第56話 呪われた神造兵器たち



「なあ先公、あんた結構無理してねえか?」


「まだ力不足だっていうのは自分たちでも十分理解している、だから外での監視について従ったんだけどさ」


「兄貴、さっきすげえ伎使ってからしんどそうにしていたんだけど……よ、どこか体の具合悪いっすか?」

 

 五丈厳と九龍、翼はそれぞれ、ハーネイトに対し公園での体の状態に関して心配し質問する。実はどこか具合が良くないのに戦っているのかと3人以外にも思っている者は少なくなかった。それについて彼はこう返答する。


「君たちに心配をかけさせたな。すまない、体調管理を万全にしておかなければならないのだが、私は今呪われたような状態になっているのだ」


「正確には、今の相棒は本来の力を引き出せない状態だな。俺も少し影響を受けているが」


 リリーも、2人は今存在している世界が好きだから全力で戦っていることを彼らに教えその代償を払っているようなものであると説明する。


「2人は、今ある世界をなかったことにして、自分に都合のいい絶対世界を作ろうとした、ヴィダールの現最高存在を止めるため命を懸けて立ち向かったの、私もだけどね」


「んで、どうにかそいつに世界を消去するという考えを改めさせたわけだが……やっちまったぜ」


「その時に、もはや腹いせというか試練というか……力を吸われて幾つかの機能が封印状態にあるわけだ」


 大世界、それはあらゆる世界を内包する大きな入れ物のような存在であり、地球や魔界、フォーミッドなど数えきれないほどの無数の小世界が存在しあい成り立っているという。


 その世界の成り立ちを真に知る者はほとんどいないが、一説にはヴィダールという存在を生み出した世界の龍の肉体の上に、今の世界が成り立っているという。


 だがその大世界も、小世界も全てを消去し、全てを我が物にしようとしたとんでもない存在がいる。


 名をソラと呼び、超エネルギー生命体であるヴィダールという種族の頂点に現在立っている女神霊である。

 

 彼女は現在存在している世界に見切りをつけ、新たな世界を生み出し自身の存在を絶対的な物だとし支配する計画を立てていた。


 だがハーネイトや伯爵など神造兵器級のヴィダールや人間たちによりそれは打ち砕かれたという。


 しかし、それで全員が無事で済んだわけではなく、生みの親に立ち向かったハーネイトと伯爵は神造兵器としての幾つかの能力を封印されてしまったのであった。


 元々機能がシンプルというか究極の一、U=ONEという存在に至った伯爵は被害が少なかったもののハーネイトは、多機能ゆえに魔眼や変身能力などについて使用が制限されている状態である。


 だがその制限は、霊量子を大量に取り込めば解除できるとハーネイトは説明した。


「マジすか、じゃあ力を取り戻すためにも動いているという事っすか」


「そうなる。といってもこれは向こうに気付かれずにやるしかない。……もう、どこかであれを倒すしかないのかも」


「本当にはた迷惑な存在がいるのね。分かりました、その点についても協力するわ先生!世界がそんな理由で全部消えるとか、嫌だよ」


「霊宝玉って物を集めればいいのか。もし見つけたらすぐに回収します先生!」


 ハーネイトの話を聞き、どうすれば霊量子を集められるか聞いた響たちだがそれは、霊量片や霊量石、霊宝玉などといった大量の霊量子ことCPを内包しているアイテムを集めたり、戦闘で獲得しCデパイサーに蓄積させそれを持ってきたりなどいくつか方法があることを確認する。


 その上で、霊量子はある意味で通貨のようなもので、戦闘に必要なエネルギーでもあることを教えた。


「それで先生たちが元の力を得てくれれば、そんなおっかない存在もまた倒せるわけですよね」


「その通りだ響。……皆、本当にありがたい。霊量子を集めれば集めるだけ、それに関する研究も進む。君たちが気になっていた魔法もその研究次第でみんな使用できるようになるかと」


「じゃあ、俺らがその霊量子を集めて、先公が戦いが楽になる研究とか力を溜めてヤバい奴らを倒す感じで役割を分けりゃあいいじゃねえか」


 響たちは事件の捜査の他に、意識して霊量子を集めハーネイトや伯爵にかけられた呪い、もといリミッターを外す手伝いをしないといけないと考え、五丈厳は自分たちと先生たちとの役割分担について整理し話をした。


「これからはそうなっていくだろうね。君たちをこれからどんどん鍛え上げていくから、準備しておくように」


 ハーネイトは優しく微笑みながら、こんなにあまりにも自分たちと存在がかけ離れているのに接して、それだけでなく手助けまでしてくれることに感激していた。


 その一方で、多くの人に迷惑をかけることになる今の状態を悔やみ、申し訳ないという気持ちが強かったのであった。


 元々自分は、存在自体があってはならない。それが酷く負い目となり彼の心を乱して壊していく。絶大な力を持ちながら、人としての感性を併せ持つ彼は徐々に、心が蝕まれていっていた。


 彼らが動いてくれるそのお返しは、皆の仕事をより楽にさせられる研究や、様々な戦闘指導などで返していこうと、ハーネイトは考えていた。


 生きている限り、存在している限りは誰かと関わり、互いに支えあう。それが人という種族の戦略なのだと思いつつ話をまとめたのであった。


「とりあえず被害者3人はまだ残っていて。後は解散していいわよみんな」


「君たちの先生を何人か連れてきたが、近日中に全員紹介する。彼らも長旅で疲れているのでな」


「了解しました、先生」


 ハーネイトの話を聞いた全員は返事をし、数名を残し事務所を出ていく。ハーネイトは、自分の過保護な癖がいまだに治らないなとため息をつきながら響たちを見送っていたのであった。


 自分以外、どこか頼れないという性格は、彼の居た環境と境遇がもたらしたものであった。事件の生き残りというだけで恐れられ迫害され、絶望と無念、憎悪の中1人で生き抜いてきた経験が尾を引いていたのであった。


「さて、と。亜里沙さん?私の部下たちは今どの部屋に案内させていますか?」


「ええ……あの、リシェルさんたちには別に部屋を用意して休んでもらっています。地下1階のここですね」


「ありがとう、そこまでしてくれたならこちらもありがたい」


「それと父上……宗次郎様が直々に依頼を持ってくるそうです」


「了承した」


 亜里沙がハーネイトに話をし、それを聞いた彼は彼女に休むように伝えた。そして亜里沙は一礼してからドアを静かに開け退出した。


「さて……もう一度確認させていただきます」


「はい、ハーネイトさん」


 被害者3人を残し、ハーネイトはある話を3人に始めた。


「今起きている一連の事件及び、過去に起きた集団昏睡及び行方不明事件など、幾つもの事件、それに加えさらに歴史をさかのぼり発生した数々の事件に異世界の存在が関わっております。またその中には、大世界を生み出したというヴィダール、そしてコズモズというエネルギー生命体という種族が存在します」


 ハーネイトの話は、今回のような事件が起きる原因の一つについての話であった、先ほどの能力制限の話を聞いていた3人は何となくだがそういうものだと理解していた。


「ということは、お前らもそのヴィダールという連中と関係があるわけと。信じがたいという気持ちはたくさんだが、あれはどう見ても事実だしなあ」


「それで、その親の代わりに働いてあらゆる世界への脅威を取り除くのが表向きの仕事か。全く現実的ではない話だが、あれを見た以上はなハハハ」


「その戦いに、私たちも巻き込まれてしまうわけね……。でもねえ」


 3人とも非常に困惑していた。自分たちの住む世界も他の世界の影響でどうにでもなってしまうことを実感したことなど今までなかったことと、今目の前にいる存在自体が別世界から来た者、だけでなく人間ですらない俗に言う神という存在の手先であるなどという事実をどこかで受けれられず、全員心の整理がついていなかった。


「勿論、普段は皆さん仕事や学業を優先して頂きたいのです。これは本来私と伯爵の仕事。巻き込んでしまった責任はすべて私の責任。だからこそ、皆さんが幻霊の試練に立ち向かい、次の段階に進めるように全力でサポートし、その後も一流の現霊士になって活動できるようにと考えているわけです」


 ハーネイトは響たちも含め、極力普通の生活を送ってほしいと思っていた。今起きている奇妙な事件について、あくまで本来蹴りをつけるのは自分たちであり、彼らは被害者である。その認識であった。


 巻き込んだ責任は、しっかりとる。嘆いていても仕方ない、だったらどうするか。彼の答えは既に出ていた。

 

 問題は、能力者全員が被害者とさほど思っておらず、ハーネイト達をかなり慕っていたことにこの本人がどこか気付いていないことであった。


 彼は、どこかズレている。自分のしたことなど大したことない、罪を償うために動いているだけで、褒められることなんてないとやたら自身の評価を低く見ている。


 しかし、周りからすれば彼の行動は救済であり、事実誰かを助け幸せにする良き行動である。その差にいまだ気づけていない、というか自身の力を恐れどこか逃げている彼はこのままだと、どこかで詰まって動けなくなる可能性があった。


「事態が深刻すぎやしないか全く。ならば大人たちであるこの私が参加せずにいられるか。生徒たちだけに任せてはおけん」


「それは、この俺も同じだ。信じがたい話もあるが、事件自体は実際にこう起きているわけだからな」


「そうよ、私だって……それを聞いて知らないふりはできない。出来ることは限られているかもだけど、それでもベストは尽くしたいなって」


 3人とも、事態が深刻であることを重々理解したうえで、できることについて協力したいと申し出たのであった。


 少なくともこの目の前にいる若者は相当な存在である。人の形をし言葉もしっかり話すが人ならざる存在。けれど敵対するどころか守ろうとしている。共に行動すれば、彼の真意と事件の結末を知ることができるかもしれない。3人は言葉を交わさずとも同じ気持ちであった。

 

 ハーネイトはその熱意をしっかり感じ、決意の固さを理解した。その上で、今言ったことは響たち学生には言わないようにと言ったその時、事務所のドアが開き、大和が手にケースを持ち入ってきた。


「大和さん、送迎の件はありがとうございました。何かありましたか」


「気にするなハーネイト。んで、亜里沙ちゃんから聞いたと思うが宗次郎さんがいくつか依頼を持ち掛けてきた。もれなく余裕だと思うが一応リストを置いておく。それと金以外の物質もあれで作れるよな?」


 大和が机の上に置いたケースの中にはいくつもの依頼に関する書類が入っていた。その一つには創金術でアイテムを作ってほしいというのもあった。


「ならばこれらをある程度作ってほしいのだ。換金すれば高値で今売れるのを探してきた。相場を崩さない程度の量を作れば、どんどんお金を手に入れられるわけだ」


「あ、ありがとうございます。助かりますよ」


 大和はわざわざ希少鉱物の相場を調べて、どれを創金術で作り市場で売ればお得かを代わりに調べていたのであった。それについて感謝したハーネイトは田村たちに対し大和を紹介した。


「彼は鬼塚大和という、私の活動を支援する者だ。一応能力に目覚めている。いつもいい仕事の話を持ってきてくれる人だ」


「こちらもいろいろ礼を返さねばなとな。にしても、また俺たちと同類……って君は綾香さんか」


 大和はソファーに座っている3人を見た。そして綾香の顔を見て声をかける。


「あの時のおじさまではないですか」


「一体何があったのだ……俺にも詳しく」


 ハーネイトは事情をまだ彼に説明しておらず、大和も実は昨日春花に戻ってきたばかりで何があったのかを話す。


「済まない、四国の方へ行っていたのでな……。それと、来たのだな先生たちが」


「そうですよ、大和さん」


「お前は、怪しいオカルトライター鬼塚大和……!」


「その通り名で呼ばれるのは久しぶりだな」


 大和は笑いながら頭を書きやれやれだと言わんばかりにそういい、ハーネイトにお土産の讃岐うどんのセットをプレゼントした。


 箱を開けてみたハーネイトは、故郷であまり見慣れない食材を見つめながらも後でどう食べようか、料理長に話を聞こうと考えて少しにやけていた。


「ハーネイトさんか、この男は胡散臭いぞ」


「そう?……色々助かっているが」


「俺もこの男に助けられたのでな。先ほども言った通り恩を返しているだけだ。息子も、彼と息子の友達がいなければ命が危なかったのだ。それと又取材の仕事が来ているのでこれで後にする。四国の方で、奇妙な生物が目撃されているとな」


「気を付けてくださいね大和さん。何かあれば連絡ください」


 大和は笑顔でそう言いながら用事があると言って事務所を後にした。その後ハーネイトは話を本題に戻す。もう一度3人の答えを聞こうと彼は思っていた。


「で、話の腰を折って申し訳ない。返答は、YESでいいのですね?」


「ああ。俺より年下の連中までああして戦ってやがるのに……俺も参加させてもらう。知ってしまった以上は、な」


「生徒たちだけに危険な目を合わせる大人がいるかという話だ。時間の都合がつくときは、全力で戦おう」


「勿論よハーネイトさん!見て見ぬふりなんて、できないに決まっているじゃない!」


「ありがとうございます皆さん。少しでも、あれらと戦える力を持つ人を私たちは探しています。別件の方も人手不足でして……是非とも歓迎します」


 改めて確認したハーネイトは、3人を手厚く歓迎するといい、今からホテルの中を見回らないかという彼の提案に乗ることにした。


 それからハーネイトら4人はしばらくホテルの内装などを見た後レストランで食事を楽しみ、給与や福利厚生などの話をしてから彼に見送られる形で3人はホテルを後にしたのであった。

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