「彼は、人間以外の言葉を理解し情報を集められるのか?」


「地図に何か印をつけさせていた所から、そうなんでしょうね。彼は本当に不思議な男です」


「奇怪じゃが、それを成立させられるのは彼が人間以外からも好まれる証、なのかもしれぬな」


 その光景を物陰から見ていた二人は終始?マークが頭に浮かんでいた。もちろん所見で見れば誰しもそうなるはずであり、彼らは正常である。


 これがハーネイトの伝説を作り上げた能力の一つ、無限の軍勢 (パーフェクトアーミーズ)である。

 

 故郷の星にて、伝説の魔法探偵として名を馳せたのはこの、通常人間では意思疎通が成立しない生物と会話交流でき、力を貸してくれる特異体質と彼の優しく謙虚な性格によるものである。


 自身の他の能力と合わせれば、どんな探し人、犯人も一瞬で発見できる。故郷では犯罪者に最も恐れられた存在で「追跡者トレーサー」の名も有名である。


 彼に睨まれて、逃れることは決して不可能なのだ。ただし、この能力も呪いの影響で出力が落ちており今まで通り力の行使ができない状態であるという。また、この力は女神ソラの気運によるものがあり、使用しすぎると悪影響が起こるらしい。

 

 情報をまとめたハーネイトは、文次郎と大和が自身と蜂たちのやり取りを覗いていたのに気づいていた。そして彼らの元に近寄り何をしていたか説明をする。


「驚かせてすみませんね。私は、助けた生物種族に対し一定の干渉能力を持っています。また会話もでき、これを用いて情報収集をしております。それと、娘さんの居場所分かりましたよ!」


「もうか、それで場所は」


「さらっととんでも能力使ってるなおい。それがヴィダールの力ってやつか?文治郎さん何故動じない」


「少しは静かにしてくれ、でどこなのだ!」


 大和は2人に思わずツッコミをしながらもそういうことをしている場合でないと冷静になる。そして蜂たちが示した場所を見た文治郎は割と近くに家があることを彼に伝えた。


「思ったより離れているな。と言うか儂らの家の近くだ」


「急ぎましょう。人気が少ない、いやな予感がする」


「分かった、飛ばすから舌を噛み切らないでくれよ!」


 再び大和に車を出させ、指示された場所まで大急ぎで向かう。するとやはり気配がする。それから間もなく蜂たちが教えてくれた場所に到着すると、ついに文香を路地裏で発見したのであった。

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