星空モール
スマホの画面見ると、そこには12時55分と表示されている。
よし、5分前行動はバッチリだ。と、俺は駅前にある例の銅像。
空を指差す少年の銅像に寄りかかりながら、一ノ瀬を待っていた。
今日は雲ひとつない晴天。吹き抜ける風はどこか心地がいい。
周りを見ると、ゴールデンウィーク最終日ということもあってか、結構なほどに人がいる。
そのほとんどが、子供連れの親子や学生である。恐らく、これからどこかへ遊びに行くのだろう。
親に手を引かれている子供や、友達とガヤガヤ喋りながら駅の中へと向かって行く人たちの、楽しさや期待にあふれた表情がそれを物語っている。
俺はそろそろ来るだろうと、寄り掛かっていた背中を離し、辺りを見渡す。
すると、道路を挟んだ反対側に一ノ瀬はいた。
一ノ瀬は、俺と同じようにキョロキョロと誰かを探している。
恐らく、その探し人は俺のことだろう。
俺は、ここだよと伝えるために気持ち程度に手を振る。
すると、一ノ瀬もこちらに気付いたらしく、こちらに向けて手を振る。
そして、車がこないタイミングを見計らい、こちらに向けて道路を渡る。
少し先に信号ありましたけどね。まあ、誰も見てないだろうってことで。
「すまん。待ったか?」
「いや、俺も今来たとこ」
と、俺はベタすぎるセリフを言う。もうほんと、ベタすぎて油汚れよりベッタベタだもんな。でも、本当に今来たところなのでこれはしょうがない。
「そうか。よし、じゃあ早速行くか!」
そう言って、進行方向を指差しながら歩き出す一ノ瀬。
「ちょっと待て、行くってどこに行くんだ」
俺は、歩き続ける一ノ瀬について行きながら聞く。
「ん?言ってなかったっけ?星空モールに行くんだよ」
「星空モール?どこだそこ」
「いや、この前一緒に行ったじゃん。あのでっかいショッピングモールだよ」
「それ、そんな名前だったのか」
知らなかった。名前とか一切気にしてなかったわ。
でっかいショッピングモールという認識でしかなかったからな。
何かに役に立つかわかんないが、これから覚えておこう。
* * * * * *
星空モールに着いた俺は、あまりの人の多さに驚愕しているところだった。
駐車場は止まり切れなかった車で溢れかえり、モールの中は手を伸ばすことができないくらいの人の多さだった。
なにこの既視感!これ、最近見たよ!っていうかあの日より何倍も人が多いよ!
俺は、隣にいる一ノ瀬の方を見ると、人の多さに驚いた様子はなく、入り口にあった地図が書いてある紙を見て、なにかを探してる。
もう、なんでもいいから人が少ないところに行かせてくれー。
そんな俺の願いが届くわけもなく、一ノ瀬がここだ!と指を差したのは、明らかに人がわんさかいそうな服屋だった。
嘘だろ……。服屋って……しかもこれ、最近女子高生に人気のブランドじゃねーか!
ははは、終わった。
「よし、こっちだ!行くぞ天谷」
そう言い、一ノ瀬は俺の手首を掴み、小走りで目的地に向かう。
その時触れた一ノ瀬の手はとても優しく、そして、冷たかった。
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