幼馴染との夜。その1
一向に止む気配のない大雨の中、俺と真彩はやっとの思いで家の前までたどり着き、バイバイと素っ気なくやりとりをした後なのだが。
ここで一つ問題ができてしまった。
家の鍵がない。そして、目の前には鍵のかかった扉がある。
イコール家に入れないと言うことである。
俺はもう一度びしょびしょのポッケとバッグを真剣に探す。
一生懸命に無我夢中に、一筋の希望の光を信じて……。
ただ、俺に神様は微笑まなかった。
びしょびしょのポッケにもカバンにも、俺の鍵はなかった。
どゔじでなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
い、いや、姉貴だ。まだ姉貴がいる!
「え、今日帰んないけど」
「はい?」
「だから友達の家に泊まるって……言ってなかったっけ?」
「言ってねーよ!聞かされてねーよ!」
「それはごめんねー。じゃあ、そういうことでー」
「ちょっ」
俺の言葉を待つとせず、無慈悲にも電話は切れる。
姉貴のやろう。覚えておけよ。
え、どうするの?これからどうすればいいの俺。
まさか野宿?こんな大雨の中?無理だろそんなの……。
そんな絶望的な状況に打ちのめされている時だった。
ふと、後ろを振り返るとそこには、真彩が家に入りかけている状態で俺の方をボーッと眺めている。
そんな俺の視線に気づいたのか真彩は、あ!っと言う驚いた声と共に慌てて家の中に入る。
おっと、その手があったか。
俺は悪戯をする子供のような笑みを浮かべ、真彩の家へと向かい、インターフォンを押すと。
「シャワー浴びるからちょっと待ってて!」
そう、インターフォン越しにキレ気味の声が聞こえてくる。
怒ってたよ!?なにあの、インターフォン越しにも伝わってくる怒りのこもった声。
あんなの、米国のポリスメンだって怯えちゃうよ。あれ、こういう時の怖いは英語でどうやって表現するんだっけ?ホラーとか?いや、それは違う気がする。
やばい、英語があんまり得意じゃないのがバレてしまう。
いや、別に俺は英語のテストの点数は悪くはないんだけど。
それでも、何というか、テストの英語はわかっても、いざ実践的に使えるかって言われたらそうでもない。
まあ、別に実践的に英語を話す機会なんて俺にはまだないのだが。
それにしても、英語の例文とかいうのは、少し状況が独特すぎやしませんかね?
例えば、ボブは夜ご飯を食べました。
知らねーよ!お前が晩ご飯食べたかどうかなんて微塵も興味ねーよ!っていうかボブって誰だよ!スポンジか?スポンジなのか?そもそも、英語の日常会話でボブは夜ご飯を食べました。とかいう時ないから!と、ついツッコミを入れたくなってしまう。
そんな、くだらないことを考えていると、目の前の扉がガチャリと開く。
「それで、なんのよう?」
そう言って、やっぱりキレ気味で出てきた真彩は、しっかりと部屋着に着替えており、無地の白いシャツに紺色の短パンを履いて、腕を組みながら貧乏ゆすりをしている。
言いにくいよ。こんな不機嫌そうな真彩に一晩泊めてとか言えないよ。
でも、言わなきゃ野宿。真彩もそこまでひどいやつじゃない。
ちゃんと、俺の話も聞いてくれるはずだ。よし、勇気を出せ俺!今の俺には愛と勇気だけが友達だ。いや、愛は友達じゃない。
「一晩泊めてくれない」
「死ね」
前言撤回。早すぎるよ!前言を撤回させるのが早すぎるよ真彩さん!
もうちょっと待てなかったの?俺が言い切る前に死ねって言ってたし。
「頼むよ!もう、頼れるのはお前しかいないんだよ」
そう、必死に頼み込む俺を見ると、真彩は頭を抱えながら大きくため息を吐いて言う。
「そもそも、なんで泊めなきゃいけないわけ」
「家に入れないんですよ」
「なんで」
「鍵を家の中に忘れて」
「空さんはどうしたの」
「どうやら今日は帰らないらしくて」
それを聞いた真彩はもう一度、大きなため息を吐き。
呆れながら言う。
「一晩だけだから。それと、着替えとかは私のしかないから」
「着替えも貸してくれるのか」
「は?当たり前でしょ、逆にそんなびしょ濡れの格好でいられる方が困るっつーの」
そう言いながら、真彩は入れと言わんばかりに扉を開けながら顔をクイックイッと玄関へとやる。
その表情はとても怖かった。
そんなこんなで、俺は今日の寝床を確保することに成功した訳であった。
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