第2話 紅き流星と霊が見える高校生
時は20XX年2月初旬、地球の日本にある京都。その中の街の1つに春花という学園都市が存在する。
場所は京都の北西部にあり、規模は中規模で年の中心部には「私立春花九条学園」及び「私立春花九条大学」、その付属校「春花九条高等学校」が存在している。
春花市は今から約12年程前に新たにできた新興都市であり、人口は12万人程度、構造盆地であるため寒暖の差が激しい場所であるが他の動揺の場所と比較すれば割と住みやすい環境であり、犯罪の件数も周辺に比べ低い治安のよい場所である人気の街である。
観光名所も結構あり、郊外には自動車工場や大きな公園、自然豊かな山脈があり地下新幹線が通っている影響で他の場所から来る観光客も多い街である。
しかし、この街の最たる特徴と言えば歴史が浅いことと、世界中で起きている異常現象、つまり血海による被害を受けてこなかったことが挙げられる。このため、最近では他地域から移住する人も少なくないという。
だが、今この平穏な街では幾つか不可解な事件が起きていた。突然何も告げず人が行方不明になる事件が、昨年12月の終わりから1月にかけての約1か月間で30名に達する勢いで発生していたのである。
しかも同時期に、5件の不審死が街内で発生していた。警察が現在捜査を行っているものの、現在捜査が難航している状況であり、住民の間でも不安が広まりつつあった。
時刻は夜8時過ぎ、陽は既に身を隠し、代わりに月光が地を照らす頃、九条高等学校の生徒が部活を終えて正門から出て帰宅の途についていた。そんな中、ある2人の男女の高学生がビルや街灯が白く夜を照らす街中を歩いていた。
「今日も部活きつかったな彩音」
「でも、毎日が充実しているわ。先輩は結構怖いけど」
「まあ、な。明日は土曜だし部活もない……。しかし、翼はどこにいるんだ。連絡も取れねえし、親父さんも心配で眠れないだろうよ」
「うん……私たちも学校終わってから探しているけど、手掛かり1つないわ。ねえ響、神隠しの話は知っている?」
紺色の学生服を着た、黒髪短髪で肩掛けのバッグを揺らしながら煉瓦で敷き詰められた街の歩道を歩く男子学生、彼の名前は「結月 響(ゆいづき ひびき)」という。
彼は生まれつき霊感が非常に強く、昔からそれに悩まされてきた。そしてある田舎の村で起きた恐ろしい事件の被害者であり、その村からこの春花へ家族と移住してきた人たちの一人であった。
「ああ。ここ1か月で結構な数の人たちが行方知れずな話だろ?警察も動いているみたいだけど、捜査が進んでないらしいな」
「もう30名超えてるわよ。それにしてもおかしいと思わない響?」
「確かにな彩音。そんだけいれば目撃者だっているはずだ、何か嫌な予感がする。翼も、それに巻き込まれたのだろうか」
響の言葉に複雑な表情でそう言葉を返す、彼の隣を歩いている、髪が濃青色で前髪の両端をおさげにして、後ろ髪を1つに結んだ、響と同じような学生服を着て手には試合で使う薙刀を持っている少女。彼女の名前は「如月 彩音(きさらぎ あやね)」と呼ぶ。
彼女も響と同じく霊感が非常に強く、響と同じ村の出身であり、村を襲った悪夢により祖父と祖母を亡くし、同じく移住してきた人であった。
彼らには大きな秘密があった。それは単に話しても誰も信用されず、またそれに関しては口止めもされているため誰にも話してはいない。
「その可能性は高いと私は思うわ」
「俺も彩音の話を聞いて思ったけどさあ、普通もっと騒ぎになるはずだろ?こういう行方不明になっている事件ってさ。数も多いのになぜニュースでもあまり取り上げられないのか不気味に思うぜって彩音」
「そうだよね。……問題はそれだけではないけどね、響」
2人は行方不明者の安否が気になりながら、大々的に取り上げられない状態に違和感を覚えていた。それと、今起きている問題はそれだけではない。
「ほら、今日も、よく見えるよね。あの流星」
「ああ、はっきりとな。っても見えるの俺たちとあいつらだけだろ?」
「他のクラスにもいるけど何で限られた人にしか見えないのかな」
「さあな、俺たちと翼、時枝と間城、九龍が今のところ見えるわけだが」
「まだいるわよ。あとあの五丈厳君もね」
2人は、少し立ち止まり顔を見上げ、夜空を見ていた。今日も東の空にあれが見える。それは赤く燃えるような流星であり、大きさからして結構地球と近いように見える。
紅き流星と言われるその星は、何時頃からあるのか分からないが幾つもの不思議な点がある。それは星を観測できる人がほとんどいないことである。
また、目撃した人が出始めてから、夜空に映る満天の星々が徐々に減ってきていると言う。だが、本来なら騒動になるはずの問題であるはずだが街中は至って平常時と変わらない。
それは、先述した一部の人にしか見えないと言う問題のほかに、5年前に起きたBW事件により天体の観測に必要な施設が軒並み世界各地で使用不能になっており、事件後の世界規模での混乱と再編の中で誰も天体の動向に意識を傾ける余裕がないと言う理由もある。
2人はもう一度現在あの流星が見える人を再確認し、何か共通したものはないか考えつつ、もう1つの問題についてどうするべきか話を続けていた。
「極めつけが写真撮ってもろくに映っていないことだよな彩音」
「あれは流石にみんな苦笑いよね。どう証明すればいいのかなあ」
「なんかいい方法ないかなあ……困った話だよな」
その問題は、響の言った通りその流星は、カメラで撮影しても映らないと言う事である。このため証拠を見せようとしても見せられず、彼らはもどかしく思いながらもひそかに見える人たち同士で情報共有をし続けていると言う。
そうして2人で歩いていると、響はT字路の突き当りにある、とある民家が建てているコンクリート塀を見て何かに気付く。
「な、なあ彩音。あの突き当りに亀裂のような物が見えないか?」
「そ、そうね。壁が不自然にひび割れているわ。しかも……」
響は指を指し、道の突き当りにあるコンクリート塀を見るよう、彩音に指示をする。
「光が漏れ出している。しかも、この大きさ、どうにか人が入れそうだぜ」
「そうだけど、嫌な予感しかしないわよ」
「だけどさ、この感じ。あの時のあれによく似ている」
「もうすぐ9年になる、のよね。故郷が住めなくなってから……」
亀裂から感じる特有の雰囲気。それは彼らにとって良くないものであった。昔自身らに起きた出来事を思い出し険しい表情になった響は、一呼吸間を置いてから彩音に話しかけた。
そう、この2人は今から約9年前に起きた怪事件の被害者であり、親族を失っている。その事件により住んでいた故郷を負われ、この春花に移住してきた人たちであった。
しかも、響と彩音、そして現在行方が分からない翼という友達も含めた3人は事件の犯人と思われる存在と対峙しているという。
今でもあの時のことは忘れられない。忘れてはいけない。事件のことに関しては箝口令が敷かれているようなものであり、犯人を見たといえばこの先どうなることか分からない。
そもそも、この春花に移住し新たな生活を送ることになったのも事件のことについて口外しないことと引き換えであり、尚のこと大人たちに、ある事実を打ち明けることはずっとできなかったのであった。
そんな中、響の父親の命を奪ったあの怪しく光る狼。幼いながらも、今でもそれははっきり覚えていた。その感覚も、獣の表情も。それが放っていた気と同じ気配、感覚が壁に生じている亀裂から漏れていたのを感じ取った響は表情を一変させる。
「俺は入るぞ。何か手掛かりが掴めるかもしれねえし」
「何の手がかりよ」
「行方不明になった人たちのことだよ。あんだけ警察が動いても誰も見つかってないんだぜ?」
「だからって、私たちだけでどうにかなるの?止めておこうよ!」
「何言っているんだ彩音。……翼たちと立てた誓い、忘れてんじゃねえよ。俺たちでみんなの仇を取るって。嫌なら先に帰ってくれよ。村を滅茶苦茶にしたあの化け物を、俺は許せねえんだ」
響は止めても無駄だと彩音に言い、その亀裂の前に立った。彼の友人も、おととい辺りから連絡が取れない。探しても痕跡すら見当たらず、不安が募るばかりであった。
「俺だけでも行くぜ!」
「ま、待ってよ響!もう、なんでこうなるのよもう」
昔から彼はこんな感じだ、彩音は呆れながらも1人で待つのが心配で怖かった。響を1人にして行かせるのも問題だ、そう思うと怖がりながらも響についていくことにしたのであった。
「これは、一体。電子空間か何かか?頭がおかしくなりそうだぜ。絶対、やばい感じがする」
「こんなところがあるなんて。普通に呼吸はできているし、少し体が重いのが気になるけど」
2人は亀裂に恐る恐る近づく。するとあっという間に周囲の景色が一変し、今まで見たこともない空間が広がっているのを目にした。グリッド状に、途方もなく広がる透明なガラス張りのような床。全体的に透き通るように青く、まるで電脳空間か何かのような場所にそのまま体が入ったかのような不思議な背景。いきなりどこかに移動させられたのかと錯覚するほどで2人は慎重に冷静に、辺りをくまなく見ていた。
とその時、気配も立てず、彼らの頭上からいきなり巨大な狼が前足と鮮やかに鋭く光る爪で襲い掛かろうとしてきたのであった。
「グルァアアアアアアア」
「うわっ! 」
「こ、これはっ! 」
その一撃を後方にステップしてかわす2人。そしてその獣は響たちの姿を目に収めると威厳のある雰囲気を醸し出し、圧倒的な存在感と圧迫感を強烈に与えた。
「これは私たちの村にいた、あの白い狼!村を、みんなを壊したあれが、何でこんな所にっ!」
「父さんの仇……俺がとる!」
「……コレハ、ウマソウナタマシイダ。オマエラ、クラウ!」
響と彩音は、この獣について故郷で見たことがあるも、体の各部分を観察すると細部が異なることに気づいた。そして獣は人語を話し、再度飛び掛かりながら襲い掛かる。
「くッ、バトンで受け止めようにも」
「なんて力なのよ、きゃあ!」
すかさず響は手に持っていたバトンを、彩音は競技用の薙刀を前に構え、その一撃を防ごうとした。しかしその威力の強さに、2人とも1撃で10m近く吹き飛ばされる。
「がっ、ぐ……大丈夫か彩音!」
「少し、けがしただけよ。それよりも響、腕は?」
「へへ、このくらい大したことねえ。しかし、これはっ」
吹き飛ばされた衝撃で2人は軽傷を負い、互いに無事を確認する。しかし一瞬の隙を突き、獣は更に連撃を浴びせる。その強烈な一撃が彼らの腕にかすかに当たり、手傷を負わせる。
すると間を置かず獣は突撃し、2人は空中に吹き飛ばされ、強く地面に打ち付けられその痛みで起き上がることさえ困難になっていたのであった。しかも逃げ道を塞ぐかのように、あの亀裂の前に獣が立ちはだかっていた。
「なんて、強さなのよっ。こんな、所でっ!」
「死んでたまるかよ!仇を、取らねえとっ!」
2人とも、ここで死ぬのかと思った矢先、突然目の前に2人の男が何の前触れもなく出現した。その後ろ姿を見て驚くも、すぐに冷静になり一旦後ろに下がる。
その男たちはゆっくりと武器を構え、壁となって2人を守るよう身構えた。
「君たち、何をしている。ここは人が容易に踏み込める領域ではないはずだ」
「何だ、あれをやろうとしていたのか、クハハハ!だが、お前らじゃ倒せねえって。あとは任せな」
「とりあえず前方の敵性存在を撃破する!」
「あいよ!お前らは見物でもしてなぁ!そうら、ブッ醸すぜぇ!」
男たちは背後にいる2人にそう言い、黒緑髪の男はその場で手にしていた黒い刀を天に掲げ、何やらエネルギーを溜めるポーズを始めた。一方で青い髪の男は右手を突き出し、何かを発射しようとしていた。
「弧月流、極光・刃月!」
「サルモネラ・ヴァイラスヴァレット!」
「グガアアアア、ア、ガフ……」
刀を掲げた男は、そう言いながら思いっきり神々しい光を纏った巨大光剣をたたきつける動作を行う。するとその刀身からエネルギーの奔流が光の津波のように獣に襲い掛かり飲み込む。それに合わせ、手を突き出した男は灰色のノイズのような弾を数発発射し、獣の両前足を射抜いた。
「逃さん、魔より来る 大いなる枷 黒く空を染め覆い重なる蛇のよう、捕らえろ鉄鎖の無限牢獄!大魔法26式・鎖天牢座(さてんろうざ)」
「踊ってもらうぜ、俺様の眷属とな!醸死祭(イロージョンフェスティバル)」
さらに2人は苛烈な追撃及び拘束技を放つ。緑髪の男は何やら詠唱し、手にしていた何かが内包されている、茶色のアンプルを握りつぶしながら突き出す。
それと同時に無数の鎖が地面と天から獣をカーテンの如く覆い動きを封じ、青髪の男が何かを指示するように指を動かせば獣の周囲に無数の灰色でおぞましい触手を生み出し握りつぶさんばかりに獣を捕らえた。その攻撃に耐え切れなかった獣は、光の粒子となって消えながら爆発したのであった。
「あの、危ないところを助けてくださってありがとうございました」
「ありがとうございました、ところで貴方は……?」
一体、今見ていた光景は夢か幻か。自分らを襲った怪物を容易く倒して見せた、人間離れにもほどがあるこの自分たちより年上の、しかし若い男たちは何者なのだろうか。そう思いつつも2人は命を助けてもらったお礼を目の前にいる男たちに言うのであった。
「私の名は、ハーネイト。ハーネイト・スキャルバドゥ・フォルカロッセだ。この街で探偵というか何でも屋をしている。最近この街に来たのだが」
「俺はサルモネラ・エンテリカ・ヴァルドラウンだ。だが伯爵と呼んでくれ。しっかしよう、どうやってこんなところに迷い込んだんだ、ああ?」
男たちは名を名乗ると同時に武器を納め、2人に近づく。ハーネイトと伯爵は、偶然この近くを通りかかった際に人間の反応を探知し、偶然響と彩音を見つけ彼らの盾となり、獣を倒し救助したのであった。
「確かに……。2人とも、なぜこんなところに来たのだ。別件で行方不明者の捜索を依頼されているのだが、もしかすると、な」
「どうだかねえ、特徴違うだろ。こいつらは別の方法でここに迷い込んだんだ」
「でも迷い込む?もしかすると、吸い込まれたとか?まあ、とりあえず事情を聴かせていただけないかな?そこのお2人さん?」
「わ、分かりました。それと俺の名前は結月響。この街に住む高校生だ」
「私は、如月彩音と言います。それで、私たちは学校の帰りにある光る亀裂を……」
響と彩音は、ハーネイトたちに対し自身の名を名乗ってから、一息付けて一連の経緯を2人に詳しく話した。行方不明になっている友達を探している中、光る亀裂を見つけ入り、あれに襲われたことを2人から聞いたハーネイトは、やや呆れた顔をしながら話を聞いて、この少年と少女はある素質を持っているのではないかと確信していた。
「それで、亀裂を見つけて近づいたらいつの間にかここにいた?色々言いたいことはあるが……そうか、君たち。もしかして霊とかよく見える体質だろう?」
「なぜそれを、えっ」
「あの亀裂は、そういう力のあるものにしか見えない、だからだ。だが近づいただけで……?」
通常この空間に人が入ってくることはなく、だからこそおかしいとハーネイトは首を傾げながらそう言った。そして心の中で彼は2人に対し、先ほどの怪物に策も力もなしに立ち向かうのは無謀で危ない行為だと強く注意したあと幾つか質問をした。
その中でハーネイトと伯爵はこの少年少女が、確かに力の素質を秘めている存在であることに興味を持ち、一方である危険な現象が、既にこの世界で生じているのではないかということについて危惧していた。
「そうなると、あなた方もよく見えるのですか?」
「まあ、その通りだ。だからこうして危険な奴らを倒している。今、全世界で危険な現象が確認されていてね、その調査もしているのだが……」
「それって、血海のことですか?」
「何?まさか……」
ハーネイトはあくまである現象に関して調査のためにここに来たと言うが、響はその現象とは日本どころか世界各地で発生している血海のことかと思いそう確認した。するとハーネイトの表情が一変する。
「相棒、やはりこの地球も血徒(ブラディエイター)に狙われているのは確定的だぜ」
「そう見て間違いない。しかしどれだけ汚染が進んでいるかを調べるのには人手が足りなさすぎる。異界化現象の件もある」
「困った話だな全く」
話を聞いたハーネイトに、伯爵もある存在が既に地球上で猛威を振るっていることを指摘し、その上で調査まで手が回らない可能性に関してハーネイトは面倒だと言わんばかりの顔をしながらそう言い、互いにため息をついていた。血徒とは一体何だろうか、彩音は気になり2人に質問する。
「その、ハーネイトさん。血徒って一体?」
「ああ、その君たちが言う、血の海を作った犯人の組織名だ」
「なあ彩音、この人たち、やっぱり只者じゃないな」
「そうね響。もしかすると、あれをどうにかする方法とか知っているのかも」
「ああ、確かにできるけどねそれ。しかし人手がいるし、ある能力なしには除去は不可能だ」
それを聞き、自身らよりも遥かに強い男たちに興味を抱くも、あまりのその強さに恐怖をどこかで感じていた2人であった。そして響が率直に彼らの戦闘を見た感想を述べた。
「あの、さ。2人は、一体何なんだ。あの化け物を一瞬で吹き飛ばすとか」
「人間なのですか、貴方たちは?とても人間離れした動きと言いますか、戦い方と言いますか」
響も彩音も、男たちの戦い方が異質というか、見たことがない。とても常人離れした芸当に戸惑い、何者かについて情報を聞き出そうとした。
「……私たちは、あくまで霊的な事件や化け物を退治する探偵であり、何でも屋だ」
「そうだぜ、へへへ。しかしあんたら、見てはいけないものを見たな?」
「それは、どういうことですか」
「……ここは世界と世界の境界領域。うまくここを利用すれば別の世界に容易に行けるわけだが、あまり知られると悪用する輩がいるのだ。現に、今この空間を利用するため異界化浸蝕を行っている不届きものを私たちは追っているのだが」
「しかし、血海の件も見逃せねえなあおい」
どこか違和感のある男たちの話を聞きながら、2人は自身らを助けてくれた恩人ではあるため、彼らの言葉を一字一句、必死に聞き漏らさず聞いていたのであった。世界と世界を、この青い空間を渡っていけば旅することができること、それを悪用し世界の境界線を乱す存在がいることについてだけはしっかりと響と彩音は理解したのであった。
「こ、ここがか?なんかそうには見えない場所だけど」
「私もそう思う、一見誰もがそう感じるだろう。しかし、ここは別の世界に繋がる可能性のある領域だ」
「悪いが、ついてきてもらうぜ。なあに、おとなしくしていれば何もしねえ。血海の話、聞かせてくれよなあ」
「こらっ、伯爵は怖がらせるようなことは言わない」
伯爵はそう笑いながら2人に提案し、響と彩音はやや不安を覚えつつも従うことにした。それからハーネイトたちは、元来た道を戻り空間の外に無事脱出したのであった。
「ふう、驚かせて済まねえな坊主たち」
「いや、別に。しかしあの怪物は……何なのですかハーネイトさん」
「ああ、あれはこの世界とは別の世界から来た化け物、霊的生命体だね」
「あれ、が。俺たちの村を」
ハーネイトは彼らの言動からそう推測し、言葉を放ったのであった。なぜならば、先ほど現れた怪異は普通の人間には不可視の存在であり、それを目で捕らえられるのはある才能、技量を持った人でないとほぼ不可能であったため。そしてそうだとした場合、この響と彩音にはそれらと対峙し、打ち倒す潜在能力を秘めているのではないかと考えていたからであった。
「なあ、あの獣みたいなやつって、何なんだ」
「あの化け物の正体は、魂食獣(こんしょくじゅう)」
「魂を、食べる、獣? 」
彼が言ったその言葉に反応した響と彩音は、更に詳しい説明を求め、それに対してハーネイトは最後まで丁寧に説明を行った。あらゆる魂、そしてその中に存在する高濃度の霊量子を喰らうため現世を暴れまわる霊界の生物。先ほどの白い狼がその一種であることを告げ、響も彩音もそれについてぞっとしていたのであった。
「なんという化け物だ、そして、それは」
「私たちの村を襲った、その幽霊みたいな狼とよく似ているわ。いえ、きっとそうよ」
「そう、か。何があったのか、聞かせてもらいたい。どちらにしろ、一旦私たちの事務所まで来てくれ。戦闘で傷を負った以上、もしかするとという可能性がある。手当をするからついてきてくれ」
ハーネイトは、彼らの話に興味を持っていた。先ほどの血海の件も含め、今追っている事件及びある組織の情報と関係があるのかもしれないと考えていた。その上で、改めて中央街の中にある小さな事務所にて話をしたいと彼らに持ち掛けてきたのであった。そして彼らもそれに応じたのであった。
5年前に起きたBW事件、それ以降地球上の陸地はどんどん居住可能域を血海により狭められていた。どんな方法を尽くしても、犠牲を出してもじわじわとにじむように広がるそれを、この魔法探偵と人間にしては怪しすぎる助手は消すことができると言うなら可能な限り情報を提供したい。互いの利益は一致し情報を共有することになったのであった。
その後改めて2人はお礼をハーネイトと伯爵にした。もしかすると、この人たちについていけばあの事件の謎がさらに分かるかもしれない。
何故村が襲われ、多くの人がなくなる結果になったのか。犯人は何が目的で命を奪っていったのか、真相を知りたい。今まで掴めずにいたがこの男たちなら何か知っているのかもしれないと思い、響も彩音も決心して9年前の事件のことを話そうと決めたのであった。
それと、世界を滅茶苦茶にしようとする、彼らが追っている血徒という存在のことも気がかりであった。5年前に起きた大事件のこともあり、その時に現れた悪魔のような吸血鬼はとてもこの世界に住む住民の者ではなかったため、それについても彼らに聞いてみようと彼らは考えていたのであった。
「ハーネイトさん、伯爵さん、ありがとう、ございました」
「いいってことよ。さあ、行こうぜ。幸い他に被害はなさそうだし」
そうして彼らは、ハーネイトが仮の事務所を置く中央街まで足を運ぶことにした。街中にあるやや古いビルのエレベーターで4階にあるその事務所まで移動し、ドアの鍵を開けてハーネイト探偵事務所の中に入ったのであった。
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