第60話 地下拡張の件と新たな来客者
組織発足後の翌日、ハーネイトと宗次郎は朝から地下事務所である話をしていた。
それはホテル地下を拡張できるかどうかについてであった。これはリシェルらハーネイト直属の部下の寝泊まりする個室を増やしたいということと、追加で研究部屋を用意したいというハーネイトの意向であった。
「地下の拡張工事か……できなくはないが、そうなると例の能力を持って作ってもらわんことには地盤の問題などが出てくる」
「肝心のホテルが崩れるのはアウトですからね。はい、それはこちらの技術でより地震などに強い素材を用いてこちらで作成しますのでお任せください!どんな揺れでも怪物でも、傷1つつかないような素材でホテル全体を保護いたします!」
「頼むよハーネイト君。ついでに、地上部の方も構造が脆そうなところがあれば手直しなどを頼めないかのう?」
「あ、はい。その時は手早く確実に直しておきます。色々とお任せくださいな!えへへ」
結論として、地下を掘り進めることに関しては了承を得たものの、工事器具を入れられないのでそちらで工夫してほしいとのことであり、ハーネイトは了承し他にも話を進めていく。
宗次郎は彼の真面目な勤勉さを何よりも評価していた。
探偵としての仕事だけでなく、日頃からホテル内での清掃やお客様対応など、捜査の間にスタッフたちと協力して行っているのを使用人やオーナーなどから聞いていた。だからこそ話がトントン拍子で進むのであった。
「やはり足りなかったか」
「少なくともあのボルナレロを呼んで指揮させる部屋と、新たな技術を開発する部屋がいるわね」
「地図技術のGISもだが、他の研究はあれか?」
「そうそう、霊量子による超常現象の再現、それと霊量士を主な対象にした総合強化プログラムがどうのこうのって」
その話を聞いて、ハーネイトの隣でくつろぐ伯爵はすぐに察しながら、研究部屋を増やしたい意図に関して話を聞く。
大分長い付き合いであるが、伯爵はハーネイトについて研究者らしい一面について熱が入りすぎてぶっ倒れないか少し心配であるという。しかし、戦うよりも楽しそうにしている顔を見ると、ついその顔を見続け止めるのを忘れそうになると言う。
「ようやるわな。俺なんかもう強化するところあまりないぜリリー、どう思うよ」
「でしょうね。基本的に伯爵の能力は汎用性高すぎるからね。でも血徒には意識張り巡らさないと、楽には勝てない、相手なのでしょ?」
「お、そうだなあ。まあU=ONEの力があれば鎧袖一触や!しっかしよう、微生界人ってのはあの最低な造物主が直接生み出したっての聞いて、俺も自己嫌悪しちまったぜ。あんな奴の手先なんて、正直嫌なんだけどなあ」
「だからこそ、自分なりにけじめをつけるのでしょ?伯爵は」
リリーの言葉の通り、伯爵もまた、形は違えどハーネイトと同様にあり方に叛逆し微生界人全てが安全に暮らせる世界を目指すことを目指していた。
しかし、彼にはある非常に重要な役割がある。だが、その力のことも、生み出された理由も、彼は今忘れている状態である。彼がこの先、何者なのかという記憶を取り戻せるかで状況は変わるのであった。
「そうだがな。まあ本音はハーネイトを嫁に娶ることができるならもう満足だぜ」
「あのねえ、私がいるでしょ?」
「リリーはリリー、相棒は相棒だ。それぞれ同じく愛してるんだぜ」
「ほうほう、それは興味深いね」
「げっ、今の聞いていたな大和」
2人の会話を遠くから聞いていた、資料を確認していた大和が近寄ってきた。いつの間にか部屋に入っていたようで、伯爵は焦っていたが大和は、あえて思っていたことを口に出さず別の話題で話を進める。
「前から俺も思っていたんだが、一体君たちを作ったそのすごい存在ってのは暴虐の限りを尽くしていた見たようだけどどうなのだい?」
「聞く限りじゃ、因果応報だな。他の神々というか同族まで逃げだすんだしな。しかも協力関係にあった別種族も裏切るわ、あーもう滅茶苦茶だって感じだわな。正気の沙汰じゃねえよ」
彼もまた、ハーネイトと同じく元凶である生みの親、造物主であるソラに会い、戦いを挑んだ。その中でいかにその女神が自業自得でわがままな奴だと理解しほとほと呆れていた。
大和は話のスケールの大きさにまだついていけていないところがあったが、そんな存在が上司にいたらいやすぎるなとは思い話を聞くのであった。
「もう俺も頭がついていけねえが、とりあえずあれだ、伯爵は色々裏切っているというか、叛逆しているよな……」
「フン、元々俺は何もなければ……いや、それは置いておこう。そもそも誰かの思惑に乗せられるのが大っ嫌いなんでな。心底から愛している、好きな奴ならいいけどな。しかもいきなり造物主に変なアイテム埋め込まれるわそのせいで人生罰ゲームコースだわ、さんざんなのさ。だから相棒と共に叛逆した。それだけや。あいつも同じやしな」
伯爵は強くそう言い、自分の在り方についても話をした。それに大和は素直に、こう思い質問した。
「勇気あるよな。仮にも相手はある意味親なわけで」
「フン、あんなの親とは思ってもいねえ。それと、俺は拾ってくれた親も結果的に殺した重罪人や、理由はどうあれな」
「前に話した、世界を救うために正気を失い全てを壊そうとした父を止めた話か。何だか、やるせない話、だよな」
大和は以前彼から聞いた話を思い出した。世界を救うためとはいえ、敵の兵器により正気を失い、親である存在を倒さなければならなかったことであった。
その経緯を聞いて、いつもは飄々と明るいサルモネラ伯爵が、予想以上につらい人生を送ってきたのだなと理解し、深く考え込んでいた。
自分なら、正気を失い殺戮の限りを尽くす相手にどう立ち向かうだろう。その相手が、最愛の者であったとしたらどうする、そう大和は思いながらしばらく沈黙していた。
「思い出したくねえがな。でも過去の話だ。俺たちは未来を紡ぎ続かなきゃならん」
「ああ……っ、しまった、お客さんを待たせていた。ハーネイトが宗次郎さんと話をしていたから待っていたのがまずかったな」
大和は慌てて部屋を飛び出てエレベーターの方に向かい走っていく。それから数分後、ある男を傍に置いて連れてから事務所まで戻ってきたのであった。
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