どこまで描写するか
三人が見守っている書物は、その装丁からしてシレアの書庫には馴染みの薄いものだった。シレアの書庫に収められているものは、開いた紙を幾重にも重ねて一つの纏まりとして細紐で綴じらという方法が採られている。分厚い書の場合、その薄い纏まりを複数集めて量を増やす。そしてほとんどは皮もしくは布の張られた表紙が付き、劣化や破損から守るよう計られている。
だが、ロスが持ってきた奇妙な書物はやや見た目が異なるのだ。
「諸官の手間を減らすためにも、この書の状態を先に記しておいた方がいいな」
カエルムは書の表紙を撫でる。指先に経験のない感触がある。材質が分からない。布製品でないことは確かだが、木材豊富なシレアが編み出した木を原料に作る紙とも違う。物理的な抵抗が少ないのだ。
「事の伝達用に、簡潔にですか」
たった今下された用命を果たすため、ロスも書物の形状を記せるよう、大きさを
「頭にすぐ浮かぶように、工夫して欲しい。恐らくすぐには現物をまじまじ見に来ることが出来ない者もいるだろう」
「会議中の資料にするなら、あまり細か過ぎても話が進まないわ。ある程度、のところで止めておかないと」
確かに膨大な議題が上がる会議で、この書物だけの議論に終始しては仕方がない。まだ何も大事は起きていないのだ。また、資料の内容が多すぎると討論を阻む危険性があり、会議の意味が無い。発言が無ければ会議室に集まる意味などない。
「姫の言う通りだな。諸官の意見も聞かねばならないし。状態と、不可思議な点は目の前に描ける程度で、尚且つ発言を誘導するように……これは難題だ」
眼に見えるように文を作るにはそれなりの行数を費やす。しかし文が続きすぎては、議会資料とはいえ読む気を無くす官吏もいよう。特に多くの業務を抱えている者にとっては。
適度、というのは最も便利な言葉だが、言葉で簡単に言えるのとは裏腹に、実行するのは最も難しかったりするものである。国の政策も……シューザリエ王城料理長自慢のかぼちゃのスープも同じらしい。
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眺めの良い駅ビルのカフェにてしばし休憩の蜜柑桜です。クリスマスのイルミネーションが綺麗です。ほっこりする傍ら、少ししんみりもします。
さて、書いていると悩むことも多いので、こちらの体験記はさくさく更新です。コメントありがとうございます。
今回、前半はあえて「描写」に分量を割きました。今日は、描写と会話のお悩みです。どこまで描写するか、どこまで会話を続けるか。そのバランス。以下、本文を含みますが大したネタバレはないところを持って来ました。
例えば、主人公がテハイザに入国し、初めて海に面した王都が見えたときの様子です。
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旧稿:
「老人について門をくぐると、城下町が広がっていた。海に向かって土地は緩やかに傾斜し、赤い煉瓦の屋根が一面に並ぶ。空と海の青色と煉瓦の朱色が美しいコントラストを成し、まるで一枚の絵のようだ。」
うーん……。これではあんまり頭に浮かんでこない。イメージとしては、海に向かってかなり急勾配。坂の上からだと海も見える情景。ヨーロッパ都市で言うと、私が行ったことのあるところでは、リスボンみたいな感じなんです。ただ、リスボンはかなり細かく小路が入り組んでいて、記憶ではそこまで「街の建物や海が見晴らせる!」感じではないのでした。
赤煉瓦の屋根がばぁぁっと見晴らせるイメージは、フィレンツェの高い階層の寺院に登った時に、屋内から見た様子。すごく印象深かったんです。赤煉瓦の屋根がずらっと並んでいると言う感じ。それが街の上から見晴らせる。坂の下から見上げると、建物が棚田のように並んでる……でもこの国では「田」はちょっと違う。
最終稿はこちら。
「老人について門をくぐると、その向こうは壁の外とは対照的に、家屋や商店のひしめく城下町が広がっていた。道は石畳で整備され、両脇には貝殻を模した彫りのある街灯が等間隔に立っている。
検問所を出たところから土地は海に向かって緩やかに傾斜し、赤い煉瓦の屋根が一面に並ぶ様が見下ろせる。空と海の青色と煉瓦の朱色が美しいコントラストを成し、まるで一枚の絵のようだ。」
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もう一つは城の中の様子。いくつもの廊下が入り組んでいる様子を書きたいのです。部屋が左右にあって、装飾が豪華で……。
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旧稿:
「テハイザの城は広い。至る所で廊下と廊下がぶつかり、上にも下にも階段がやたらと多い。一人で歩けば到底、迷子になりそうだ。
廊下の装飾も様々で美しい。青年は、その場所ごとの部屋の機能によって装飾が分けられているのだと話した。なるほど、手摺の金属や窓枠の細工模様など、廊下ごとに統一が見られる。」
これだとやっぱり、構造の複雑さもイマイチだし、装飾がどんなものなのかも具体的に見えて来ません。
最終稿:
「テハイザの城は広い。至る所で廊下と廊下がぶつかり、上にも下にも階段がやたらと多い。一人で歩けばすぐに迷子になりそうだ。
廊下の装飾は様々で美しい。そこに並ぶ部屋の機能によって装飾の種類も分けられているのだと、青年が説明した。そう言われて注意して観察すれば、なるほど、
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どちらも、書き直してみると大体、倍の分量になっています。初めて出て来た場面は、頭の中にその場所が浮かび上がるように書きたいのです。が、頭にあるイメージを言語化する時に、なるべく現代のカタカナ語を避けたい(「モチーフ」もあとから帰るかも)。そうすると色の表現も限られてしまって(海を「コバルトブルー」とか言えない)、悩むんですよねぇ。
しかも文章が続きすぎても、読むのに疲れてしまうし。地の文だけで引っ張っていける小説ならいいですが、私の筆力にそこまであるとは思えません。適当に会話を入れないと。
そこで会話の分量も問題になってくるんですけど、もはや2000字を超えてしまったので、また別の機会に。
なんでこんな話になったかと言うと、私のパソコンさんの機能で、自動バックアップ→時間を遡って旧稿を簡単に見られる! と言うことが分かったりもしたのでした! 何と
さて、作業に戻ります。
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