第59話 結成後初の鍛錬



 ハーネイトに案内された、修練の部屋と呼ばれるその場所はよく見ている異界空間と似て非なるような物であり、空間内に入った彼らの中には戸惑う者も少なくなかった。


「ここが、本当に訓練場所、なのか?」


「青い、電脳空間っぽいあれじゃなく、紫?」


「はえ~ここでなら自由に鍛錬できるわけか、兄貴すげえ」


「長時間いて、大丈夫なのだろうか……だが、興味もある」


 それに気づいた彼は、不安を取り除くためにこう説明する。


「そうだ、これは私が作った空間で、いくら暴れても問題ない場所だ。ここでならより効率的に技術を習得できる。しかし座学については隣の部屋で行うことにします。鍛錬用の道具なども揃えていきますので、自由に使ってください。基礎体力もあると鍛錬が楽です。ただし体を壊すまでやるのは申し訳ないですがダメです」


 そうハーネイトは響たちに説明し、鍛錬のし過ぎによる体の故障に注意するようにと話した後、初めての実技訓練が開始されるのであった。


 まずは軽くて合わせをしてもらおうと、彼の指示を受けボガーとリリエットが前に出る。


「では、まず君たちの素質を測らせてもらおうか。かかってくるといい」


「今まで身に着けた力、見せてくれる?」


 ボガーとリリエットはそれぞれそう言い、何時でもかかってくるように挑発する。それに響たちは有無を言わさず一斉に襲い掛かる。


「思ったよりやるわね、短期間でここまでとはお姉さんびっくり」


「そう言いながら、全く攻撃が通ってない……!」


「響引いて、リリエットさんが何か仕掛けるわよ!」


 リリエットは常に余裕な態度を崩さず響と彩音に切れのある斬撃を繰り出す。ハーネイトとは違う意味で厄介なその一撃を、2人がどうにか防ぐので精一杯であった。


 その間にボガーは得意の槍術で時枝、間城、亜里沙を相手に全く寄せ付けず、余裕の立ち回りを見せていた。


「そらそらそら、もっとかかってきな!」


「うそでしょ、3人がかりでも全く間合いに入れない!」


「この男、相当な強者だな間城、亜里沙」


「具現霊のレベルも桁違い……というかあれは悪霊!?」


 一見隙がありそうに見えて、不用意に飛び込めば確実に攻撃を受ける。そう思うと体の動きが鈍るのであった。


 手元でくるくると器用に鬼封槍を回し、すっと投擲の構えを見せながら3人の連携攻撃に対し華麗に立ち回る。


「真空投げ!」


「させるか、精霊障壁!」


「今のを防がれた?」


「今度は俺だ。精霊魔銃!」


「んなもの返してやるよ!」


 一方で九龍と五丈厳は間合いを詰め、遠距離攻撃が得意なヴァンに襲い掛かるが的確な防御と攻撃に翻弄されている。


「どうなんだ相棒。あいつらの力は。初めて会った時とは別人だと思うが」


「まだまだこれからだな。相手に応じて戦い方を切り替える必要が出てくるが、それを教えていないうえに間城たちを筆頭に具現霊はあれど戦闘経験のない人たち、素質はあれどまだ具現霊が出ていない人たちもいる。難しいな」


 ハーネイトたちは冷静に分析し、まだ練度にむらがあることを確かめた。


「それに加えて、より簡潔にして強力な強化システムの構築も求められる。まあそれは既存の技術を大体発展させればよいのだがな……場所もいる」


「そうとんとん拍子にはいかねえよな」


「仕方ないよね」


 どうすればもっと効率よく、力を手に入れた人たちの教育や強化をうまくやれるか、ハーネイトは話ながらプランを構築していた。


「今の調子でいけば、概ね問題はないと思いますがね師匠。見ている限りでは全員筋は悪くないっす」


「こいつぁいいな。わざわざ来たかいがあるぜ。この世界にも、楽しみがあるとはな」


「戦闘狂は困るな全く。だが練度がまちまちというか……未覚醒の人も多い」

それをどうするかだな……場合によっては君たちがリーダーとして彼らを連れて経験を積ませる必要がある」


 リシェルとブラッドはそう言い、それを聞いたハーネイトは場合によってはリシェルたちがAミッションなどでナビゲーター、あるいは前に出て戦闘に参加していく必要がある旨を伝えた。


「はい、今日はこれで終わりだよ。皆さんお疲れ様」


「はあ、はあ、これは嫌でも強くなるな」


「そうね真司、でも私は戦い方を掴んだわ。アイアスは守りに秀でているのね」


「ミチザネはやはり遠距離からの支援だな」


 2時間近くの手合わせの中で、高校生たちは自分の得意な間合いや戦術、能力などを把握していた。それこそが第1の狙いであり、ハーネイトは嬉しそうに彼らを見ていた。


「俺たちは共に近接、つまり切り込み隊長ってわけだな勝也」


「けっ、俺たちにはそれしかできねえだろ。とにかく前に出て、道塞ぐものを蹴散らすんだよ!」


「おうおう、血気盛んだなお前ら。しかしな、お前らもしかすると戦いの中で別の素質も見いだせるかもしれん」


 ボガーは手にした槍を縮めて黒地に花柄のひらひらしたコートの中に収めながらそう言う。どうも彼にはあの2人に対し何か別の素質がある、そう感じたのではないかと伯爵は見ていた。


 大体相場は前に出るアタッカーと相性のいいシールダーのダブルブレンダー、つまり2つのクラスを行使できる存在となるが、組み合わせは別にもあるため、彼らの成長が改めて楽しそうだと伯爵はにやにやしていたのであった。


「ふう、これが先生の仲間たち……当然と言えばあれだけど、長年戦ってきたってことがよくわかる動きだった。祖父や親父とは比べ物にならない……それほどに容赦がない」


「そうね響。そういえば先生の故郷でも異世界からの侵略者で毎年数千万人死者が出ていたそうよ。しかもスケールもあまりに違う敵を相手に……」


「兄貴、あの山みたいなトカゲを涼しい顔で倒せるもんな……。俺たちもいつか、あんな奴を倒せるようになりてえなあ」


 響、彩音、翼の3人は昔のことを思い出しながら、先生たちの故郷でもひどい事件が多く起きていたこと、そして多くの戦士の中で、先生があまりにも異質な存在であることも把握した。


「自分たちより年下だけど、あの子たちすごすぎる……でも、私頑張るわ」


「負けてられん……。だが焦りは、禁物だ」


「そうだな音峰。しかし彼らがここまで逞しいとはな、俺ながら感動した。生徒の模範として、俺も精進せねばな」


 そうやって、初めての戦闘訓練は終わり、その後全員は解散し一日を終えたのであった。

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