第19話 父と息子の協力戦線と響の母・京子の狙い
「なんか、機士国にいた時のことを思い出すな。よくジュラルミンとこうして食事をしていたことをね」
「機士国……?」
「昔2年ほど住んでいた、機械文明の発達した国の名前だ。戦争を仕掛けられそうになったのを防いでから、国王と側近から重宝されてね……」
ハーネイトは、故郷でまだ旅の途中、とある国に滞在していた際に国の重臣と食事をしていたことを思い出していた。彼は何度も、国同士の戦争を未然に防いだことでも有名であった
。誰の血も流さずに戦いを終わらせる彼の偉業は、無血のハーネイトという呼び名として今でも有名である。それについてリリーが話すと、響も彩音も終始目を丸くしていたのであった。
「本当に、人生は不思議だわ。予想だにしていないことばかりが起きるもの」
「そう、ですね。さあ、折角お金を頂いたのですし、少しくらい出して頂いてもも問題ありませんよね?」
「やれやれ、この一枚がどれほど価値があるのか分からないのだが……でもいいよ。みんなで楽しもうじゃないか」
彼らはレストランの中で話しながら注文を頼み、料理がくるまで話をしていた。そしてハーネイトは昔のことを思い出し、彩音はさり気にハーネイトにおごらせようと話を持ってきて、彼もそれを了承した。
ハーネイトはステーキ定食を、伯爵はハーネイトのステーキを少しだけもらい、響と彩音、リリーもデザートやパスタなどを注文し、戦闘の後のひと時を満喫していたのであった。その中で一万円札がどの程度の価値があるのか、彩音から話を聞いたハーネイトは、地球の物価が故郷の通貨であるマルクとメリスよりも100倍も安いことに驚き、彼は頭の中で計算をし直していた。
そんな中、自宅に帰宅した翼は、すでに帰宅していた父、大和に声をかけた。大和は居間でテレビを見ながらパソコンで記事の作成をしていた。そして大和は翼に声をかけ、翼も少し俯きながら声をかけたのであった。
「父さん、その……すまなかった」
「…俺は、翼が無事に帰ってきてくれただけでよかったよ。もう誰も、失いたくない」
「なあ親父……離婚したと言っていたのはなんでだ?母さんのこと、愛していたんだろ?」
「ああ、そうだ。だからこそ、あの事件は。そして今日、その手掛かりをようやく掴めたよ」
大和は、翼が幼いころに最愛の妻を亡くし、彼もまたその正体に気づいていた。しかし翼はそれを理解できないだろうとあえてうそをついていたのであった。
しかし息子も犯人を見ていることに気づいた彼は、翼に謝ってから、事件の手がかりをようやく得たと翼に話したのだ。それに翼も同じことを述べたのであった。
「それなら、俺も。……父さんにも霊感があるって、ある人たちから聞いたんだ。これが、見えるか?」
翼はそういい、自身の体に負荷がかからない程度に、サイズを調整してロナウを具現化させたのであった。それは大和にも見えており、息子があこがれていた選手のことを理解していた。
実は大和もロナウ選手のファンであり、心の中で先に息子が力を手に入れたことに焦りを覚えつつも、息子の中にロナウが生きていたことをはっきり感じて喜んでいた。
「…しっかり、見えるよ。ロナウ選手が、はっきりとね。そして、翼もあの男たち、ハーネイトとサルモネラ伯爵に、出会ったのだろう?」
「親父……ああ、そうだ。2回も助けてもらうなんて、少しダサい話だけどさ。あの人たちは不思議だよ。本当に」
大和がそうしてかまをかけ、翼は少しの沈黙の後、互いに起きたことを1つ隠さず話したのであった。昼間に起きたこと、行方不明事件のこと、学校であったこと、ロナウを呼び出すきっかけ。互いにあり得ない話だと思いつつも、それでも互いに話を真剣に聞いていた。
「お互い、妙な男に助けられたな」
「異世界から来たとか、まだ信じられないが助けてくれたのは確かだよ親父」
「ああ。そして、数々の異変を解決し、また脅威に対しそれを倒せる能力を持つ人を集めて世界を守るとな。二人とも大変な仕事を背負っているわけだ」
「そ、それでな父さん」
翼は大和に対し、彼らの仲間になりたいと申し出たのであった。普段あまりそういった意思表示をしてこなかった息子の意外な一面を見た大和は、黙って目を瞑って頷いてから、にこやかに笑顔で親指を立ててこう言ったのであった。
「そうか、ああ。俺は何も言わん。ただし、無事に帰って来い。ハーネイトさんの能力があれば傷などすぐに治るだろうがな。……俺も二人の男と、かわいらしいお嬢さんに近づいて有益な関係に持ち込みたい。能力者がいるだけ彼らも安心して故郷に帰れるみたいだしな」
「だから地球の人で力を使える存在を集めていたのか。2人とも、異世界から来たからこそ、そうしてから帰るつもりかもな。自分たちの世界は自身で守れ、か。しかしおせっかいな人たちだ」
翼はハーネイトが仲間を集めていた理由を更に知り、彼らも本当は故郷で悠々自適に暮らしたいはずであり、それでもすべての世界を守るために、事件を調べ解決する傍ら、自分たちに戦い方を教えに来たことに感謝していたのであった。
「それまで手伝うのも悪くないだろう。まあ、明日また考えよう。それと早く帰れたから夕食作ってるぜ翼」
「ありがとう、親父。もっとあの男たちから話を聞いて、鍛錬して、事件の顛末を見届けるんだ」
そうして翼は大和の作ったホワイトシチューを2人で食べながら話をして、風呂に入ってから眠りについたのであった。
「とんでもないものを見てしまったわね。響君と彩音ちゃん、あとあの男たちもいた。緑髪の優男さん、気になるなあえへへへ」
翼と大和が寝静まるころ、暗くも街灯が照らす夜道を歩く、九条学園の制服を着たある眼鏡の女の子はそう思いながら歩いていた。
その彼女の表情はやや不気味な笑みを浮かべ、これから彼らをどう調べ尽くそうかとニヤニヤしていたのであった。彼らの動向を追ってみたい、その気持ちがますます強まりそれに比例し彼女の顔も笑みを強く浮かべていく。
女子生徒はハーネイトたちが異界亀裂から出た所を偶然見つけたのであった。彼らは視認されることを避けるため迷彩を使っていたにも関わらず、彼女はそれが見えていた。つまり彼女も霊的感知能力の高い人間であることが見てわかる。
この女子生徒こそ、昨日彩音たちに救出された被害者の一人、間城璃里(ましろりり)である。彼女も元来から霊を感じることができる体質ではあったが、事件の影響により感知能力が強化されている状態であった。
「だけど、帰ったら生放送の準備しないとね。フフフ。まあ、明日聞き出せばわかるよね。彩音」
しかし今は動画サイトで流す自身のゲーム実況生放送のために早く帰宅して準備しようと、彼女は急いで走り、自宅まで向かうのであった。
間城が何かを画策している中、響たちはファミレスを出て帰宅途中であった。響は彩音と別れた後すぐにハーネイトたち3人に声をかけあるお願いをした。そう、家に招こうとしたのであった。
「ということで、3人には俺の家に来ていただきたいのです」
「俺は暇だからいいぜ。ニヒヒヒ!」
「どうしようかしら」
「パ、パスは……だめ?」
「すみません、私の母は一度決めたことを絶対に曲げない性分なのです。連れてこなければ、俺が大変な目に遭います。それと昔の事件、特に5年前の事件について資料をもっているはずです」
相変わらずノリのいい伯爵、そして慎重なリリーに対しハーネイトの言動がどこか弱弱しいのを見て大丈夫かと思った響であったが、よく考えると伯爵からオフの彼は大体こんなものであると教えられていたので仕方ないと思い彼を説得した。
そこでいかにもハーネイトが食いつきそうな話題を利用し、彼の抵抗力を削ぐことに成功する。
「分かったよ……まったく。事件に関する情報、興味ある」
「お手数をお掛けして申し訳ありません」
「それで、いつ行けば……」
「できれば今から……」
「ふぉあ?」
今からかと思ったハーネイトだったが、響の素質の高さと何か関係があるのかもしれない。彼の親についても調べてみる必要があると思いポジティブモードに心を変えた。響はほっとしながら自宅のある部屋まで3人を案内し、先に響が自宅に入る。
「母さんただいま!例の人たちを連れてきたよ」
「おかえり響、流石私の息子、やるじゃない!」
「母さんたら……お客さんを待たせてはあれだよ」
京子は息子がしっかり頼みごとを果たしてくれたと嬉しそうにしていたが、響の言葉で我に返り玄関先にいた3人に声をかけた。
「あら……やはりね」
「おーい、相棒大丈夫か?震えてるぞ」
「やはりと思ったけど、ああ、この場から逃げたい。逃げてはだめだと思うのに、ぐぬぬぬ!」
「もう諦めなさいな、こればかりは。ほら、事件に関する情報収集だと思いなさいハーネイト」
勇気を振り絞ってハーネイトはこの場にいたが、体はそれを隠せなかった。本来の彼はこんな感じではないのだが、今日は特におかしかった。
それは自分が慌ててかけるべきだった魔法をかけ忘れたことに対する自分の失態を未だに自身で責めていたからに他ならない。
「貴方たちが、例の事件の被害者を救い出して私の働いている病院まで運んできたのね。フフフ」
「……そこまで情報が、あとで響にはお仕置きが必要、かな?」
「ちょ、先生!それは勘弁してください!」
「ともかく、家に上がってくださいな。いつも息子がお世話になっております。後自己紹介が遅れました。私は結月京子と申します」
「では、お邪魔させていただくぜニヒヒヒ」
そうして京子の案内で3人はリビングに案内された。部屋はあまり広くないもの、とてもきれいに清掃されており、意外と落ち着くかもとハーネイトは思い少し平静を取り戻した。
「少し狭いと思うけれど、そこのソファーに腰かけて待っていてくださいね。今お茶とお菓子を用意しますので」
「ねえハーネイト、顔色大丈夫じゃ……ないよねやはり」
「折角の美人顔が台無しだぜ」
「緑髪の人……お体の具合が悪いのですか?」
紅茶と和菓子を持ってきた京子はハーネイトの顔を見て具合が悪いのかと確認した。
「い、いえ……こういうのにはあまり慣れていなくて、ハイ」
「何言ってんだ?もっとすごい局面あっただろ」
「落ち着いてくださいな、まず、私はあなた方に礼を申し上げたいのです」
なぜ目の前の女性が自分たちを招いたのか、かなりハーネイトは警戒していた。
とにかく自分は本来世界を壊す兵器として生を受けた、最悪の人でなしだ。運命のいたずらに翻弄され、実の親である女神の代わりにあらゆる世界を守ることを誓った戦士として生きてきたと、位覚悟を常に持っていた。
また、あまり深く異世界の住民に関わると今後、何か予期せぬ影響が出るかもしれないと彼は警戒していた。
「私は今から9年前に夫を亡くしました。例の矢田神村集団昏睡事件の際にです。その後息子の響と、今フランスで暮らしている長女を連れ、私はこの街に来ました。けれど、響の話を聞いてまた同じ事件が起きていることを確信しました」
京子は今までの自分の身の上を話し、そのうえで響からすべて聞いたことも明かしたうえで自身が魂食獣と思われる存在を見ることができると打ち明けた。
「貴方たちはあの化け物を倒す方法を知っているようですね」
「ということは、京子さんも見えるわけか。ええ、そうですよ。私たちの能力ならばあの化け物に致命傷を与えられますが」
「響と彩音ちゃんも、その、あなた方が助け出したときにその力に目覚めたのですか?」
ハーネイトはそれにイエスと回答し、京子にも素質が一応あることを伝えた。その言葉を聞いた彼女はどこか嬉しそうにしていた。
「恐らくそうでしょう。先天的に能力を持つ人もいますが大体があの化け物などに接触した際に刺激されて目覚める感じですね」
「そうなのですか、……ハーネイトさんでしたね、一つお願いがあるのです」
京子はそう言うと深々と礼をし、3人の目をしっかり見てからある頼みをした。
「息子のこと、そして友達や被害者のことをよろしくお願いいたします。私もできることならば夫を殺した仇を取りたいのですが……」
「むやみに力に溺れてはいけません。ですが、万が一そうなったときは私たちで教えます」
「約束、してくれますか?」
「ええ、誓いますとも。戦うのに向かない人でも、後方支援という形で活躍できることも多いですし」
京子は、ハーネイトたち3人が確固たる信念を持ち戦ってきたことを理解したうえで、この先起こりえる事態に関して対処をお願いしたのであった。
ハーネイトの一言で、彼女はうっすらと涙を浮かべた。ようやくあの忌まわしき元凶の正体と倒せる人材を見つけられた。今までの苦労が報われたような感覚が彼女の涙腺を緩めたのであった。
「皆さん、今まで相当な苦労を重ねて生きてきたのですね」
「それは貴女も、ですよね」
「ええ、お互いしなくてもいい苦労を重ねて生きてきた、ということでしょうね」
それから5人は色々話をし、京子はその異世界に興味を示した。一方のハーネイトや伯爵もこの国の文化や法律にさらに興味を持ち、リリーと響はようやく本来の顔になったハーネイトと、久しぶりに笑う母の姿をそれぞれ見て安どしていた。
「あの、この話が役に立つかはあれですは、現在この国には退魔士の派閥がいくつもあります。その中でこの街に刈谷、もとい紅魔ヶ原という一族が住んでいます。彼らからも話を聞けば何か良い情報を得られるかと思います。他の地域でも同様に管理している一族がいます」
退魔士の話は大和からも聞いていたが、やはり有名な存在なのだろうとハーネイトたちは思い、近いうちに接触してみるかと考えたのであった。少しでもどこまで被害が出ているか調べないと、予想以上に事態が深刻化しているかもしれないことが分からないからであった。
「それとこれをお貸しします」
「これは、もしかして今までの怪事件に関する新聞の記事ですか。おおお、これは」
「これが役に立てるなら、死んだ夫や事件で亡くなった被害者たちの無念も少しは報われるかと」
「ありがとうございます京子さん。全身全霊で、事件を無事解決に導きます」
「今の私にはこれくらいしかできないものですから。それといつでもいらしてくださいね。皆さんと話すと、寂しさが和らぐ感じがします」
「わかりました、また時間のある時にお話しいたしましょう」
京子は最後に、3人に対しいつでも来てくださいと言い、もう一度礼をした。それにハーネイトたちも礼をし、響に挨拶して部屋を出て、事務所に戻ったのであった。
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