第25話 彩音の友達と会談の準備
刈谷自動車の社長の令嬢、亜里沙を助けてから少し経ったある日の夕方。今のところは特に目立った事件は起きていない。そう思いながら響と彩音は放課後の学校の屋上で話をしていた。
「あれから少し経つけど、今のところは何もないわね、響」
「そうだな。あれだけあったのに、なんか不気味だぜ」
「そういうのは、嵐の前の静けさっていうんじゃないのか2人とも。実際やべえこと起きてんじゃん」
「今のうちに、基礎体力とか鍛えといたほうがいいな。戦いについていくにはそれしかない」
更に翼も、そういう時だからこそ気を付けたほうがいいと2人にそう言った。もっと大きな事件がこの先起きるだろうと、彼は何かを感じていたという。
「あれ、みんなして何話してるのかな?混ぜて混ぜて?」
3人で話していると、屋上に1人の女の子がやってきた。彼女は間城璃里といい、彩音の友人であった。
「なんだ、間城か」
「何だってなによ。私は彩音に用があってきたのに」
「どうしたの間城ちゃん」
「いや、あの。この前のことでさ、相談があるんだけど、話を聞いてほしいなって」
「分かったわ璃里ちゃん」
間城はある話について聞いてほしいため彩音を探しにここまで来たのであった。それに対しどこかそっけない翼の言葉に少しムッとしながらも話を続ける。実は彼女も、この前の行方不明事件の被害者であった。
「ごめんね響、また後でね」
「別に構わねえし。ゆっくり話してきなよ」
「うん。あとで先生のところに行こうね」
「了解」
そうして彩音は響たちと一旦別行動をとり、間城についていったのであった、
「にしても、響もモてるだろうに、やはり彩音一途か?」
「別に。あいつは幼馴染だし、昔からあぶなかっかしいところあるし、目を離せないところがあるだけさ」
「へえ、だけどさ、彩音はどうも兄貴、いや、ハーネイトさんに興味津々じゃねえか。取られるんじゃねえのか?」
翼はそう言い、響の動揺を誘う。しかし帰ってきた答えは彼にとって予想外の返答であった。
「それはないよ」
「なんでだ?」
「ハーネイトさんはああ見えて女性が苦手なんだってさ。昔色々あったみたいだけど、詳しく聞くわけにはいかないし……。伯爵にも彼の過去をあまり詮索するなって。リリーさん曰く魔女ってのとトラブルがあったらしいけど、分かんないぜ」
響はリリーから、女性関係でトラウマが彼にあることを聞かされていた。彼なりに今まで苦労してきたのだなと思いながらその話を聞いていたことを覚えている。
ハーネイトは昔からよく女性に、というか多くの人から好かれるようであったがある事件の生き残りという事実が彼の人生を辛いものにしていた。
それは彼の体の秘密を知ろうとするものに、たびたび狙われていたからである。その過程で女性が苦手になり、一時期は口をきけなくなるほどだったというがこの話題を彼にしてはならない。
「ふうん、あの兄貴も苦手なものあるんだな」
「それなら翼も牛乳ダメじゃねえか」
「そういうおめえも魚だめって言っていただろ?」
「フッ、だれしも苦手なものはあるんだな」
「あの先生だって、他にも苦手なものがあるかもしれないな」
「今度聞いてみようぜ」
誰しも1つや2つ、不得意な物や苦手なものがある。あの2人の男が人間離れしすぎた存在であろうとも、そういう面があるのだなと響は考えていた。
「ねえ、それでどうしたの?」
校内の廊下を歩きながら彩音と間城は話をしていた。いつもとは違う表情を見せる間城を彩音は不審に思い何があったのか尋ねる。
「あの、さ。こういうこと言っても笑わないよね彩音?」
「一体何よ」
「あのね、どうもあの後から変なものが見えるというか、後ろに何かいるみたいで」
間城の言葉を聞いた彩音は、目を凝らして彼女の背後を見る。すると確かに実体はないが、そこに何かがいることが分かった。
「……確かに、何かいるわね。でもよく分からないわ。実態がよく見えない。だけど……しっかりと鎧を身に纏った、やたら大きい盾がついた騎士っぽい。それと、弟のような感じの声がする」
「そ、それって背後霊とかじゃないよね」
「もしそうだとしたら、どうにかしないといけないわよね」
「誰かいい人いないの?」
間城自身、自分には霊感がそれなりにあると感じていたが、あの事件の後それが強まったのではないか、そして後ろに何かがいること。さらにそれが、自身に何かを語りかけてくることが不安でたまらなかったという。そこで相談に乗ってくれそうな、詳しい人がいないか間城は彩音に尋ねた。
「いるにはいるけれど……覚えてる?緑髪の後ろ髪を伸ばした、若い男のこと」
「うーん、あ……あのっ!わ、分かったわ。あやちんもしかして、あの人と知り合いなの?てかそうよね?」
「そ、そうよ。あの人に話を聞けばわかるんじゃないのかしらねえ。」
「ねえねえ、紹介してよ本当にさ。何でもするからさ、お願い!」
間城は、ぼーっとした意識の中、確かにハーネイトたちの姿を瞳で捉えていた。だからこそ彩音の言葉の意味が理解でき、またその男が非常に端正な顔立ちだったため会いたいと強く彼女に申し出たのであった。
「ごめん、少し待ってね。亜里沙さんから連絡が来ているわ」
「え、亜里沙さん見つかったの?大丈夫なの?」
「そうよ。ここだけの秘密だけど彼女、今入院中なのよ」
スマホのメールを確認し、友達である亜里沙からのメールを確認していた。ハーネイトから、話してはいけない部分を除いて、うまくごまかしまとめて亜里沙が行方不明になった経緯を間城に話す彩音。それに彼女がぐいぐい食いつく。
「そんなことがあったの?それ絶対動画撮らないと!廃工場とか絶対あれよね」
「それはやめといたほうがいいと思うわ」
「そ、そうなのね。それで亜里沙さんからなんて?」
「助けてくれたお礼に屋敷に招待するって……ただし、あの緑髪と青髪の男を連れてくることって」
彩音は亜里沙からの連絡について話した。それを聞いた間城はうずうずしているように見えていた。
「……私もついていきたいな」
「どうなのかしら、やめておいた方がいいと思うけれど」
「でも、あの剣士さんのことが気になって仕方ないのよ」
「それは分かるけれど、その前に先生たちに連絡を取らないと。もしかすると、別件も片付くかしら」
「別件?」
少しため息をつきながら、間城と話をつづける彩音。そして自身らの課題であり、仕事であるとある話題を切り出した。
「あの人たち、拠点探していたのね」
「そうよ。どうも調査とかしたいみたいな感じだったわ」
「だったら私の家に来ればよかったのに」
「璃里の両親は?」
「海外で仕事よ。もう半年以上も帰っていないし、使っていない家があるの」
「そ、そうなのね。もし交渉がこじれた時は、貸してもらえる?」
「ええ、それはいいわ、あの人たちがどうしても気になるから」
間城の親は世界を股にかけるデザイナーであり、また一年の半分以上が家にいないという。そして帰ってくるのがしばらく先になるといわれ、だからこそ拠点となりそうな物件を貸すことぐらいはできると彩音にそう伝える間城。それを聞いて、彼女は安堵の表情を浮かべていた。
「とりあえず亜里沙さんに連絡するね」
「しかし彩音も、響君も大変なことに巻き込まれてない?」
「もう、他人事のように言って。それで璃里も動画のほうはどうなの?」
間城は彼女なりに、彩音と響のことを心配していた。昔からの付き合いがあり、彼女の責任感の強さが彼女自身を縛り付けないか、それが気がかりであった。そして話が変わり、互いの趣味の話になる。
「動画の方は別に問題ないわ。この前のゲーム実況も大人気でさ」
「今度私もやりたいな。一緒にしよ?」
「おお、彩音っちゃんも興味あるの?FPSとか?」
「ま、まあね」
「意外だねえ、いいよ。でもその前に、あのイケメンズと会わせてほしいな」
ゲームや動画実況が大好きな間城は、彩音を自分がやっているゲームに誘おうとした。そんなとき、廊下の先から一人の女子高生が走って向かってきたのであった。
「おーい、何話してんだ、彩音と間城!探してたぜ」
「九龍ちゃん、ええ、色々話してたのよ」
「鮮那美ちゃんは部活の方は?」
「ああ、調子いいぜ。今度の大会も優勝してやるよ!へへ」
九龍鮮那美、柔道部に所属している若きエースであり、全国大会で優勝した経験のある明朗活発な、男気のある同級生である。サバサバした性格や面倒見の良さから友達も多い彼女もまた、間城と同じく例の事件に巻き込まれた1人であった。
「だがな、1つ気にになることがあってさ」
「どうしたの?」
「あ、あのさ、マジで笑わないでくれよ。どうも俺、幽霊が見えるようになっちまったみてえでさ」
「もしかして、あの時の事件のせいかな、私もなんよ」
「間城もか。しっかし、そんなものいるわけねえかと思っていたが、どうもあの親父の霊みたいなのが見えちまうんだよ。しかも何か言いたそうな感じなのに、よく分からなくてさ」
九龍の話を聞いた彩音は、事件にかかわった人たちに共通した、とある変化がどうしても気になっていた。それは自身の身にも起きたことだし、どれだけ他に、まだ影響が残っている人がいるのか、気がかりであった。
「それだったらさ、私も同じなんだよねえ。彩音がそれについて知っている人がいるから今度訪ね
よ?」
「そ、そうだなあ。このままもやもやしていたら試合に響きそうだしな」
「そうよ、ね。えーと、今から用事あるからまた明日ね」
「分かったわ彩音。とりあえずイケメン2人の件よろしくね」
「はいはい、分かったわ」
そうして彩音は2人と別れ、人気のない場所である人物に連絡した。
その頃入院中の亜里沙は、病室で静かに外の景色を見ながら、いつ彩音から連絡が来るか待っていた。あと2、3日で退院できるのだが、あれから時折聞こえる兄のような声に彼女は悩まされていた。
「……絶対に、あの人たちを引き入れないと。あれは、私たちの術では対抗できないわ」
今起きている脅威、それに対抗するための手段が欲しい。そしてそれを知るものを、仲間にしたい。彼女の思いはとても強かった。
そんな中、待っていた彼女から連絡が来て、すぐにそれに出た亜里沙はけがのことについて問題ないとそう伝えた。
「やっと、彩音から連絡が来たわね。……はい」
「亜里沙さん、けがの方はどうですか?」
「ええ、もう大丈夫よ」
「それならよかったわ。本当に、助けが間に合ってよかったわ……あなた方には、感謝してもしきれないわね。あなたの彼氏、響君にもありがとうと言っておいてくれるかしら」
「か、彼氏って、そんなんじゃないですよ。響は私のこと、見てくれなくなっているわ」
「……意外と気にしてはいるけど、それを見せるのを恥ずかしがっているかもしれないわね。それとも、うぶなのかも、知れないわね。年頃の男の子は、気難しいわね」
「そうですね……そんな感じはします」
亜里沙は、彩音と響の関係についてそう微笑みながら言い、それに少し戸惑っていた彩音は軽くため息をついた。いつになったら、響は自身を一人の女性としてみてくれるのだろう。そう思っていたのであった。
「……はあ、それでまだあの人たちと連絡が取れていないのですが、前に起きた行方不明事件の被害者が私の話を聞いて、彼らに会いたいと言ってきました。屋敷の方で、ついでにそちらの件を済ませてもよろしいですか?」
「それは興味深いわね。でも、ごめんなさいね。重要な話だから今回は見送って頂きたいですわ。別の日に、屋敷を貸すのは構いませんけどねフフフ」
亜里沙はそう言い、今回の会談はハーネイトと伯爵、リリー、そして響と彩音、翼までしか招待を考えていないと言い代案を出した。また彩音の言ったことについて気になった点があったため彼女は確認する。
「それと問題はまだ彼らと連絡ができていないことだけど、何かあったのですか、彩音さん?」
「仕方ないわね、うん。それと2人が連絡しても出ないの。毎日彼らは街中を調査しているし、もしかすると、あっ、鬼塚さんと話をしているのかも、昨日の今日だし、何か事件の資料でも整理しているのかな……」
彩音の話を聞いた亜里沙は、懐かしい男の名前を聞いてから話をつづける。
「鬼塚、私たちの協力関係にある元刑事、ですね。鬼塚大和も、確か彼らに助けられたと報告が来ていましたわ」
「し、知り合いだったのですね」
「ええ、父と彼は個人的に親交を深めていましたから。とりあえず、連絡の方よろしくお願いしますね。話の進み次第では、彼らが望むものを与えられるかもしれませんよ」
「そうですか、それは伝えておかないとですね」
「ええ、損はさせませんよ」
「え、ええ。……ハーネイトさん、何しているんだろう」
彩音はその後も話をつづけながら、いつも調査で奔走しているハーネイトが少し気がかりであった。
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