第50話 修練場所は異界空間の中?



「しばらくここから出られないが、伯爵が代わりに伝達や指示を頼む」


 亜里沙に指摘された日の夜、ハーネイトは地下2階にある部屋の1つの中で何やら準備をしていた。


 何やら見慣れない機材を幾つか設置し、地道に装置の調整を施していく。伯爵とリリーも手伝いながら、3人は何かを構築していた。その光景を亜里沙は部屋の入り口のドアから観察していた。


「しゃあねえな、それの設置はお前さんじゃねえといけねえしな。んじゃ後は任せたぜ。後飯と休息はちゃんと取れよな」


「ああ、そうだな。ではしばらく任せたよ。もし現実世界で彼らを鍛えようものなら、こと如く全ての地を更地にしかねんからな、主に私のせいで」


「俺様もうっかりやらかしたくねえしな。へへへ。根詰めんなよマイバディ」


「ああ、伯爵」


 そう、3人は例の修練部屋を作るため作業をしていたのであった。異界空間内のごく一部の場所を借り、そこに入って戦闘訓練などを実施すれば周りへの影響をほぼゼロにしていつでも訓練できるようになるという。


 のだが、なぜこう面倒な手順で修行場所を作ることを決めたのか。それは教官として相手するハーネイトと伯爵が規格外すぎて並の空間ではすぐ破壊してしまう、それが理由であった。


「……本当にハーネイト様と言い、伯爵様と言い規格外にもほどがありますわ」


「それが俺らの売り、だからな亜里沙ちゃーん」


「ノリが軽いのも仕様ですか?」


「それは昔からの彼の性格です、亜里沙さん」


 亜里沙は呆れながらも言葉を返し、リリーの言葉を聞いて確かにそのような感じがすると思った上で、伯爵とリリーの関係について思ったことを口に出した。


「フフフ、本当に2人は仲が良いのですね」


「そうよ、本当に波乱万丈の人生ってこういうのを言うのかしら」


「リリー、そして相棒と出会わなかったら俺は世界を滅ぼしていた。大マジだぜ」


「そこまで、ですか……えっ」


 2人の話を聞いた亜里沙は、驚きを隠せなかった。彼らがどんな人生を歩んできたのか、それを聞いた彼女は2人が悲劇の連続から立ち直った強さに興味を抱いていた。


「今こうして世界を維持できているのも、奇跡の連続なのさ。それを有難く噛み締めて、戦いに挑んでくれればそれでいいぜ」


「世界がこんなに、不安定で不確かなもの、貴方たちと出会うまで意識すらできませんでした」


「大体の人はそういうものですよ。気付いた人たちが、先に一歩進めるだけです」


 亜里沙の率直な感想に、ハーネイトは優しくそう言い、気づいたものの責務なだけだとアドバイスした。


「……正直、気づかなければそれはそれでよかったのかなと思います。でもそれは間違い、なのでしょうね」


「うーん、どうだかな。気付いた奴がやればいい、それでいいさ。さてと、俺はみんなと遊ぼうかね。ついでに漫画でも買ってくるかニヒヒヒ」


「あまり気負いすぎても思うように動けなくなるわ、ハーネイトを見ていれば分かるはず。自然体でいきましょ、亜里沙さん」


「私も、もっと腕を上げないとですね……」


 亜里沙はそう思い、部屋に戻ると碧銀孔雀と共にしばし瞑想したのち学校に向かったのであった。

 

 一方でその頃響たちは、駅の近くにあるファストフード店に集まり話をしていた。作戦にまだ参加できない五丈厳たちと共に、任務の内容について話をしているようであった。


「んで、どうだったんだ?その亀裂の中ってのはよお」


「中は危険な呪いで、汚染された地面と人の魂を刈る化け物だらけだった」


 勝也は昨日作戦に関わった響たちに対しそう質問した。響の言葉を聞いた彼は少し恐怖を感じるもすぐに吹き飛ばし、早く戦いてえといった表情を見せていた。


「聞いただけで怖いわね、彩音」


「私たちはそれをきれいにしてきたのよ間城ちゃん。この前のようなグリガーって奴みたいなのがいないだけましだったかなぁ」


「神の気運……か。なんだか現実感ない話だ。いや、今起きていること自体があれだな響君」


「現実感ないのは誰だって同じだと思うよ時枝」


 間城と時枝も響の話を聞いて怖いと思いながらも、どこかでいまいち現実感の湧かない話だなと口に出す。


「んにしても数日間兄貴は何するんだかな」


「メール見てないのかよ」


「メールだぁ?ん……何だって、修業場所を作るのが理由か、そりゃいいぜ、なら仕方ねえ」


「しかしあの大ホールじゃダメなのか」


 翼はハーネイトが数日参加できないという話を聞いて理由を尋ねるも、響の言ったことにハッとしてCデパイサーの画面をのぞきメールを確認した。その理由を見て笑っていたが、何故場所を選ぶのか疑問に思っていた。


「翼、あの先生たちの実力はもはや理不尽の極みだろ?2人が外であれを使ったらそれこそ災害だぜ。だから暴れても問題ない場所で、俺たちを鍛え上げるんだろう。周りを非常に気にしているのは見ていたら分かってくる」


 響と彩音は、初めてハーネイト達と出会った時、2人とも彼らの尋常でない力に腰を抜かしていた。それについて述べてから、先生たちが自分たちを指導しやすい場所を自身らで作っているのだろうと考察し話した。


「んだな、っとそろそろ時間か、俺はサッカーの練習あるから先に出るぜ」


「ああ、気を付けてな翼」


 それを聞いた翼は確かにそうだなと思いつつ、店の壁掛け時計を見ていた。するとそう言い翼は会計を済ませ店の外へ飛び出していったのであった。


「俺もバイトの時間だ。まあ、あの先公たちが場所作っている間に俺は基礎練でもするぜ」


「後でジム寄ってけよな勝也」


「言われなくてもわかってらぁ。あー、早く戦いてえなあ」


 九龍と五丈厳はそうやり取りし仲の良さを見せる。そして先に彼が席を立ち一言言ってから会計を払いバイト先に向かうため店を出たのであった。


「勝也君、意外と真面目?」


「ぶっきらぼうと言うか、一匹狼みたいな感じで見た目だけ見ると怖いけどな、根は仲間思いの不器用な奴だぜ」


「確か幼馴染だったよね鮮那美ちゃん?」


「そうだぜ間城。あいつも一時期は魂の抜け殻みたいになっていた。だけど、大分昔の勢いというか覇気を取り戻してきたって感じで嬉しいぜ」


 彼女らはそう話しながら、しばし話に花を咲かせていた。昔の五丈厳を知る九龍は、友人を亡くしてから別人になった彼のことを陰ながら心配していた。


 しかし今の彼は昔のような、それでいてよりこなれてきた様な感じに見えて九龍は嬉しそうにしていた。


 そんな中ハーネイトはホテルの地下で修練部屋につながるゲートの設置を黙々と行っていたのであった。

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