第27話 被害者たちの異変と魔界人の影
その日の夜、響は彩音とCデパイサーを用いて電話をしていた。既に彼らは、ハーネイトから支給された装備、Cデパイサーをほぼ完全に扱いこなしていた。
今使っている装置は本当に使いやすいが、現在この装置を製造しているというのがハーネイトであると話を聞いて、果たして彼は探偵なのだろうか、実は研究者とか開発者とかそっちの方面が強い存在なのではないかと2人は思いながら話を続ける。
「なあ彩音、結局ハーネイトさんはあの令嬢と会うのか?」
「少し悩んでいたけど、会うみたい。日時とか分かったらすぐに伝えるからね」
「それは頼んだぜ。ところでさ、あの後時枝から相談があってな」
「ああ、時枝君ね。どうかしたの?」
彩音は響の話を聞いて、いつも自身がテストで1位を取り合うライバルである時枝という同級生の名前が響の口から出たのか不思議に思った。
「あいつ、この前の事件の被害者だっただろ?その影響か、霊が見えるようになったみたいでさ、ハーネイトさんに話を聞きたいそうだ」
「それなら、間城ちゃんと九龍ちゃんも同じこと言ったわね」
「まじか、まあ俺たちも同じような経緯であれを手に入れたわけだしな」
「そうだね響。皆にも先生の治療受けさせたいな」
それを聞いて、彼女の友人である二2と同じ理由ならと納得するも、どれだけあの事件の影響を受けた人がいるのか、彩音は不安を感じていた。
「どうする?ついでに連れていくか?」
「そうねえ、だけど今回はハーネイト先生がメインのあれでしょ?亜里沙さんも今回は御免なさいって。私と響、翼君は来ていいって。話がややこしくなるのもあれだし」
「そうだな、その話し合いって奴で新たな拠点の話でも引き出せればいいんだけどな」
「私もよ。早く本格化した修行受けたいもの」
「だな。早く強くなって……あんな奴らを軽々と倒せるようになりたい」
一応屋敷での話し合いは、ハーネイトと苅谷一族の交渉の場であるため、部外者はあまり入れない方がいい。亜里沙にもそういわれていたため、明日3人にそれを言おうと彼女は考えていた。
「そういう感じで、会談の方はいいかな」
「……それにしても、今日の先生は調子、よくなさそうだったわ」
「マジか彩音。先生は大丈夫なのか?そんな状態で」
「伯爵さんによると、持病があるらしいのだけど」
「何だって?病気にかかっているのか?ならなんで魔法で治さないんだ?」
「治せない、というか自分にそう言った治す系とか強化系の魔法をかけられない呪いがかかってるって」
「よくその状態で戦うな先生は。心配だ」
彩音のその言葉に、響は驚きを隠せずにいた。普段は物静かつ、丁寧で繊細な印象だと師であるハーネイトのことを見ていたが、それゆえに不安になったのであった。
「大丈夫だといったけど、心配よね」
「まあ、伯爵たちもついているだろうし問題はないと思うけどな」
彼にも立派で優秀な仲間がいる。そう信じていた響。とその時、彩音のスマホに着信が入った。
「ごめん、亜里沙さんから連絡が来たわ」
「お、おう」
一旦響の電話を切り、彩音はメモとペンを用意して、亜里沙からの連絡を逐一メモにまとめていた。それからCデパイサーで再び響に連絡を取る。
「えーとね、今週の土曜、朝10時に学園近くにある彼女の屋敷でって。行けそう?」
「俺は大丈夫だ。翼はどうだかな」
「とりあえず伝えたわよ。明日ハーネイトさんにも伝えるからね」
「分かった、それじゃあ明日もな、お休み彩音」
「おやすみなさい、響」
2人がそうしてやりとりをしていた頃、ハーネイトの事務所に伯爵とリリーが帰ってきた。
「よう、帰ってきたぜ」
「大丈夫?」
「あ、ああ」
「しかし、そんな調子で大丈夫か?」
昼間よりは少し血色も戻って来たものの、まだどこか本調子でない相棒の表情を見て伯爵は気遣うのであった。
「きついならすぐにいいな、相棒」
「それは、分かっているが……」
「もう、ハーネイトはいつも無理して……それで、何かあった?」
だいぶ付き合いも長い。そして彼は人知れず苦労を重ねてきた。それでも仲間のために無理してでも動く男だ。伯爵は相変わらずだなと思っていた。
それはリリーも同じであった。彼に命を拾われ治療してもらい、それから弟子として彼と共に行動していた時からずっと、彼の危うさを警戒していた。時折彼は胸の痛みを訴えたり、血を吐くことがあるのを彼女は把握しており、それでも彼は戦うと話をどうも聞かないため、気にかけつつ行動していたという。
「ほう、あのお嬢さんが俺らに会いたいと」
「あの女の子ね。何か裏がありそうだけど、会いに行くの?」
「ああ、どうも大和とあの一族が繋がっていそうなんでね、調べるためにもね」
彩音の言うことが本当ならば、あの鬼塚と刈谷家との関係を調べないと、下手をすれば向こう側のペースに持ち込まれるかもしれないと考えた彼は、2人にそう告げて明後日の土曜に屋敷に向かうことを伝えた。
「分かったぜ、うまくこちら側の条件も伝わるといいがな」
「慎重にね、ハーネイト」
「ああ、それとお疲れさま。今日はもう休んでいてくれ」
ハーネイトは2人にもしっかり休むように伝え、今日はそのまま事務所で全員寝ることにしたのであった。
そんな中、春花の町はずれにある山のふもと、そこに存在する今は使われていない教会の中に怪しい人影と、実体のない騎士が数名集まっていた。
「一人、やられたな」
「ボルヴェザークがか。で、どのような奴にやられたのだ」
「詳細は不明なんだがよ、兄貴たち。人とはとても思えぬような姿をしている」
同胞が倒れた件について、死霊騎士たちは話し合いながら誰がやったのかと詮索をしていた。するとその部屋の上座で豪勢な椅子に座る赤い光を纏った騎士がある言葉を発し全員をおとなしくさせる。
「情報が少なすぎるな。しかし、我らが計画に水を差す者には死あるのみだ」
「ソロン様こそ、この世すべてを支配すべきお方なのだ」
「そうですぞ、だからこそあなた方に声をかけ、こうして協力していただいているわけで」
その赤き騎士の傍に立つ、白衣を着た角を頭に生やしている老博士がそう言いながら祈りをささげる。そして緑色の光る鎧を纏った騎士が近くによって確認してみたのであった。
「任せておいてくださいよ、ギルギヴィス」
「うむ、計画のために全身全霊捧げるのじゃ。っ、はあ……何だ、わしは、一体何を」
そういうと、全員はその部屋の床に罹れた魔法陣らしきものを取り囲み、それに力を注ぎ込んでいたのであった。彼らは非常に複雑な関係で、白衣の老博士は霊界人ではなく魔界人である。その周りを囲む死霊騎士たちは、どういうわけかこの魔界人に忠誠を誓うかのような形で行動を共にしている。
異界化現象により迷い込んだ、神気を宿す人間たちを彼らは狩りまくり、時には使い魔のような存在である魂食獣まで使い多くの命を奪っていた。
しかし、彼らが異世界浸蝕現象を引き起こしている存在では全くない。彼らの裏に、もっと恐るべき超巨大組織が存在しているというのだが、それに関してはまだこの時ハーネイトたちは勿論、この魔界人と死霊騎士ですらその事実を全くと言っていいほど認知していなかったのであった。
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