第51話 教官となるハーネイトの仲間たち


「これで設置できた。しかし向こうへのリンクを繋ぐのが難儀する。ここからが問題だ……始めるぞ」


 ハーネイトは作業を一通り終え、最後に部屋の壁にとある鏡をゆっくりと設置した。


 すると紫色の光渦巻く門が徐々にその鏡面に映し出され、異界空間への入り口が開かれた。


 彼はこの中にある空間で響たちを修行しようと考えて計画を立てていた。亜里沙が言っていたように、異界空間以外でハーネイトたちが力を振るおうものならば想像もつかない事態が起こる。


 前々から彼らはそれを踏まえて修行場所を考えていた。自身も力を取り戻す過程で色々戦技の調整を行いたいため、この空間を設置することは非常に大事なことであった。


 だがそれが進まなかった理由があり、この修練の部屋を置くにはある程度の面積があり安定している土地が欠かせない。


 前にいた事務所では設置できる部屋がなく、仕方なくハーネイトは、響と彩音を屋上で手合わせし実力を確認したという事情がある。その時も2人は周囲への影響を抑えるためとてつもない手加減をしていたのであった。


「共調率11%、12%……あとは向こうとのリンクが確立すれば、自身の能力を用いて常時接続が可能に……」


 ハーネイトは机に置いた計測用のPCから目を離さず、数値を計測していた。


「非正規にこじ開けた亀裂や、異界化とはわけが違う。これは女神代行の特権で、第3世代以降の神造兵器にしかできないこと……これくらいは使わないとな」


 そう思い、彼は集中し向こうの世界であり故郷であるフォーミッドへの道を繋げようとしていた。


「99.5、99.7……100%!……はあ。これで無事に接続できた。さあ、確認しようか」


 ハーネイトは接続した後にその鏡の中に足を踏み入れた。そこは青ではなく紫色の電子空間とも呼べる場所であり、彼の視線の向こうから、何者かが数人こちらに向かってやってくるのを目に捕らえ、彼らを歓迎したのであった。


「お前ら、ここまで来ていたのか」


「へっ、ようやく出番か、女神代行さんよぉ。暴れたくて体がたまらねえ」


「少しは落ち着きなさい、ブラッド」


 ハーネイトに対し最初に声をかけた、赤く燃えるような長い髪を徹底的にワックスで固めた長身の若い男が血気盛んな様子でそう言い、隣にいる若い女性になだめられていた。


 この男の名前はヴァラフィア・ハイスヴァルヘン・ブラッドバーンと言い、歴戦の霊量士である。かつて敵同士戦った経緯があるものの、ある事情で敵に操られていただけであり後に仲間となり今に至る存在である。


 苛烈にして激情的な焔の使い手であり、具現霊カグツチは超攻撃的な具現霊である。性格もこの通り非常に好戦的であり、3度の飯より戦いというのが彼である。意外な一面として裁縫や作物栽培が得意というらしい。


「てことで、新たな霊量士の誕生を祝って私が来たわよハーネイト!」


「リリエット、よく来てくれた。現霊士たちの指導の方はよろしく頼む」


 ブラッドの隣で彼を落ち着かせようとする、白いミニスカートに蒼いジーンズ生地で作られた半袖の上着を纏う茶金髪でショートボブの若い女性はモモノ・リリエット・ファルフィーレンという。

 

 一見少女のようにも見えるが20代後半で、彼女は霊量士の中でも最も先生向きであり開花能力を持つ、ハーネイトが道場で剣術を学んでいたころに出会った幼馴染である


 。霊量子を無数の花弁刃にかえて攻撃するとても恐ろしい霊量士であり、具現霊は桃色輝夜紅姫及び花騎士ロザティアである。


 また、彼女は元々地球人でありフランスに住んでいたというが転移に巻き込まれ、ある男に拾われ行動を共にしながら、ある力の秘密。つまり霊量子の力を知り、独学で身に着けた天才でもある。


 彼女こそ、現在観測されている人間で霊量士、現霊士になった初めての存在とも言えるし、霊量子に関する用語がフランス語メインなのかも実は彼女に起因するという。


「他にも何人か連れてきたわよ。てかユミロずるい」


 リリエットは少し不満そうな顔をしながらも、久しぶりの再会を喜んでいた。ハーネイトも同じであり、軽く抱き合っていた。一方で先に異世界の風を感じたユミロがうらやましいとも言っていた。

 

「そうですよ、私も異界観光を楽しみにしておりましたのに。まあ、それどころではないのでしょうね……ぐすっ」


「シャックス、手前はいっつもぶれねえな。まあ、ガキどもを鍛え上げてやっぜ」


 ブラッドに似た髪色だがそのまま髪を伸ばし、背中には変わった紅蓮の巨大な弓を背負った糸目の男はシャックス・ファイオイネン・ヴァリエット、黒地に花柄の服を着た、幾つも槍を腰に身に着けた茶短髪の男はボガーノード・シュヴェルアイディック・イローデッドというとても名前が長い霊量士である。


 この2人は幼馴染であり、共にDGに属しハーネイトと敵対していた過去がある。


 しかしハーネイトの力量と器、人柄と雰囲気を見て、彼こそが次世代の霊量士の王にふさわしいと判断し寝返った経緯がある。ハーネイトから見てもこの2人曰く、頼れる熟練の戦士であり重要な戦力として位置づけられている。


「……来たぜ、師匠。久しぶりっすね。へへへ、リシェル!これより作戦に参加します!」


「ヴァン、これより任務を開始する。さあ、敵はどこだ」


「来たわよ。ハーネイト、寂しくなかった?この天才魔女が来たからにはもう大丈夫なんだからね!」


 さらにその後ろから声をかける3人がいた。これで最後のようだが、この3人がかなり特殊でまず背中に巨大な銃をいくつも背負ったとんがった髪とジーンズ革ジャンをきた若い男がハーネイトに挨拶をした。


 彼はリシェル・トラヴァコス・アーテンアイフェルトというハーネイトの腹心の一人であり魔銃士である。


 とにかく狙撃の天才で、50キロ先の目標も射抜く実力を持つがそれだけでなく、重火器と早打ちも極めた銃器のプロフェッショナルと言える。ハーネイトの苦手とする超遠距離戦にて彼は無類の強さを誇る。


 その隣で手にしていた2丁拳銃を腰のホルダーに直し、崩れた髪を手で直しながらクールに決める男がヴァン・プラフォード・レーゲンという霊量士であり、幾多の精霊を具現霊とみなし操るとても特異な存在である。


 精霊と協力し、荒ぶる地霊を元に戻し自然災害を抑えることができるとても便利な能力持ちであり、自然を守るレンジャーとして活躍してきた。


 最後に、青色のワンピース様な、腰にポーチや召喚管を差した茶髪の余裕ありげな女性がドロシー・ステア・ミカエルという魔女である。そう、魔女。彼女は霊量士というにしてはあれだが、大魔法の天才であり、今回ある実験をするためにわざわざ連絡し来てもらったという。


 元々はハーネイトが属していた魔法協会と敵対している魔法組織「魔女の森」のメンバーであるが組織の垣根を越えて彼女はハーネイトと共に魔法研究を行っているという。といっても最初の出会いはよくないものだったという。


 いきなりこれだけの人材を呼び、遠路はるばる来てもらったのには理由があった。


「何とか、な。事前に通信で説明したとおり、例の事件がここでも起きている。既に被害者がそれなりに出ていてね。その中にはある新しい怪異に命を奪われ、ある計画のために利用されてしまった者も少なくないのだ」


「師匠、一つ思っていたんですが異世界でここまで活動する意味、あるんですかねと俺は思うんすよ」

 

 リシェルは少し不満そうに、わざわざこの人数で来ることもないし、今のところ特に重大なことは起きていないのではと指摘するが、ハーネイトたちが遭遇した存在や血徒の影についての話を聞くと考えを改めたのであった。


「危険な芽は早めに潰した方が、後が楽だからだぞリシェル。それに放置しておけば将来、あらゆる世界の融合や異変が起きてしまう。今回はたまたまこの地球という世界で起きているだけで、どこでも起きうるわけ。というか血徒の影がちらついているんだ、そうなると尚のことやるしかない。血徒を、私は……」


「そうでしたね師匠……なんでこんなことが、こんなんじゃ師匠は永遠にゴロゴロできないぜ」


「気遣いどうも、リシェル。だけどやるしかないんだ。皆、力を貸してくれ、どうか頼む」


 ハーネイトきってのお願いに、誰も断ることはなかった。これが彼の人望と言うべきか。この人たちは全員ハーネイトを慕っているため士気も高くこの人員だけでも相当恐ろしい戦力である。


 最も、直属の部下4人こと、ミロク・ソウイチロウ、ミレイシア・フェニス、シャムロック・ガッツェ、サイン・シールシャルートが来た場合さらに恐ろしい事態が起こるらしい。


「いいわよ、少しでも同じ力を持つ人を集められるのはいいわ」


「例の霊量子で魔法を再現するの、私も興味あるわ。元協会メンバーに知られたら面倒だけど、そこんところは弟君が色々ねじ伏せるんでしょ?」


「俺たちは平常時は何してりゃいいんだ大将、観光でもしていていいのか?」


「美術館や図書館に行きたいですね私は。わくわく」


 全員が協力姿勢を見せ、ボガーは何をすればいいか質問しシャックスは相変わらずマイペースな感じでそう話しニコニコしている。それにハーネイトはこう答えた。


「基本的には自由行動だが、Cデパイサーで通信があった時はそれに従ってくれ。後目立つ行動はマジでやめてくれ」


「分かったわよ、でも私も観光したいわ。日之国のルーツ、しっかり見ていきたいね。南雲たちも呼んでくればよかったのに」


「あいつらは諜報任務があるからな。それと街中を見るのはいいけど現地の人の服装に合わせてねミカ姉」


「わかっているわよ弟君?」


 仲睦まじい様子でやり取りをするミカエルとハーネイトだが、最初の出会いは敵同士であった。正確には勘違いが生んだものであったが今では義理の姉弟のような感じで仲良くしている。


「んでよ、このホテルだっけか、ゲーセンあんのか大将」


「2階の遊戯コーナーにあるが、まだ種類が少ない。宗次郎さんに相談しておくが」


 更にブラッドはそう質問し、ハーネイトは相談しておくと言うと彼の顔はとても嬉しそうに二カッと笑う。


 今回召集したメンバーの中で最も好戦的で危険なのがブラッドだが、格闘ゲームが大好きなのでそれができる場所だとおとなしく、後輩への面倒見もいい方ではあるので呼ぶことにしたのであった。


「おう、それがあれば満足だぜへへへ。仕事ん時はいつでも呼び出しな。仕事はきっちりやるからよ」


「すまんが大将、俺らは食事をしたいのだが」


「分かったボガー、案内しよう」


 全員の質問にそうして答え、ハーネイトは施設の地図を渡してからブラッドたちを連れゲートを出て、すぐに亜里沙も呼び一緒に案内することにした。その少し前に、地下室に響と彩音が訪れていた。

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