第31話 血を統べる第2の神造兵器と女神代行の任務


 伯爵たちが去った後、彼らは少し歩き小さな公園に足を運ぶ。翼が報告のため再度ハーネイトと連絡を取り合っている中、他の4人は話をしていた。また事件現場はハーネイトが跡形もなくきれいにしたという。


 そうしなければ、今起きている問題よりも恐ろしい事件が起きるからであり、ハーネイトは警戒色を強めていた。


「そういう経緯で、俺たちも、響や彩音のように、力を手に入れたわけか……」


「あの事件、また起きるかもって本当なの?こんな豊かな町が、住めなくなるの?」


「もう起きている、のかもしれないわね璃里ちゃん」


「だから俺たちは先生、てか師匠に鍛えてもらっているんだが……」


 

 その会話中に、響は自分たちが異界空間という領域に引きずり込まれたことや怪物に襲われたところを助けられ、事件の真相を知るために手伝っていたことなどを全て話した。


 すると彼の言った言葉に時枝が強く食いつく。間城も同様に、彼の顔を真剣に見つめていた。


「何か、彼らが好むものはあるか?響と彩音さん」


「あやちん、私も仲間に加わりたいよ。私なら手に入りづらい情報を手に入れやすいし、ゲーム友達とかオタ友とか交友関係広いし。事件の話も聞きたいよ。後、例の事件の情報仕入れてきたわ」


「え、ええと……とりあえず一旦落ち着いてから!事務所に行こうね?」


「そうだぜ、何せ師匠は意外とおっかないところあるんだからな」


 4人はその後も話し続け、結果的に近いうちに伯爵が教えてくれた事務所に行こうということで時枝と間城は予定を立てる。


 そうしている間に、事務所に戻ったハーネイトはわずかによろめいた。部屋の中にゼノンがソファーに座っており、異変に気付くと彼に近寄って気遣いながら声をかける。どうも胸を左手で抑えているようであり、端正な顔が苦痛で歪む姿を見て不安になる。


「大丈夫ですかハーネイトさん?」


「ゼノンか、まあまあだ、な」


「少し顔色悪くない?」


「そう、か?」


「ええ、無茶しているんじゃないんですか?」


「大丈夫、だよ。それに休んでいる暇がない」


「ったく、皆をまとめる貴方が倒れたらどうしようもないわよ。リーダーなんだからしっかりしなさいな」


「そう、だな……その通りだ。っ、そうだ。1つ聞きたいことがあるんだ」


「どうしたのよ」


「先ほど、響たちが会敵した敵について何だがな、どうも実体のある敵の様でね」


 ハーネイトはゼノンに、先ほど会敵した魂食獣のことを話した。あれは明らかに実体のある物質として存在していた、それと告げると聞いたゼノンの表情が複雑になる。


「見たこともない魂食獣、いや、魂食獣のようでそうでなくて……。それは別世界から来た流れ者、侵略者かもしれないわね。魂食人、もしくは憑鬼のどちらかと思ったけど……」


「なんだそれは」


「恐らく霊量士及び現霊士の成り立ちと関係があるでしょうね。この前の説明を聞いて思ったの。幻霊を受け入れられず乗り越えられなかった人はどうなるのかって。それで観察していたら分かったの」


 ゼノン曰く、幻霊とやらに支配されてしまい廃人になっただけでなく外見まで連動して影響を受けたのが魂食人で、悪霊鬼という非常に危険な悪霊が人や機械などに取り付いたのが憑鬼であることをハーネイトに説明した。


 しかし、彼の話を聞いた限りではそうとは言い切れず、彼女も悩んでいた。


「っと、通信だ。……何?あの現場に血徒が?やはり痕跡を消しておいてよかった。感染したら殆どの生物は一撃でアウトだからね」


「どうしたの?血相変えて」


「伯爵から連絡があってな、もうすぐ戻るが先に知らせたいことがあるって。それがな……」


 大きくため息を吐いてからハーネイトは、ゼノンに対し今聞いたことを話し、追っている危険な組織のことについて話をする。


「そんな敵がいるのね。うーん、取り付くのが得意っていうならさっき言った存在に紛れ込んでいるなんて話もあり得るわ。てか、私たちの追う存在より怖くない?」


「ああ、私の大切な人をすべて奪った存在だ、怖いよ。しかもそうなら余計厄介なんだけどなあ。フォーミッド界でも奴らは多くの命を奪っている。ただ神出鬼没な上感染者を容易に増やせる吸血鬼みたいってのが非常に厄介なのだ。極めつけに、今分かっていることは血徒は第2世代神造兵器、微世界人の集団であるという事でね」


 ゼノンはハーネイトから血徒に関する話を聞いて、それならば先ほど言った存在とつながりを持てる可能性があると考えそう指摘する。ハーネイトは、血徒に関して今知っている限りの情報を話すと、彼女の顔が一気に青くなる。


「知らなかったわ。神造兵器、ねえ。風の噂で聞いたけれど、第1世代から第4世代まで存在するってね」


「その通りだゼノン。私はそもそも第4世代神造兵器にして唯一の存在。私の部下の約3分の1が第三世代、伯爵は第2世代だ。問題は第1、つまり原初の神造兵器が行方知れずなのだ」


「行方不明?なんだかよくない話ねそれは」


「その通りだ。封印されているというが、解放されればとてつもない被害が出るとな。その存在自体も、ある巨大な物を制御するために生み出されたというが、詳細は不明だ」


 ゼノンの質問に対しそう答えたハーネイトは、改めてなぜこうして異世界や異界空間内で活動しているのか要点を抑えながら説明する。


「ということで、私と伯爵は第1に異世界浸蝕現象の解決、第2に行方が知れない神造兵器「P」及びヴィダールの神柱の捜索、第3に暴走する神造兵器こと「血徒」の全容把握と計画阻止。これが任務なのだ」


「いつ終わるかわからなそうね、うん。なんか、大変なのにさらに大変な目に巻き込んでしまっているのが、本当に申し訳ないわ」


「どのみち死霊騎士と魔界復興同盟って奴等の問題は、どこかでぶつかる問題だと思うよ。気負うな、全員でやれば早く済むわけだ」


「はい、そうですよね」


 そう2人は話しながら、伯爵の報告も合わせ新たな敵の対策もしなければならないと、彼はため息をつきながらゼノンから詳しく話を聞いていた。


 その頃、時枝と間城はまだ響たちと話をしていた。そして彩音はなぜ黙っていたのかと間城に言い寄られ、率直に心情を話したのであった。


「君たちにも、これからあの時何があったか、そしてさっき呼び出していた何かを聞かせてもらうよ。分からずじまいにいるほど、もやもやして嫌なことはないからな」


「そうよ、彩音も人が悪いわ」


「あのね、私たちは極力巻き込みたくなかったのよ。先生だって同じよ」


 彩音は今起きていることについて、ハーネイトと同様にできるだけ多くの人を巻き込みたくないからとうそを言っていた。しかし時枝も間城も、あの力を知ってしまった。もう隠しようがないなと思い仕方なく打ち明けたのであった。


「でも、もう戻れないわね。私たち」


「ああ、とにかくだ。災いは早く処理しないといけない。協力させてくれよ、響」


「……わかった。だけど無茶するな。俺だって、つい最近身に着けたからまだ力不足なんだ」


 その一方で、翼はハーネイトに対し何があの時あったのか一部始終を報告していた。既にゼノンはまた調査に行くといい、事務所を後にしていたためすぐにハーネイトは応対でき、改めて何があったのかをメモに取りながら整理していた。


「というわけで、そうして俺たちが駆け付けたわけっす兄貴。あの、あと1つ問題があるのですが」


「苦労を掛けるな。今度皆にまた食事でもおごるか。ん、どうした翼」


 翼は、響が時枝と間城に関して霊的存在により負傷した際に、霊量士として目覚めたのではないかといい、それについても話をしていた。話を聞いたハーネイトは、高校生3人と同じ経緯で潜在能力が開花したのではないかと話をする。


「なるほど、確かにな。君たちと同じ経緯で目覚めたとみて間違いないだろうが、様子見だな当分は」


「それから、その2人はあの行方不明事件の被害者で、貴方に会いたいといっています」


「……わかった。反応からそれは分かっていた。記憶操作処置もあまり効いていないのは残念だが。とにかくこちらはいつでもいいから、2人で来るように言いなさい。できれば君や響、彩音も同行してくれ。でないと事務所の場所が正確には分からないだろう?」


「そうっすね、ではその方向でよろしくお願いします」


 そういうと響は連絡を切った。そしてすぐにハーネイトはソファーに力なくもたれかかる。がしかし休む暇もなく窓から伯爵とリリーが入ってきた。


「帰って来たぜ。メールは見ただろ?」


「勿論だ、相手が相手だけに組織の全容や目的などを知るには時間がかかる。地道にやるしかない」


「ああ、秘匿を主としてきたってのが厄介だ。まあ、俺やエヴィラがいるから完全には隠せねえけどな!ったく、血徒も誇りなど、埃のように散ってしまったのか?けっ」


「みんながイメージする吸血鬼と、あれは次元が違いすぎる。だからこそ気を付けて対応せねばならない。あれは、吸血鬼の姿をした造物主の手先だ」


 伯爵は冷蔵庫からジュースを取り出し、リリーに渡すとそう話し、エヴィラという微世界人も別に調査に協力して血徒の拠点や活動に関する証拠の回収などをしているとハーネイトに話す。


 それについて彼女の身を案じながら、自分たちもやれることをやるまでだと自信を奮起させるような感じで言い聞かせる。


「本当に、面倒なことになってきた。次から次へと、本当にいらだつな。恩師の命を奪った奴等を、私は……っ!」


「相棒、少しクールにな。それがいいところじゃねえか」


「そうそう、しかし危なかったわね。大分響君たちもやれるようになってきたかしら」


「問題ないようだ。彩音の具現霊は回復技も行使できるそうでな、頼もしいね」


「そうね。でも、もっと監視を強化した方がいいんじゃない?特に伯爵は」


「俺の菌探知もずっと使えるわけじゃねえ。意識を集中しないと、正確に情報が入らないんでな。相棒も無限の軍勢、そろそろ使えよな」


 リリーも改めて話を聞き、ほっとしたもののそれでも被害者が出たことに悔しさを感じていた。伯爵も本来ならばありとあらゆるところを監視できるのだが、結構気を使う上に長時間は使えないという。


 その後彼女は、今起きている、見えないけれど起きようとしている世界の危機について思っていることを話した。


「そうよね、はあ。だけど、この世界が今、最も世界崩界、いや、それより恐ろしい世界の存在消却に繋がりかねない危険な場所であることは変わりない。そしてその過程で起きる事件が、怖いわ」


「だから、女神代行として私と伯爵がいるんだろ。任務を完遂し、安定を取り戻す」


「おうよ」


 異世界浸蝕現象と光る亀裂に死霊騎士団、ヴィダールという存在が作り出した微世界人の異端組織、血徒。解決すべき問題が山積みである彼らは、いつ任務を完遂できるだろうか。長く険しい戦いはここからさらに加速するのであった。

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