第32話 時枝と間城の加入

 事件の翌日、何事もなかったかのように響たちは学校に来て勉学に励んでいた。


 時枝と間城も特に体について異変を感じず、普通に授業を受けていた。しかし昨日までと違う面もあった。それは昼食時に共に食べる人の数が増えたことであった。


「それで、あの2人に会いたいんだが何時でもいいんだとな?」


「今日は学校終わっても時間あるわよ彩音ちゃん」


「分かったよもう。連絡しておくから2人とも」


「で、誰が事務所まで案内するのか?」


 すると教室に入ってきた1年2組の担任、田村惣一郎が響たちに対し陽気な感じで話しかけてきた。

 

「ようお前ら、青春してるか?ハハハ」


「な、田村先生」


「何だよ、何の話をしているんだお前ら、先生に隠し事などならんぞ?アハハハ」

 

 フランクに生徒に接し、相談相手として人気のあるまだ30代の国語の教師である。そして何を話していたか彼に話すと、表情を一変させながら田村は話をする。


「ああ、ここ最近起きている不可解な事件か。確かに、この前の行方不明事件も結局犯人はわからずじまいのまま、全員戻ってきたからな。んで行方不明になってた生徒に話を聞いたんだが、ある共通点があってな」


「それって、もしかして……」


「2人の美形な男と、この学園の生徒らしき誰かが助けてくれたって話だ。これは内緒だぞ?あと、紅い流星みたいなのを見ていると言うが。ああ、それは俺も見えるんだがな、ハハハ」


 響たちの嫌な予感が当たった。やはりハーネイトの技は十分に彼らにかかっていなかった。


 いや、かけたのだが元々被害者があの空間に引きずり込まれた理由に起因する、潜在的能力者の素質があるゆえに、先生の放った術ですら弾かれたのだと考えたのであった。


「そ、そうっすか。誰なんでしょうねその人たちは」


「まあ気になるはな。だが、礼を言わねばならんな。って、田村先生もあれ見えるのかよ」


 響と翼は取り繕いながらごまかしつつ、田村先生もハーネイトや伯爵たちに感謝していることだけは確かだと感じ取った。


「んじゃ、お前らも帰る時は気を付けるんだぞ。何かあったら俺が駆け付けるがな、はははは!」


 田村はそういうとその場を離れ、職員室に向かっていった。その姿を見ながら、ばれずに取り繕えてよかったと全員は思っていた。


「しっかし田村先生は相変わらずだな」


「それよりも、まずいんじゃない?ハーネイトさんと伯爵さんのこと、ばれてない?」


「あの人たちが何であろうと、今は藁にも縋る思いだ。2人は紅き流星の調査もしている。謎を追うなら先生たちについていくしかない」


「そうね響、えーと、あれからどう?2人とも具現霊の感じは」


 彩音は二人の師匠のことについて、どの程度顔が割れているのかが不安であった。一見見た目はどこにでもいそうっぽいハーネイトはまだいい、伯爵に関しては角がどうしても目立つのと常に空中浮遊している点が人でないと認識されやすい点について、見た人が何か勘違いしそうだと思っていた。


「……別に可もなく不可もなくだ。ただ、明らかに俺の中に、あのミチザネというものがいることは確かなんだ」


「アイアス……本当に、死んだ弟が帰ってきたみたいで、嬉しさと複雑さが一緒な感じね」


 時枝も間城も、目覚めた力に困惑している様子であった。また間城はそれ以外に別の声も聞こえると彩音たちに話した。それは間城の友人である海原星奈(かいばらせいな)のことであった。


「星奈って、お友達さん?」

「そうよ、今は入院中だけどね。ずっと意識が戻らないの。それ以外は何ともないのに」


 間城は、幼い時からの友達である星奈について簡潔に話をする。何でも去年から意識を失い目を覚まさない状態であること、そして脳には全く異常がないことを説明する。更に例の行方不明事件以降、その星奈の声もかすかだが聞こえていたことを明かした。


「そうなのね……もしかして、何か伝えようとしてるんじゃないのかしら」


「そう?……でも、そんな感じがするかもって」


「今度その星奈っていう子の病院に行ってみるか。何かあるかもしれない。彼女も、確か紅き流星を見ていたと話してくれた」


「そうよね、よくお見舞いには行っているんだけど……。もしその流星を見て、何かあったとしたら、怖いな」


 もしかすると、長い間病床で臥している彼女の身に何か危険なものが迫ってきていないか、そう考えると間城はいてもたってもいられなかった。その中で昔から星奈が霊感が強いとは言っていたということを思い出し、どうにかしなければという思いが間城の中で強くなっていく。


 また、彼女はよく夜空を見るのが好きであり、その中で地球に迫っているような赤い星を見つけていたことを間城は思い出す。

 

「しかし、なぜ今になって弟の声がするんだ。間城もそうだ、何かがおかしい」


「真司、それはあの事件とかかわりがあるかもしれない」


「俺たちがさらわれた事件か、何故だ」


 響たちは自分たちがなぜそうして力を手に入れたのかを詳しく時枝たちに話した。それを聞いた時枝はすぐにその理由が何かを理解できた。

 

「俺たちの中にある眠っていた力が目覚めたってことか、お前らもか?」


「そうみたいだ。それで、あの緑髪の人はその力を制御するための術を知っている師範だ」


「そうだったのね、てことは会わないといけないわ、本当に」


 真相に迫れるなら、もう後には引くものか。二人の決意はとても堅かった。けれど彩音はあることを伝えなければいけないと思い2人に話しかける。


「あとね、一つ言っておくけどあの人たち結構スパルタよ。技術を的確には教えてくれるけど、実践あるのみだってもうすごいんだから」


「それは脅しかい?彩音さん。この俺の知識欲に火をつけたんだ、それくらいで止められると思うな。流星の謎も、事件の謎も解き明かしてやる!」


「彩ちんが耐えられたんなら私は余裕ね」


「璃里、それはどういう意味かな?」


 間城の発言に、彩音は額をピクリとさせ怖い笑顔で彼女に詰め寄る。彩音と間城の付き合いはそれなりに長く、よく遊びに行く間柄ではあるのだが一つ問題があった。どこか似た者同士であるため、たまに喧嘩になりそうなところがあるところである。


「おいおい、喧嘩はよそうぜ、なあ?」


「ふん、絶対私の方が強くなってみせるもん」


「それなら私の方が強いわよ」


 そう言いあいながら2人はジーっと睨み合っていた。彩音と間城は見た目や雰囲気、性格や趣味こそ違えど、共通点として相当な負けず嫌いであることは確かであった。

 

「しかし、あの2人。この国の人間、いや。人であるかどうかあれなのだろう?」


「え、そうなの?あのハーネイトさんだっけ、なんか異常に強い人間でしょ?」


「あの顔つきも整いすぎるというか、しかも話す言葉は流ちょうな日本語だが、ところどころ癖がある。それとあの角男、もはや完全に人じゃないだろ」


「それはそうだな。鬼というか、それ以上に無敵で理不尽な強さを持つ存在かな」

 

 ハーネイトの顔や雰囲気から、時枝はどう見ても日本人には見えず、欧州系の血を引いた高貴な一族の家系にも見えるし、それよりも恐ろしい何かかもしれないと分析していた。


 実際は全く違うのだが、それでもハーネイトの師匠にそういった存在がいたためそれの影響を受けていることをなんとなくでも見抜いた彼の眼力はなかなかのものであった。

 

 だからこそ時枝はどうしても、あの時に出会った2人が気になってしょうがなかったのであった。どう見てもおかしい。だけど自身らを助けてくれた。一体何者なのだと興味が尽きなかった彼は、もう一度会いたいと願っていた。


「それじゃ、今日の18時に校門前に集合な」


「ああ、分かった」


「楽しみだわ、フフ」


 そうして彼らは昼休み中話をし、午後の授業も受けて部活に励んだ後全員で校門の前に集まった。


「ふああ、さすがに疲れたな。さて、お待ちかねの時間だ」


「あのイケメンさん、彼女いるのかしら」


「全員いるな。さあ、行こう」


 響が主導となって全員を確認し、中央街にあるハーネイトの事務所に彼らは足を運ぶ。その途中で彩音は3人のために和菓子を幾つか買っていく。


「気に入ってくれるかなあ」


「伯爵曰く、ハーネイト先生は甘党らしいからな」


「だといいけど」

 

 そう言い、彩音はいくつかお菓子を手提げ袋にぶら下げながら先を歩く。しばらくハーネイトと行動を共にしていて分かったことがある。


 人間離れした戦い方をする一方、それ以外では至って年相応に見える1人の優しいが奇妙と言うか天然な一面のある青年ということであり、甘い物と辛い物を好み、苦いものとお酒を大の苦手とする所や、昼寝をするのが好きだと言った点などから意外な一面を理解し、そのギャップを好んでいたのであった。それは響も同じであった。


「あー本当にドキドキするわね」


「それはどっちの意味か?間城」


「もう、いろいろ合わさってドキドキなのよもう」


「す、すまん。確かに俺もだ。怖いが、好奇心もある」

 

 そうして、約10分ほどかけて中央街の事務所まで彼らは足を運び、エレベーターで4階まで上がり、事務所の扉をノックし返事を確認してから、先に響と彩音が部屋の中に入る。


「ハーネイトさん、例の2人を連れてきました」


「学校、お疲れさま。さあ、みんな入って」

 

 ハーネイトは窓際の席で優雅に座りながら、笑顔で応対しソファーに座るように彼らに話しかける。


「そこのソファーに座りなさいな。何か飲むかい?っても、コーヒーとジュースくらいしかないが」


「……コーヒーを一杯、ブラックで」


「私はジュースでお願いします」


 そうしてハーネイトはすぐに飲み物を用意し、静かにテーブルにそれを置くと自身も対面に座り、ふうっと息を吐いてから話を始める。


「はい、どうぞ。しがない探偵事務所だが、ゆっくりしていってくれ」


「……俺は、この雰囲気は好きですよ」


「落ち着いていて、いかにもって感じだわ」


「そうか、それで響たちはどうする?」


 2人は事務所の中を見ながら、落ち着いた雰囲気がいいとそれぞれ口にする。ハーネイトは響たちにも飲み物を用意しようとすると、彼らは街内の調査に行くと彼に告げる。

 

「今から調査の方に行ってきます。鬼塚さんが気になる情報を持ってきたようで」


「それはなんだ」


「どうも街中で不思議な女の子がいるって目撃情報があるとか」


「そうか、ゼノンたちと同じ仮面騎士かもしれない。気を付けて調査にあたってくれ」


 その情報はもしかするとゼノンの仲間かもしれない。慎重に事態にあたるように彼らに伝え、何かあればすぐに連絡するよう指示を出し響たちを事務所の中から見送ったのであった。


「……あの、貴方の名前はハーネイトさんで間違いないんですよね?」


「そうだ、ああ。我が名は、ハーネイト・スキャルバドゥだ」


「ハーネイト、如何にも外国から来た感じですよね」


「まあ、そうよく言われるが」

 

 ハーネイトのフルネームを聞いて、それから2人は本題の、気になっていることについて質問をし始めた。そして互いに自己紹介をする。


「俺の名前は時枝真司。響と同じクラスだ」


「私は間城璃里よ。よろしくお願いしますね」


「時枝に間城か、覚えておこう」


「それでハーネイトさん、彩音たちとどこで知り合ったの?」


 間城は早速自身が気になる話題を切り出した。それに少し困惑するハーネイトだったが終始丁寧に、何があったのかを静かに話した。


「……それか。知り合ったも何も、響と彩音がある空間に引きずり込まれ怪物に襲われててな、助けに入った時だ。けがの治療もした」


「え、ええ?それって本当に命の恩人じゃん彩音たちの。あ、ありがとうございました、彩音を助けてくれて」


 本当に、この男が響と彩音を助けてくれたのだと間城は思わず深々と礼をした。それに対しハーネイトは気軽に言葉を返す。


「気にするな、それも仕事だ」


「俺からもだ、俺のライバル、いえ友を助けていただき、ありがとうございました」


「フっ、一応礼儀はわきまえているか、最初は何だと思っていたが、まあいいか」


 ハーネイトは2人から礼を言われ、顔を少し隠しながら微笑み2人の方を見てから彼は話しかける。


「それで、君たちもどうやら、こちらの方に足を踏み入れてしまった、いや、踏んでしまったというわけだな?響から聞いたが、あの化け物に打撃を与えたと」


「あの、包丁を持った醜い鬼のことっすか」


「そうよ。正直びっくりだけどね」


 ハーネイトは彼らも響たちと同じ道を進んでしまったのかと思うと複雑な感情を抱かずにいられなかった。感じる力さえなければ、あの罠に嵌ることも、力を身につけなければならないこともない。それがもどかしかったのである。


 その中で2人が守護霊装こと、具現霊を呼び出したのか経緯が気になり、改めて情報を整理するために事情を聴く。


「良かったら、それを見せてくれるかい?君たちを守った守護霊とやらを」


「呼び出すって、どうすれば」


「心の中で念じて、祈るんだ。最初は時間がかかるだろうが」


 2人はハーネイトの言うことに従い、胸に手を当てあの時呼び出した具現霊をそれぞれイメージした。するとぼんやりと彼らの背後に、ミチザネとアイアスが現れたのを確認し、それぞれを観察する。


「ほら、出てきた。ふむ、確かに2人とも強力そうだ」


「はあ、はあ、何か疲れるんだが」


「そりゃ無理をしているからな、君たちは。ほら、こっちに来なさい」


 疲労の顔を見せているのも仕方がない。霊量子制御術が完全でない人が力を使おうものなら、その影響は肉体と心に響く。そしてその気の乱れを直そうと、ハーネイトは響たちに行ったのと同じように、彼らの胸元に手をかざす。


「何をするつもりだ」


「きゃあ、何するのよ?」


「あのね、こっちは気の流れを直そうとしているんだ。行くぞ」


 そうして、荒ぶる霊量子の流れを整える処置を行うハーネイト。その効果はすぐに表れた。


「はあ、はあ、っ、何だこの光は。それに、体が軽い」


「何かで包み込まれているみたい。でも気持ちいいわ」


「ほう、なかなかいい感知力だ。鍛えればより自在に呼出し命令できるさ、その守護霊こと、具現霊は」

 

 時枝は具現霊とは何か質問し、ハーネイトは席を立ち、本を一冊本棚からとり彼らの目の前でページを開き、話を始めた。


「具現霊……響と彩音、翼はその力であれと対抗していたのか」


「3人とも、あの村出身だから、暗い過去があったのかな。聞きたくても聞けそうになかったし」


「それは聞いている。そのような事件があったとはな。私の故郷で起きていた事件とは違う意味で恐ろしいな」


 一応間城と時枝も、響たちが元々いた故郷の話は知っていた。だからこそ今起きていることがあの事件と関係があると考えずには2人ともいられなかったのであった。


「それで、もしかするとこの春花でも同じことが起きるってわけじゃ……」


「残念だが、すでに起きている」


「嘘……はっ!まさかお年寄りが急に意識がなくなってしばらくして亡くなる。あの事件、そうよ、あの時と同じだわ。彩音も言ってたもん」


「だが、あの魂食獣は本来死者の魂を食らい霊界に持ち込むのが仕事のようなものだ。魂の質としてはそういうのを狙うだろうな。だが……」


 ハーネイトは今起きている異変について、一つの結論を出していた。それは魂食獣の変質というものであった。そう、死者の魂だけを回収するだけではなく、生者の魂まで削り取り、そのすべてを我がものとする。つまり本来の仕事をしていない状態でありバグが発生していることを告げる。それに途中で気づいた時枝は、顔を青ざめていた。


「それは、まだ生きている人の魂まで食べてしまうとか、そういうことですか?」


「……まあそうだ。本来と違う挙動をしているうえに、そんなに数を見ないんだ。けれどどこも普通あり得ないくらい多く出現している」


 さらにハーネイトは集めた情報について2人に説明した。異世界浸蝕現象の影響は、単に行方不明者が増えるだけでなく、別世界の脅威、侵略者も入ってきやすい状態であり、放置し続けると世界のバランスが崩れ維持自体が危うくなる。


 だから自身はそれを止めるために、仲間と共にここまで来たことを告げたのであった。


「だからおかしいと、調査をしに来たのだ。と言って元々は、別のある組織を追っている最中に気付いた現象の調査が始まりだったのだがな」


「それ、って本当なの?別の組織?」


「昨日友だった者が、今日敵となり牙を突き立ててくる。見えざる脅威をもたらす恐るべき存在。それらが集い多くの命を奪い弄ぶ。血を使い勢力を拡大するそれを私たちは血徒と呼ぶ」


「血を使う?吸血鬼か何かか?」


 ハーネイトの故郷では、村の住民が突然怪物化し他の住民を襲い村が壊滅状態になる事件がある時を境に発生していた。いや、正確にはそのかなり前から散発的に起きていたのだが実態を把握できている人がいなかった。そこでいくつかの組織が力を合わせ調査をしているときに、事件の現場付近で事件の被害者とは別に行方不明になっている人たちがいることを突き止める。それが大規模な調査のきっかけであると説明した。生存者の証言を聞いたハーネイトたちは、その悲しい経緯と犯人の恐ろしい能力に絶句したという。


「それだけならまだしもだ時枝。その血徒本体は吸血衝動などなく、感染者である子が他者の血を啜り、血を飛ばし仲間を増やす。あらゆる侵略者の中でも最悪の存在なのだ」


「5年前の、桃京で起きた事件か」


「BW事件……世界が大きく変わった大事件よね。もしかすると、犯人はその血徒っていうのかしら。聞いている限りそうよ。いきなり吸血鬼になった人たちが現れて……」


 親である血徒が、子として他の生物を微生物が大量に混ざった血で支配し、全ての命を奪う。しかも一般的に吸血鬼に効くとされる攻撃手段が全く通じない。それを知らずに攻撃し、命を落とし彼等の人形になった人間は数えきれないほどである。


 ハーネイトはそれから、自分たちの住んでいるところで起きたある事件に言及する。突然発生した血海が、数十の都市を飲み込み半月で1億人以上の命が失われたという事件。いかにその血徒という存在が恐ろしいかを彼は話していく。


「昨日の友が、愛する者が、今日死者となり襲い掛かる。それを涙をこらえ再葬しなければならない。血徒とは人の美徳と結束をあざ笑い、無慈悲に喰らう者だ」


「味方ですら、気を許すなか。……とんでもない存在がいるのですねハーネイトさん」


「ああ、そうだ時枝。そういう存在について、意識を常にしておくことだ」


 血徒に関する話をすべて聞いた後、時枝と間城は互いに目配せしてからこの地球で起きた恐ろしい事件に関する話を口に出した。


 その話は既に各人から概要は聞いていたが、詳しい内容までは全ては把握していない状態でありハーネイトはぼやくように捜査状況について話をする。


「響やその母親からもそういったことを言っていたような……。只図書館で調べてみたのだが文献や情報がろくになくて詳細を把握できていない」


「私たちなら、その情報について集められるわ。ハーネイトさん」


「僕はあの事件に関して記録をつけています。親戚から当時の現場についての写真ももらっていますので、参考になるかと」


 時枝も間城も、独自で捜査に役立つ情報を持っていると知ったハーネイトは、彼らの資質や経歴なども考慮しもし可能であれば仲間に加わってほしいと考えていた。その最中、伯爵とリリーが外回りを終えて帰ってきたのであった。


「よう、帰ってきたぜ相棒」


「あら、例のお客さんね」


 そんな中、事務所の扉がギギッと音を立てて開き、伯爵とリリーが町中の偵察から帰ってきた。


「あなた方は、って青髪の鬼と、まあ、かわいらしいお嬢さんだ。まさか、この2人もハーネイトさんの仲間というわけですか?」


「そうだ、この2人は私とほぼ互角、いや、それ以上に強いかもしれない存在だ」


「でも、どう見ても鬼人と魔法少女だよね。そういうコスプレの趣味でもあるの?」


「んだと?俺様を誰だと思ってやがる」


 鬼と言われて伯爵は時枝に突っかかる。せめて言うなら魔人とか魔王みたいだと言ってくれといいながら不満そうな顔を彼はする。


「落ち着けって伯爵。リリーもそんな顔をしない。……この2人も霊量士(クォルタード)いや、現霊士(レヴェネイター)の素質ありだ」


「ああ、それは知っているぜ。だから案内するように響たちに言ったし、名刺も渡した」


 すでに伯爵もこの二人の素質を見抜いていたため、あの場で響たちにここに来るように仕向けたと彼は説明した。


 彼らは面と向き合いながら話をその後もし続け、行方不明事件の詳細について話題が変わる。 


「ということは、力の素質がある人ほど狙われやすいというのか。光る亀裂が見えるということは、素質がある。だから近づいた者に罠を発動させるか。2段構えの狡猾な罠だ」


「ひどい罠だよね。まるで選別か何かしているようにしか見えないわ」


「それを狙っているのだろうね、全く」


 光る亀裂と罠の関係。それを知った時枝も間城も、やり方が許せないと憤る。ハーネイトと伯爵は、一度でも力に目覚めた人はまた同様の事件に巻き込まれる可能性が高い。


そこで貴重な能力潜在者が奴らに対抗できる力を持てればまず容易に命を奪われることはない。そう考えた2人は感知能力の高い、素質が十分にある響と彩音をまず鍛えることにしたことを話す。


「大規模調査に関しては元々、私と伯爵、リリーをはじめとした少数精鋭であたるつもりだった。けれど世界と世界をつなぐ境界の調査中に入り込んだ響と彩音を助けた際に、あることに気づいたんだ」


 なぜクラスメイトの2人が探偵見習になったのか話を聞いて、2人はまだ表情を硬くしていた。


あの時あんな化け物に出会わなければこんな目に合わなかったとも思えば、巻き込まれたがゆえに街に起きている異変や事件が常軌を逸した存在によるものだと分かり、少しでも何とかしなければとも思う複雑な状態であったことは間違いなかった。


「それで、君たちはどうするつもりだい?」


「どうするって、それは貴方の仲間になるとかそういう話ですか?」


 時枝はハーネイトの質問にそう答え、この先自身らがどうなるのか確認をした。恐らく彼が話したことは響と彩音、翼を除いて知る者はいない。それを知った以上何かが起こるのかもしれないと心の中で身構えていた。それは間城も同じであった。


「ああ。正直この仕事は、極力知られたくないのだ。私たちの存在がそもそもあれだからね。出来るだけ混乱をもたらしたくはないのだが……一応、もし関わりたくないというのなら保険をかけて君たちの力と記憶を封印させてもらうほかない」


 ハーネイトは二人の顔を見ながら、自分の心情を明かす。彼は今まで多くの後輩を育ててきた。その中には年上の人もいれば、幼子もいた。


誰もが無限の可能性を秘め、それぞれが求めている力を会得させるため導いてきた彼にとっては、特に若い人は自身らの戦いに加わってほしくない。そして中途半端な決意は彼らの命を散らせることになる。だから半ば脅す形でそう言ったのであった。

 

 しかし時枝も間城も、一度決めたことは諦めないし曲げない。その意志の強さを見せる。そこまで話をしておいて、関心を向けない人がいるだろうか。意地悪だと思いながらも、自分たちは自分たちのできることをしたいまでだとはっきり伝える。


「……そんなのはお断りだ。弟の死の真相も、この事件を追及する中で分かるかもしれない」


「私もよ。彩音がああして戦っているのに、友として見過ごせないわ。怪事件の真相、私も全て知りたいの」


 ハーネイトと伯爵は2人の話を聞き、瞳をしっかり見て向き合った。ああ、彼らなりに覚悟を決めたのだと感じ、肩を落としふーぅっとため息をついた後、笑顔を見せながら話をする。


「そうか、引くつもりはないのか。分かった。こちらも君たちにできるだけ協力してほしいとは思っていたのだ。素直な感じで言えなくて申し訳ない。私は私で、君たちの未来を気にしていることだけは分かってくれ」


「はい、気遣いのほど感謝します」


「優しいのね、ハーネイトさんは」


 ハーネイトは皮肉な物言いやさり気に脅すような発言を謝罪するが、意図を理解した2人は気にもせず笑顔で答える。


「ふうむ、しかし困ったことがあるな。拠点を早くどうにか……」


「だからあの女とその親父さんに協力関係結んであれを用意してもらったんだろうがよ相棒」


「そうよそうよ、ホテルが事務所とか素敵の極みじゃない」


「お前らなあ、もう。他人事のように言いやがって。時枝、間城。覚悟を決めたのならこの契約書に目を通し、サインをしてくれ」


 ハーネイトの言葉に伯爵は呆れながらも、彼に近くにあった契約の紙を取ってもらい、さっと確認してから2人に渡す。リリーに内容に目を通すように言われた2人だが、その後サインをした。


「ああ、これで引き返せないぜ」


「彩音たちが被害を受けた事件、そんなことこの街で起こさせないわ」


「ああ、そうだ。一般人にはそれは見えないけれど、確かにそこに在る。そういう敵と戦う同志に、君たちはなったのだ。よろしく頼むぞ」


「こちらこそ、よろしく頼みます。早速資料を集めてきますよ」


「修業、頑張るわ私!」


 そうして、新たな霊量士であり探偵見習である時枝と間城が仲間に加わるの

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る