第18話 翼の決意


「俺は……。はっ!」


「よかった、目覚めたようね」


「大丈夫か翼」


「あぁ、どうにかな響。何だかよ、体が凄くだるいんだけどさ。このくらい大したものじゃねえ、っ」


 ベンチで寝かされていた翼は起き上がり、全員の顔を見て確認した。


 響と彩音は友達だからともかく、他の3人は知らない顔であり、しかも異様な雰囲気を体から発しているのを感じやや後ろに後ずさった。


「ところでそこの3人……できれば名前を教えて欲しい。色々、世話になったしな。俺は、鬼塚翼って言うんだ」


「……ハーネイトだ。ハーネイト・スキャルバドゥ・フォルカロッセ。何でも屋な探偵だ」


「サルモネラ伯爵だ、伯爵と呼びな。こいつの助手として働いてるで」


「リリーと呼んでね、えへへ」


 翼は気になっていた人たちの名前を聞いて、顔と名前を改めてしっかりと覚えた。


「それで、ハーネイトさんか。俺がイメージしたあのロナウというのは、貴方が言っていた霊量子という力の影響なのか?」


「まさしく、その通りだ。翼も貴方の父である大和さんと同じく、霊的感知能力の高い人間であり、その中でも霊量子という存在に気づくことのできた霊量士の素質があるということだ」


 翼はハーネイトにそう質問し、死んだロナウの霊が具現化して現れたことについてその仕組みを聞き、彼は簡潔にどうしてそうなったのかを教えたのであった。

 

 しかしあまりに現実離れした話に、翼は頭が追い付いていなかったのであった。 


「何故父さんのことを……?しっかしさあ、とんだファンタジーとしか言いようがねえな。すぐに信じろと言われても、だが。あれは現実だ。そうなると、3人の話もうなづける。しかし別の世界から来たとか思えねえな。日本語上手すぎだろ」


「地球の人に言葉は教えてもらったのでね。それと一連の出来事は全て事実なのだよ。それで、力に目覚めたわけだが霊量子のコントロール訓練を受けていない以上、今の状態では具現霊、君のだとロナウを呼び出すには、相当な負荷がかかるぞ」


 伯爵とハーネイトの説明を聞き、ロナウを呼び出すにも今のままでは長くはもたないことを理解し、さらに応用力があることを把握した翼は更にどうすれば長くあの状態、つまり憑依背霊を維持できるのか2人に訪ねた。


 その答えを聞いて納得した翼に、ハーネイトは付け足してその具現霊と霊量子との関係について話をする。


「すると、つまり……霊量子を操る技術は訓練でどうにかなるわけなんだな?」


「そうだ、操作量と貯蓄量を上げればどんどん強くなれる。最も、素質があることが前提だが」


「そうだぜ翼、慣れればいつでもそのロナウって具現霊を呼べるし話せるし。そしてあの化け物を倒すにも、魔獣、悪魔への対処にも、その力は有効なんだ」


「俺のような存在にすら、その力はダメージを与えられるんだぜ。対霊特攻の力を持っていると思いな」


 自分の得た力が、そして幼馴染の覚えた力も、それだけすごいのかと思いつつ翼はハーネイトたちに自身をどうするのかと尋ねたのであった。


「それで、どうしろというのだ?」


「できれば、同じ事件を解決するために力を貸してほしいなと。対抗する術は全て教える」


「しかしさ、思うんだけどハーネイトさんだけでもどうにかなりそうな気がするんだけどな」


「人手が足りなさ過ぎてね、大切な調査や捜査、検証がかなり進んでいない状態なんだ。1人だけでは限界もあるのだよ。無理にとは言わないけれど、事件の捜査や調査に協力してもらえるならうれしい限りだ。こちらも全力でサポートをする」


 先ほどの戦いを見て、あの仮面騎士を一方的にもてあそぶように遊んでいたハーネイトが無駄なく動いて攻撃をかわしているのを見ていた。それだけの力があるから一人でもよさそうだと感じそう言ったのであった。しかしハーネイトは仲間が欲しい理由を挙げて説明したのであった。

 

 その話を聞いた翼はそれもそうだなと感じ、そしてハーネイトが探偵業をしていることに興味を持っていた。


 彼はラノベや推理小説が好きで、そういう存在にも関心があったためであった。追っている事件の毛色は違うものの、それでも今起きている事象について解決したいという気持ちは人一倍強かった翼は、軽くへへっと笑ってからハーネイトに質問した。


「探偵か、面白そうだな。探偵団でも作るのか?」


「いい拠点が見つかればね。それまではあれだが」


「そうか、それで3つ確認したいことがある。ハーネイトさん、伯爵さんよ」


「いいでしょう。何を知りたい」


 そして翼の質問を聞くため、ハーネイトと伯爵は翼の目の前に立った。


「まず1つ目、俺の力は本当にこれから強くなるのか?そして2つ目、俺や響、彩音のいた村を襲ったあの幽霊を倒せるんだな?」


「そうだな、どちらもイエスだ」


「霊量士も、スポーツと同じように毎日の鍛錬の積み重ねで強くなるんだぜ」


「それと、努力次第だがな。ああいう化け物相手に有効打を現時点で与えられるのはそれなんだ」


 それを聞いた翼は、自身の中にいるロナウともっと語り合いたいと思い、母の命を奪った存在を倒す力なのかともう一度確認することができてほっとしていた。


「そ、そうか。強くなれるんだな。努力するのは、昔から得意だしな。それと最後の質問だけど、父さんのことをなぜ知っているのか?」


 その質問にリリーも合わせ3人は、昼間起きた出来事を話したのであった。父が危ない目に遭い、それを助けてくれたことを知ると、翼は非常に驚いていた。


「お、親父まで、俺の前からいなくなるところだったのかよ。……本当に、借りばかりだぜ。親父を助けてくれて、ありがとうございました」


「いいってことよ。おかげでこちらも助かった。色々情報を集めてくれるらしいのでね」


「いいお父さんをお持ちで羨ましいわね、翼君」


「それで、まだ仲間に加わるか返事を聞いていないけど」


 翼のお礼を聞き、3人は笑顔でそう言葉を返し、ハーネイトは改めてどうするのか、決意を聞こうとしていた。


「勿論だ、俺も仲間に加えてくれ!響や彩音があんな化け物と戦っているんだ。同郷の者だし、友達なんだ。そしてあんなのを野放しにしたら、またあの村と同じことが起きちまう。……よろしく、頼む。俺を鍛えてくれ、兄貴たち!」


「ああ。その言葉を聞きたかった。よろしくな、翼」


「んじゃ、今後ともよろしくな。それとこれを使えばいつでも俺たちに連絡取れるから、渡しとくぜ」


 そう言い、伯爵は翼に対して響や彩音と同じ通信端末、Cデパイサーを授けたのであった。


「は、はあ。ではまた明日、色々話を聞かせてほしい。響、彩音、先ほどは、悪かった。俺だってあんな奴ら倒したいってずっと思ってたのに先を越されてさ、意地になっていた。だけど、俺もお前らももう同じだ。ずっとそうだろ?」


「別に気にしてないぜ、翼」


「改めて、霊量士、いや、現霊士の仲間入りね。よろしく頼むわ翼君」


「さあ、もう帰ろうか。探偵見習さんたち?」


 そうして全員は帰宅の途についたのであった。翼の家も響たちの近くにあり、途中で別れ明日の登校時に会おうといい彼はハーネイトたちと別れたのであった。


「しかし、お腹すいたな」


「食べる所は色々あるみたいだがな、この大通りはよ」


「お金さえあれば、食べるのには困らないってのはいいよね」


「そういや大和さんが封筒をくれたけど、紙みたいなものが入っていたんだが、これって何?まさかこれが、この世界のお金……?」


 そう言い、ハーネイトはズボンのポケットにしまっていた封筒に入っていた紙こと一万円札を二人に見せたのであった。


 それを見た響は慌ててそれを直すように指示した後、それがこの世界の紙幣でありお金であることを教えたのであった。


 彼らの故郷でも紙幣があるにはあるが、それらとは全く違う作りにハーネイトは気付かなかったのであった。


 今までその性能ゆえに食事もさほど必要ではなく、特にお金に困ることはなかったものの、この世界において活動するうえで改めて紙幣や経済について学ばなければならないと感じていた2人であった。


 何せ来たのがつい最近であり、地球での生活に関する事前調査をまともにできなかったことが裏目に出ていた状況でもあった。


「これこの国のお金ですよ。しかも10万も。大和さん無茶しやがって」


「これが、その、紙幣というわけか。ふうむ、初めて見たが、精巧に作られている。この目を凝らさないと見えない模様がきれいだ。是非この技術も習いたい!」


 伯爵はともかく、この世界でのお金を初めて見たハーネイトは故郷であるフォーミッド界アクシミデロ星のよりも緻密にデザインされ、紙の質もまた格段に違うものであることに感嘆していた。


「助けてくれたお礼なのでしょう?でも、私たちもお腹がすいたわ。親は今日は夜勤だし、あそこのレストランで食べませんか?」


「そう、だな。この世界のことを知るためにも、いいだろう。経験の積み重ねが、明日の勝利を手繰り寄せる。ってね」


 そうして全員は通りを過ぎて住宅街の近くにあるファミレスに立ち寄り、そこで食事をとったのであった。


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