第21話 目撃者と青白い欠片


「さあ、件のお嬢さんについて情報収集といこう」


「ハーネイトさん、遅れてすみません」


「来たぜ、ハーネイトの兄さん」


 ハーネイトは大和から教えてもらった目撃者のところに向かう前に響たちに連絡を入れ、待ち合わせ場所を変えてもらいしばらくして、春花駅の広場で合流した。


「あれ、ところで伯爵さんは?」


「リリーちゃんもいないわね」


「ああ、あいつらは別件で動いている。ゼノンたちの連絡を妨害していると思われる原因を先に探してもらっている」


 全員と言っても、伯爵とリリーには今回別行動をとってもらい、霊量通信を妨害していると思われる原因を探す役目を任せていた。


「あれ、それって俺らの仕事じゃ……?」


「済まない、連絡が遅れた。大和さんからある情報を手に入れてな。それについての調査を行おうと思ってね」


「親父から?」


「そうだ翼。これは事を急ぐ案件でね」


 そうしてハーネイトは彼らに大和からの情報について話をした。翼は話をすべて聞いてから父である大和が、相変わらずそう言ったものの情報をよく手に入れてくるなと半分関心、半分呆れていたのであった。


「本当にその手の情報手に入れるのは早いな、親父は」


「誘拐の可能性もあり得るわね。大丈夫かしら亜里沙さん」


「今回は目撃者がいる。もしかすると今までのパターンと違う何かがあるかもしれない」


「本当に、無事であることを祈るしかないな。行こう!」


 彩音は行方不明になった令嬢のことが気になっていた。実はその亜里沙と彩音は同じクラスで、それなりに話をしていた仲であった。前から霊感が非常に強いと聞いていた彼女はその話と、先日起きた事件と関連があるのではないかと感じ心配であった。


「恐らく、あいつらの仕業よ」


「ゼノン、来ていたのか」


「ええ。いやな感じがしてきたのよ」


 ハーネイトの背後から声がして全員が振り返ると、そこには鎧を身に着けた騎士の姿ではなく、年相応のかわいらしい赤と白のラインが入った洋服を着たゼノンがそこにいた。


「衣装替えかい?」


「そうよ。これなら実体化しても怪しまれないでしょう?」


「そうだね。しかしよく似合っているな、いいじゃないか」


「そ、そう?そういわれると悪い気はしないわ」


 ハーネイトは軽く微笑みながらゼノンの服装についてそう言い、彼女も少し嬉しそうな表情を見せながらその場でくるっと回ってアピールする。


 異性が苦手な一面のあるハーネイトだが、意識しなければ気の利いたことを言えるところがありそれを見た彩音は彼の印象について変なところがあるなと思っていた。


 これも、彼がある事件に巻き込まれなければそうはならなかったと言う。


「……やはり、あの死霊騎士団という人たちの仕業?」


「そうね。あの後私も調べていたけど、これを見て」


 ゼノンはハーネイトに手を出すように言われ、彼は手を差し出した。そして手の平に淡く光る青白い破片を置いた。それはほんの欠片であったが、そこから放たれている霊量子の波長は力強く、しばしそれを彼は見つめていた。


「これは、青白い鎧か何かの破片か」


「これはある橋の歩道で落ちていたものよ。この霊気、明らかに騎士団の一人、ボルヴェザークのものよ。しかしなぜ欠片だけ」


「誰か応戦し、手傷でも負わせたのでは?」


「だとしたら誰がそうしたんだろうな。潜在的に素質のあるやつか?」 


 翼はその騎士の防具を壊した奴が誰なのかが気になっていた。それは、自分たち以外にも力を持つ存在がこの街にいるのかもしれないという期待と不安でもあった。


「もしかすると、その誘拐された令嬢じゃねえのか?彩音、そいつ霊感強いって言っただろ?俺、噂に聞いたことある」


「響、何か知っているのか?」


 響は矢田神村で暮らしていた時に父から聞いた、陰に潜み悪を討つ集団がいることを思い出し彼らに話をした。


「ああ、この日本には退魔師の集団がいるって話を父さんから聞いたことがあるんだ。それは5族あって、その一族の中に苅谷……正確には紅魔ヶ原という一族がいる」


「それは興味深いな。と言うか、なぜそれを早めに話さない」 


「済みません。てっきりすでに把握しているかと」


「……私たちも、ここにきてまだ日が浅い。そもそも別の世界の住民だからな」


「それもそうだな、そうか」


「まあいい、とにかく大和の言った目撃者の女子学生のところまで向かおう。彼女の証言次第では展開が変わるぞ」


 そう言い、先に大和から教えてもらった待ち合わせ場所である春花図書館の前に彼らは足を運んだ。


「ここがか。って早速来たみたいだな」


「あの、あなたが例の探偵さんですよね?大和と言う人から連絡を受けました。美しい緑髪の青年と聞いていましたが、本当ですね」


「ああ。私がその大和さんの知り合いだ。ハーネイト・スキャルバドゥ・フォルカロッセだ、よろしく頼む」


「はい、私は渡野と言います。そうなんですね。あの、例の事件についてですよね、話を聞きたいのは?」


 大和が紹介した目撃者、渡野綾香という女性とハーネイトは出会い、一通り話を聞いてから、彼女が目撃した場所に案内してもらうことにした。


 話をしながら現場まで行く中で、渡野は県外まで遠出をして自宅に帰ってきていた中、橋の近くで立っていた亜里沙を目撃したという。


 歩きながらしばらく彼女の様子を見ていたところ、突然彼女は倒れこみ、まもなくその場から姿を消してしまったといい神隠しに会ったみたいな感じであったと証言する。


「やはり、異世界浸蝕現象か。境界が亀裂周辺で不安定になっている。それでゼノンが破片を回収したのもここか。とりあえず霊量探知でもしてみよう」


 町はずれの端付近まで来たハーネイトたちは周囲をくまなく探した。そしてハーネイトは気を集中してから青白い欠片と同じ気がする場所を探ったのであった。


「あの、何かわかりましたか?」


「ああ。恐らく犯人の気は、この先に続いている。しかし不安定ではあるな。道理で近くまで来ないと分からないわけだ。でも、追いかければじきに見つかるだろう」


「どうしますか?伯爵さんと合流は?」


「いや、今はまだいい彩音。それとお嬢さん、これは礼だ」


 綾香の情報通り、確かにこの近くで何かがあったことは間違いない。そして反応が近いことを感じたハーネイトは仕事モードに切り替える。


 また、これ以上彼女を巻き込むわけにはいかないと、ハーネイトは彼女に謝礼をいくばくか渡した。


 それは透き通る紫色の大きな宝石のネックレスであり、それは綺麗にカッティングされた、規則正しく広がる放射状の模様が刻まれた代物であった。


 今は亡き魔法の師、ジルバッドの研究を引き継ぎ研究の果てに、有効性を実証して見せた宝石魔法術。彼はその力を使い厄除けのアイテムを作ることができる。


「あ、ありがとうございます。探している人、早く見つかるといいですね。……あの、1つ聞いてもよろしいでしょうか?」


「どうかしたか?」


「貴方が別の、遠い場所からから来た人って本当ですか?最初大丈夫かなと思っていましたが、そんな感じがしなかったので……」


 綾香はこのハーネイトという男が何者なのかとても気にしていた。


 まず自身よりも年下の子供を数人集め何をしているか、そして優しげな表情にかすかに感じる冷徹な雰囲気。何よりも、ここ最近起きている警察でも対応に苦慮している事件を何故追っているか。他にも聞きたいことはたくさんあれど、今は行方不明になった女の子が見つかってほしいためにそれは置いておいて、何か役に立てるといいなと彼女は考えある提案をした。


 また、どこか挙動不審というか、町を見慣れていないという印象を彼に抱いていたのと、顔立ちが日本人にしてはどこか中途半端というか、整いすぎている点から彼女はそう質問したのであった。


「ああ、そうだが」


「でしたら、今度市内を案内してあげましょうか?ずっとここで暮らしているので」


「そうか、まだ行ったところがない場所もある。お嬢さん、その時はよろしくお願いしますね」


 この鬼塚が紹介した女性、彼女の体からも霊覚孔からかすかに気の流れを感じていた。そしてまだ不慣れなこの土地で案内をしてくれるというため、時間があるときに案内をお願いしようかと考え、連絡先を渡しておいた。


「お、お嬢さんだなんて。貴方のような優しい人でしたら何時でも大歓迎ですよ。こんなに綺麗な宝石をくださるなんて」


「それは、自分が加工して模様入れをしたんだ。気に入ってくれるとありがたい。魔除けも兼ねているから、持っているだけで不幸が遠ざかるよ」


 ハーネイトはまだ10代のころ、宝石がよくとれる鉱山の国でそこの女王から宝石に関する技術を学んだという。それは魔法だけでなく、宝石を研磨し加工する技術もであり、旅の最中それを副業で行っていたという。


「ああ、それとこれからはさらに、夜道は気を付けるように」


「はーい。では今度、観光案内いたしますね。どうか、彼女が無事に見つかるように祈っておきます」


 そうして綾香は一礼をしてからその場を後にした。ハーネイトは彼女の後姿をしばらく見て見送ってから橋の向こう側を再度見て、この近くにあの令嬢がいると確信していた。


 実は、先ほど感じた青白い欠片と同じ気の他に、並の人間では発することができないような気の痕跡があることを感知していた。それが欠片の気運と同じ方角に続いていたことに気付くと、急ぎ足で橋を渡り始めたのであった。

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