第57話 異空間特別調査組織・レヴェネイターズ設立
渡野達3人が救出された日から数日後の夕方、ここはホテル・ザ・ハルバナの地下2階にある大会議室で秘密裏にある組織の発足式が開かれようとしていた。
「では、これより正式に組織の立ち上げを行います。今日はお忙しい中集まって頂き有難うございます」
部屋の中には20人ほどが中央のテーブルを円状に囲んで待機していた。
「ようやくか、これからさらに気合入れていかねえとまずいわけだ」
「そうね伯爵。最初は、こんなに共に動いてくれる人たちがいると思っていなかったけどね。嬉しいな」
椅子に座り机に足をかけるサルモネラ伯爵とリリーがそう話をしていた。予定の時間より3分ほど過ぎているが追加の資料を運ぶためハーネイトが亜里沙と共に上階にいるためである。
「これで、俺たちはあの化け物たちを容易く倒せるのだな」
「事実を知った以上、一抜けたなんて私は言わない。それに先生たち素敵だし。あれだけ強いのに、威張らない感じとか優しい感じが頼れるお兄さんって感じね」
「ったくお前ら……まあ、異世界から来た上にとんでもない存在ってのはあれだが、どう見てもそう見えねえし、世話になるぜ兄貴たち」
時枝と間城、翼は隣同士話をしていた。待ちに待った指導を受けられる。それだけで3人は興奮していた。いや、響と彩音、九龍と五丈厳もそれは同じであった。
「そうだな息子よ。にしても、俺も招かれるのは光栄だ。できる限り支援をする」
「ハハハ、儂も代々退魔士の家系を継いできたが、ここにきて長年の問題を解決できる人材が来てくれたことにただただ感謝だよ」
「改めてすごい面子ね……いろんな人たちが…。全員、何かしらの被害者、私たちと同じ経験を」
「しているということだな渡野。……正直怖い話だがな」
「少しでも、私たちのような目に合う人が少なくなるよう努力するほかないだろう」
そんな中大和と宗次郎の会話を聞いていた綾香は、自分がこのような場所にいて本当にいいのか若干不安であった。音峰と田村も、ここに集まっている人たちの辛い過去を知り動揺を隠せずにいた。
「おい、早く始めねえのかぁ!」
「勝也、落ち着けよな」
「そうだぞ五丈厳」
「手前に指図される覚えはねえぜ」
「まあまあ、これで私たち、正式に活動できるのだから、ね?」
この中で特に一番落ち着きがないのが五丈厳であった。
彼はとにかく早く力をつけて、死んだ友人の霊が核になったスサノオと共に戦いたくて仕方がない様子であった。時枝と彩音が彼を抑えていた時、会議室のドアが開きハーネイトと亜里沙が部屋に入ってきた。
「すみません、資料を持ってきましたハーネイト様」
「ご苦労だったね亜里沙、ありがとう。それと皆さん遅れてすみません。では始めます!」
そうしてハーネイトはプロジェクターの近くに来ると、PCをいじりながらある説明を始めた。それは機密情報である大世界と小世界という情報であった。
「この地球を包み込む世界も含め現在、数えきれないほどの小世界と呼ばれる領域が存在します。これらは時に干渉し、世界間で交流を深めることもあれば侵略されることもあります。それで、これですがもう皆さんはお分かりですよね?異境界航行空間、略して異界空間と呼ばれるこの果てが見えないこの空間は無数に存在する小世界同士の隙間であります」
ハーネイトはスクリーンに映し出された、異界空間内の画像を幾つか見せながらここがどういう領域であるかを全員に再度説明する。
「そもそも、その小世界をさらに包括する大世界というものがあることから話をしましょう。その大世界を作ったのは2種類の超エネルギー生命体であります」
さらに彼は、ヴィダール、そしてコズモズと呼ばれる2種類のエネルギー生命体について言及した。
大昔、この2種類の生命体は互いに力を合わせ、自らを生み出したある存在の封印に成功したという。その存在についての情報はほとんどないが、異界空間内に存在するこれまた巨大過ぎて全長が分からない楔柱塔こと世界柱と呼ばれる物がそれと関係があるとだけ判明しているという。
「ヴィダールはその後小世界の大多数を支配し、あらゆる生物を生み出し実験し、時に競わせてきました。また自身の直接の配下として生み出された生物も存在します。私は、そのヴィダールというエネルギー生命体、その中でも最高の力を持つ存在の手により生み出された世界調整及び破壊兵器、もとい生物殺りく兵器として生を受けました」
ハーネイトは、今知っている限りの情報をまとめ、部屋にいる人たち全員にそれを話していく。その中で、自身の存在がいかに恐ろしい物かを悲しく打ち明けるのであった。
「それらは神造兵器と呼ばれ、第1世代から第4世代まで存在しています。しかし運命のいたずら、私たちは親であるヴィダールに叛逆し、その結果代行としての形で彼女の代わりに動いています」
ヴィダールは長い間、あらゆる世界の脅威として存在していた。この種族の方針次第であらゆる世界が理不尽に消滅する事態も起きており、今残っているのは全て運が良かったからであると彼は説明した。
また、自身がヴィダールの神造兵器、その第4世代として誕生したことや親であるヴィダールの代わりに今は動いていることを説明する。それが、女神代行という肩書である。
「そしてあらゆる世界を守る存在として私は新たな生を受けたのですが、問題はいまだ山積みです」
最後に、自身と伯爵はある3つの命を受け活動中であり、異世界浸蝕現象の原因と影響調査が1つ。次に行方が知れない神造兵器第一世代「P」及びヴィダールの36柱の捜索及び確保。
最後にさらに伯爵と同じ種族である「微生界人」の中で、同族にすら牙を向く恐るべき血を使い全てを支配しようとする「血徒」という存在の追跡及び撃破。これを行うために地球まで来たことを告げる。
「すげえ難しい話してくれたな兄貴……しかしよ、神造兵器って何なんだ?」
「すごく大変そうな任務を受けているわけね。やすやすと解決はできなさそう……先生たちがただ者ではないのは、あれを見ていたからわかっているけど、予想の遥か斜め上ね」
「先生、俺たちも、そのヴィダールという神様的な存在と戦わないといけないんですか?」
何時完遂できるか分からない、3つの任務。彼らが背負うそれは試練、または苦行に近いものがある。
それでも前向きに働くハーネイトや伯爵を見てきた翼も彩音も、そして響も彼らを見習おうとしてどうすればいいか、それに気になることがどんどん口から出てくる。それについてハーネイトは終始冷静に返答する。
「まず、神造兵器と言われているのは、ヴィダールという超エネルギー生命体自体が私の生まれた世界では神格化されています。そのヴィダールにより生み出され彼らの目的のために運用される道具といった意味合いも込めて神造兵器と呼ばれています。と言っても、ヴィダールを知らない世界では別の何かがヴィダールと混同、あるいは誤認されて認識されているかもしれません」
ハーネイトからすれば、別に神などと大層な名前を付けなくてもいいのではあるが、あまりにも巨大というか力の次元が違うという意味で、またその力を求め信仰するものも少なからず存在し、そういった面も踏まえ、ヴィダールという生命体こそ神の次元にある存在という認識にしておけば、その戦うスケールの大きさがわかるのではという考えであった。
「それと、なぜ地球に来てまでこうしているのか、それは一部の地球人と、ある魔界人の話を聞いた上で、別世界でも同様の事件が起きているか、そこに共通点があるかなどを調べるためです」
ハーネイトは、転移でやってきた地球人の一部から故郷で奇妙な事件が起きていたこと、それとほぼ同時期に異世界浸蝕現象を始めとした異変が複数起きており、とにかく調査や探索などをしていこうということでここを訪れたこと、任務の関係上他のヴィダールなどと刃を交えるケースがあることについても言及したのであった。
「それと、場合によっては私の上司とも呼べる存在とたくさん戦わないといけない場面が出てくるかもしれません。しかし貴方たちが手にした力は、そのヴィダールのものであり、干渉しあいダメージを与えられるのです」
「そりゃ大層なこったあ。しかしよ兄貴、格の違いとかで攻撃が通らないことってあるんじゃないのか?」
超エネルギー生命体を構築するエネルギーこそ、霊量子である。そのような存在を相手にするには、同じエネルギーをぶつけないとまず勝負にならない。それについては以前から話をしてきたものの、なぜそうなのかまでは話してこなかった。
それは、霊量子による攻撃以外は全て分解し意味をなさなくなるからという理由である。また、攻撃するデータの情報量が少なく傷を入れられないという見方もあるが、ある意味では当たりであり外れでもある。物質化しているものが一番情報としての格が低く、霊量子に近い物ほど格が高いと言い換えると通る話なのだが、これに関しても別の見方で行くと違うのではないかと長年議論されている。
その上で、霊量子を纏った武器や弾丸ならば直前で分解されることはほとんどなく、霊量干渉現象という状態を引き起こし神霊などにも有効打になることをもう一度説明したハーネイトは、ひとまず休憩しようと皆に指示を出した。
「だいぶ頭がついてきたが、嫌な予感しかしなさすぎる。本当にそんな存在にも通用するようになるのか?」
「気になることが多すぎるわね……」
大和も話を聞いて困惑していた。というか話の途中で寝る人もいた。その中で亜里沙はハーネイトに質問した。彼の親とはどういう存在であり何を教えてきたのかという事であった。しかしある程度話を聞いて彼女は、表情が暗くなる。
「そうですか……あなたの両親、相当恐ろしい存在なのですね」
「正直実の親とは思いたくありません。正直、生みの親を私は呪っています。それと皆さんが、うらやましい。親に愛され……育ってきた。自分はその経験が、ほとんどないからです」
「え、師匠たちの元で暮らしていたって……その人たちが親代わりではないの?」
「全員過激な人たちで……私を鍛え上げることしか考えていない人たちだったから、です」
「そ、そうだったのですね……はい」
ハーネイトは、そのヴィダール最高神が自分の親であることを認めたくなかった。それを言いながら、響と京子や翼と大和のような親子の関係を見てきてうらやましいという感情を抱いていた。
彩音は少し前にハーネイトの幼少時代の話を聞いていたため質問するが、どうも育ての親である師匠たちはほとんど愛情を注ぐというよりはいかに鍛え上げるかという面が強すぎたとハーネイトが言い、彼女はそれ以上は質問できなかったのであった。
「それで本題に戻りますが、貴方たちにはこの世界を含めた、ほかの世界の過去と今、未来維持するため、力をつけていただいた上で脅威を退けていただかないといけません。また今起きている事件の数々も解決しなければ、悲劇的結末が起きるといってもよろしいでしょう」
ようやく仕事の内容についてハーネイトは口にし、他の世界についても言及したのち、最後に一礼し、ハーネイトは近くにあった椅子に静かに腰かけた。
「話が長くなりまして誠に申し訳ありません。皆さんには事実をお伝えしなければならないと考え、複雑な話をしてしまいました。これも、これから戦うかもしれない相手がどんな存在かを知ったうえで、参加して頂きたいと思ったからです」
「ああ?相手が何だろうが、俺たちを脅かす存在なら戦うまでだろ、何言ってんだ先公」
「相変わらず君は……全く。ですが、飛んできた火の粉は払わないといけません。そこで、正式に霊量子を扱える素質を持つ人たちを鍛錬し様々な怪問題を調査、解決する組織を立ち上げることにしました」
今回人を集め話した理由を説明した後、これからの方針と正式な組織発足をハーネイトは大きな声で宣言する。
現霊士(レヴェネイター)たちが多く所属し、彼らが主軸となることからハーネイトと伯爵は、組織名をレヴェネイターズとし、また異世界特別調査探偵組織としてここに、地球人と異世界人の合同対策組織が誕生したのであった。
ここから彼らの運命は、徐々に大きく変わることとなるのであった。
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