一夜明けて

 まだ、ほんのり寒気が残る朝に俺は食パンをくわえながら一人で学校へ向かっていた。

 周りを見ても人はおらずとても静かで、自分の足音がよく聞こえる。

 昨日はコンビニに行ったが結局、財布を忘れてしまいなにも買えずに帰ってきた。

 まあ、帰ってから財布を持ってもう一回行けばいいだけの話だったんだが、めんどくさくなってしまい、今に至る。

 これで俺は天谷家の掟を一つ破ってしまったわけか。でも知ってるか?罪ってバレなきゃ裁かれないんだぜ?

 うっ。今なんか頭に見た目は子供頭脳は大人とか言う探偵が過ぎったんだが……

 気のせいだな、うん気のせいだ。大丈夫だ黒ずくめの男たちもその黒幕と言われてる博士も見当たらない。

 うん。安心安全の通学路だ。

 そんな感じで若干冷や汗をかいていると、あっという間に学校に着いた。

 靴箱に行くと案の定、大量の登校してきた生徒でガヤガヤしており俺にとって一番と言っていいほど嫌いな空間と化していた。

 ほんと嫌いだよこのうるささ、帰りは時間をズラして帰るということである程度は防げているけれど朝となれば防ぎようがない。

 遅刻するわけにも行かないし、かと言ってうるさくなる前の早朝に行くのは無理だ。

 俺は朝には弱い。ほんと布団は時に最高の相棒となったり最大の敵になる。

 強敵と書いて友と読むというのは布団のことを言ってたのかもしれない。

 そんなことを考えてながら靴を履き替えているときだった。

「だーれだ」

 そんな可愛らしい声と同時に俺の視界は真っ暗に閉ざされた。

 いやまあ、誰かに両手で目を押さえつけられただけなんだが。

「いや、まじでだれ」

 俺は聞き馴染みのない声に思わず素で反応してしまう。

 いや、だって本当に誰だかわかんなかったから。

「えー、本当にわかんないの?」

 ん?なんか最近聞いた声な気がする。

 でも誰だ?分からん。

「えっと……そろそろ答えてくれないとこっちが恥ずかしくなってくるから早く答えてー」

 ん?この少し動揺した感じの声は確かあの人だな。

 でも名前が出てこないんだけど。

「お、お……そうだ!音山美桜だ」

 良かったー思い出せたー。

 危なかったー、ギリギリセーフ。

「せ、正解」

 そう言った音山の方を向くと、顔が耳まで真っ赤になって目もどこか変な方向に向いていた。

「いや、どうしたの?」


「だ、だって……天谷くんが早く答えてくれないから」


「それはごめんだけど」

 それを聞くと、音山は一つ良いよと答えて一回二回と割と大きめの深呼吸をした。


「あはは、こっちこそごめんね」


「え?なにが?」


「いや、天谷くんってクールなイメージがあったから正直怒られたらどうしようって思ってたから」

 音山は少し申し訳なさそうに俺に言ってきた。

 それにしても、俺がクールねえ。なんか俺の今までの人生の中でたどり着いた性格をクールで片付けられるのはなんか思うところがあるが。

 っていうか俺別にクールじゃないし。

 そんなことを考えていると、音山は満面の笑みで俺に言ってきた。

「一緒に教室までいこう!」

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