第22話 死霊騎士との邂逅
橋の先にある山道。その先から異様な気を感じたハーネイトは先に別任務に送っていた伯爵とリリーに連絡し、後で合流するように指示した。
連絡後すぐにハーネイトは響たちを連れて、不気味な山道の中に入り先に進む。Cデパイサーの照明機能を使いながら慎重に気を感じた場所まで向かうと、彼らは廃屋と化した古く大きな工場を見つけたのであった。
「ほう、こんなところに怪しい建物、というか工場があるな」
「ありますけど、入るの先生?」
「感じないか?反応は明らかにあそこから出ている。例の令嬢さん事亜里沙さんも、その中にいると見ていい」
その工場はかなりの年月が経過し、外壁が所々ボロボロになっており、人が立ち寄りそうには見えないところである。
だがこの先に、欠片の気運を感じられる。つまり何かがあるのは間違いない。すぐに工場内に入ろうとしたその時、いきなり周囲の景色が変わりだした。
それと同時に、魂食獣の群れが取り囲むように現れ、彼らの逃げ道を塞いだ。
そう、これは敵の罠。当たりの亀裂とでもいうべき代物だが、問題は今回のは、近くにそういった光る亀裂がなかったのに引きずり込まれたことであった。
「っ、これは異界化か、発動条件を何か踏んだな」
「力のある者、がここに足を踏み入れたからですよねこれは」
「やべえな兄貴、これ全部倒せるのか?」
「ああ、やるしかない。全員戦闘配置に!異界化しているから好きに暴れて!」
「了解っ!」
ハーネイトはそう言い響たちに展開命令をだした。そして各自が各々の具現霊を手に持ちすっと身構える。
「さあ、かかってきな」
「グルルル……ガウッ!」
包囲している獣たちがぎらぎらとした眼光で睨みつけ、そのうちの一体が猛進気味に飛び上がり襲い掛かる。
「はあっ!てえぃ!」
「お願い弁天、音で支援して!」
「了解したわ。響け、天の音よ!」
彩音は弁天と協力し、広範囲に影響を与える音を音叉長刀から放射し、その魂食獣の動きを鈍らせた。
「俺もやるか。ロナウ、力を貸してくれ!」
「ああ、行くぞ翼!」
「おう!こいつを食らっておきな!」
勢い良く迫りくる大型の鹿型魂食獣を、翼は自慢の足で蹴り飛ばし、それにロナウが背後から追撃して回し蹴りを行い周囲にいた魔物たちごとまとめて吹き飛ばした。
「へっ、この程度楽勝だな」
「次が来るぞ!」
「う……、お前ら、何者だ」
そうして戦っていると、工場の奥から、数メートルはあろうかという大きさの巨人が、周囲に足音を響かせながらこちらにずしん、ずしんと歩いて向かってきた。
「ほう、また巨人か。巨人さん?この近くに若い女の子はいないかい?」
「……貴様ら、あの女を連れ戻しに来たのか。だったら、ここでオマエラ食ってやる」
一通りその巨人と会話を終えたハーネイトは、向こうがこちらの話を聞かないと判断すると、不敵な笑みを浮かべながら胸ポケットに差した黒いペンを取り出し振りかざす。
「そうはいかない。こいつを使う時が来たか、……来い!メルウクの英雄、ユミロ!!!」
すると周囲が一瞬閃光で包まれ、次の瞬間彼の目の前に、軽く4mはあろうかという褐色の巨人が威圧感を前面に出しながら、彼を守るように現れた。
「ウォオオオォォォ!ようやく、呼んでくれたか。マスター!」
「なっ!だ、誰ですかこの大男は!」
「なんて大きいの、この人も先生の仲間なの……?」
「そうだ、力勝負なら私よりもタフな男にして、私が信頼する部下の1人だ。ユミロ、あの巨人の相手を頼む。この工場の先に、目的のものがある、ここは彼に任せよう」
「了解したマスター、さあ、行ってくれ!」
ハーネイトはユミロに対しそう命令すると、彼も快諾し道を塞ぐ巨人と対峙する。すぐにユミロは、手にした斧、または鈍器のような異様な武器で巨人に襲い掛かる。
「お前らっ!ぐッ、なんだおめえは!」
「俺はユミロ!メルウクの誇り高き戦士だ!」
「それがなんだ!お前らも計画の、邪魔をするのか!」
「知らない、そんなものは!だが、マスターの頼みなら!全力で命を通すまで、だ!」
ユミロは強烈なスイングでその巨人、アーガンを吹き飛ばすと、手にした武器のスイッチを入れる。すると6枚ある包丁のような刃が扇風機の羽のように展開しまわりだしたのである。
「砕けろ、烈風嵐刃!」
「ぐぅおおおおおおおおおお!これほどとはっ、がは、っ」
回転する武器を前方に構え、素早く突撃したユミロの一撃は、巨人にかなりの深手を負わせた。しかし彼の戦意は失われていなかった。
「何を考えているか、わからない、だが、世界を滅茶苦茶にするやつは、この俺が止める!拾ってくれた、マスターのためにも!」
「なにをほざくか!!!」
「聞く耳、持たずか。仕方ない、ここで倒れてもらうぞ。ぅおおおおおお!永断の斬撃!」
「おおおおおおっ、ぐっお……貴様、許さない……ぞ…っ!」
けれども、ユミロよりも大きな、半透明の霊体巨人は彼の渾身の一撃により真っ二つに叩き斬られ、その体は光となって舞い散るように空中に消えていったのであった。
「ふぅう、さあ、マスターのところ、行くか」
敵を倒し周囲を見回してからユミロは、ハーネイトの後を急いで追いかけた。
この巨人ことユミロ、名前をユミロ・ネルエモ・アレクサスと呼ぶ。ハーネイトの故郷の世界に住む、メルウク星人という屈強な肉体と聡明な頭脳を持った恐るべき戦士である。
彼とハーネイトの出会いは敵同士というものであったが、ハーネイトの懐の大きさと優しさに彼は戦争屋の組織を抜け出し、故郷を襲ったやつらの敵討ちをするため彼に付き従った経緯がある。それ以降、ハーネイトと彼との結びつきは強固になり互いに背中を預けられる関係になったという。
「この部屋が怪しいな。せいっ!」
ハーネイトたちは、廃工場を置くまで突き進み、道中襲い掛かる霊を撃退しつつ、明らかに異様な気を発する部屋を見つけた。そして扉をハーネイトは刀で切り裂いて中に入った。
「ほう、貴様らか。俺のことを嗅ぎつけているのは。そして、ゼノン、貴様!」
「やはりあなたね。なぜ、私たちのことを裏切ったの」
「お前は、あれが聞こえないのか?偉大なる魔王の声が、あの叫びが!」
「魔王、だと?」
その最奥の部屋にいたのは、白く光る馬に乗った青白い霊気を纏った全身鎧の騎士であった。手には巨大な騎乗槍を携え、入ってきた彼らの方を向いて威圧しながら、ゼノンを見るな否や声を荒げた。
「そうだ、俺らは調査を行っている中で、とある空間を見つけた。そこで俺らは、偉大なる存在に出会い告示を受け、心奪われた。その告示の邪魔をするもの、ここで殺す!そしてここを貴様らの墓標にしてやる。とりゃああ!」
青白い騎士が光り輝く槍を構え、一気に突き出した。その一撃は容易に古い工場の壁を消し飛ばし風穴を作る。
「っ!なんて一撃だ。工場の壁に一撃で大穴か」
「ここは狭い、外で決着をつけてやる」
「望むところだ」
異界空間に穴を開け外に出る騎士をハーネイトたちは追いかける。と月に照らされた開けた草地が目の前に広がる。すると騎士はしっかりと槍を構え、何かを打ち出そうとしていた。
「貴様らが何者か知らないが、その女、ゼノンが世話になったようだな。だが、魔王復活を阻止するならば刃を向けるほかあるまい」
「っ!なかなか重い一撃だな」
青白い騎士の攻撃はすさまじい衝撃波となって周囲を襲う。それを瞬時に展開した紅蓮葬送でハーネイトは影響を防いだ。
「翻ろ、紅蓮葬送(スカーレッド・バインドクロス)!」
「ハーネイトさん、俺も行きます!……言乃葉!」
「こやつを刀の錆にすればよいか。相分かった!」
ハーネイトは攻撃をいなしつつ、距離を取り次の攻撃に移る。そして響もそれに合わせ突撃を仕掛ける。
「多勢に無勢な!いいだろう、来い、我が僕たちよ!」
「ぬぉおっ!なんだこれはっ、先ほどの奴らと似てはいるが」
「数が多いわね」
「話を聞く気はなさそうね。先輩、ここであなたを止めます!」
騎士は槍を地面に刺した。すると続々と多種多様な魂食獣がすーっと現れた。そして只々ハーネイトのほうを見ながら、槍の切っ先をハーネイトに向けた。すると彼しか見えていないかのようにいきなり馬に乗って突撃してきたのであった。
それに対しハーネイトは的確に突撃をよけ同時に馬ごと騎士を切りつけようとしたがそれを武器で防がれた。
「鋭い一撃だ。だがこれはどうだ!」
「なっ!空中から槍とはな。霊量現術か」
「ほう、霊気を操る術を知る者か、おもしろい」
騎士は天に槍をかざし振り回し、白く光り無数の槍を空中に召喚し、雨のように降り注がせる。
「だが、この強化した紅蓮葬送、いえ、戦形変化(フォームアウト)こと、黒翼斬魔(ディアヴル・ノワールレゼル)の前にそれは効かない」
「あの一撃を全て受け止めるだと!」
激しい槍の雨に対し、ハーネイトは切り札の1つであり、戦形変化(フォームアウト)と呼ばれる変身術により黒翼斬魔(ディアヴル・ノワールレゼル)に姿を変える。
紅蓮葬送よりも4枚、首元から伸びるマントの数が増加ししかも漆黒に染まったそれを風にたなびかせ、顔には青白い目が光る黒い仮面、手足には特徴的な装飾の防護具を纏ったその形態は、確かに名の通り悪魔にしか見えない。
すぐにそう変身したハーネイトは、黒き6枚のマントを鞭の様に振るい体の前面に展開し、彼めがけて降り注ぐ槍を完全に受け止めはじき返した。
「こちとら、訳ありの体なのでね」
「何だと、フハハハ、面白いではないか。だが、あのお方の復活のために負けてられん」
「だったらなぜこの地で活動をする。それに、世界を繋げ境界を壊す理由も聞かせてもらうか」
なぜ騎士たちがこの世界を中心に活動しているか、それが疑問であったハーネイトは刃を交えながら聞き出そうとするが、返ってきた答えはそれなりに予想できるものであった。
「復活のためには、多くの魂を捧げる必要があるのでな!それと、我らはそのようなことまではしておらん!あくまで、あのお方に捧げる魂を集めるだけに動いているのだ!」
「っ、ともかくそうならば止めるまでよ!」
これ以上の戦闘を避けるため、早期決着をつけようとハーネイトは胸に手を置いて、精神統一をしたのであった。
「私とて創金士であり現霊師。相手が霊なら、これで決着をつける」
そういうと、ハーネイトは戦形変化を解除して心の中である本を手に取り開く。それには、フォレガノという悪魔らしき風貌の写真と、びっしりと書かれた文字があった。それに手をかざし、彼は右腕を創金術(イジェネート)の力を用いて、そのフォレガノの腕に形を変えたのであった。
「な、っ!貴様、それはなんだ」
「ああ、悪魔の腕と言えばよいか」
「フ、ふざけた真似を、人間如きが、そのようなことをできるものか!」
その腕を見た騎士は、非常に狼狽えていた。人だと思っていたものが悪魔になり、しかも姿まで変わっていることに驚嘆を禁じえなかった。
その禍々しい代物は、まさに彼自身が現在崇めているその者の気と何ら変わらないほどに格が高い。それが理由であった。
「舐められたものね。生憎様、私は人ではない!」
「な、にぃいいいい!がはっ……ぐぅ、ごは、っ!その気、まさかっ!お前は」
ハーネイトは素早く大魔法を脚にかけて速度を上げ、瞬時に間合いを詰めてからその青白い騎士の腹部を鎧の上から悪魔の腕で貫き串刺しにした。
しかもさらに追い打ちをかけ、その腕に内蔵されている武器庫から誘導弾が放たれ、至近距離で爆発しその衝撃で騎士は大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「これで決める!決戦技(シュペルヴアトゥーク)・黒刺武槍(ノワールエッジ・デストルランス)!」
それからハーネイトは更にもう一度飛び上がり、空中から2枚の龍翼を前方に勢いよく射出しそれを槍にして騎士に直撃させたのであった。
「ぐっ、ぜえ、ぜえ、っ、貴様、何者、だ!」
「……ハーネイト。全ての世界の未来を守るため動く、ヴィダールの最後にして最強の第4世代神造兵器。そして、旧世界の支配者の力を宿した存在だ」
「ヴィダールの、回し者か……大層、な。奴だ。……しかしな、あの偉大なるお方の前に、全ては……っ」
まだ負けていない。胴体を貫かれてなお、喧嘩腰で意味深なことを言う騎士に対し、ハーネイトはただただ彼を見ていた。
「何だ、その偉大なる何とかというのは」
「へ、へへ、今に分かるさ。貴様らは、ただ、ひれ伏せることしか、できん!」
さらに気になる言葉を発しながらも、虫の息である騎士は、ゼノンの姿を見て彼女に声をかけた。
「……屈強な騎士たちを魅了する存在、恐ろしいわ」
「ゼノン、か。っ、貴様も、やるな」
「……当然です。裏切り者は討伐されるのが定めです」
「へ、言うじゃねえか。……偉大なるお方はこの緑豊かな地に降り立ち、不浄の地に変え、我が物とする。その名は、ソロン……だ、よく、覚えておけ……がっ……」
そして、青白い騎士は光となって虚空に消え去った。
「これで倒しましたね。……本当にあなたは人ではないのですね」
「……人の形をした、旧世界の支配者と世界を壊すため神造兵器だ。だが、その力を私は世界のため、誰かのために使うまで」
「……え、ええ。ハーネイトさん、ご協力ありがとうございました。さあ、あの女の子を助けに行きましょう」
ゼノンの問いかけにハーネイトは、どこか悲しそうに答えた。それに気づいた彼女はまずいことを言ったと思い話題を切り替え翼から聞いた話を彼に伝えた。
「ハーネイトさん、あの部屋にあった扉の先に亜里沙さんがいると翼が言ってます」
「行こう、みんな」
そうして、彼らは亜里沙救出のために廃工場の中に再び入っていったのであった。
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