星の導きは不変ならずや〜カクヨムコン体験記〜
蜜柑桜
シレア国、冬。
北方に山を持ち、森に囲まれた国、シレアの冬の訪れは早い。
秋に色づいた木々が葉を落とすと、裸になったその枝の間を縫って冷たい風が吹き、それは城下へ降り行き、道ゆく人に外套の襟元を合わせさせ、民家の窓は閉じられる。
シレア国の王都シューザリーンを南北に流れるシューザリエ河の水は凍てつくように冷たく手を痺れさせる。
冷え込んで澄んだ空気の中、鐘楼の上、一国に唯一存在する時計の時報が、一年で最も凛とした
***
シューザリーンの王城の一室。突き抜けるが如く澄んだ青空を向こうに透かした窓の手前で、楓の大木から作られた広い卓に向かい、若い男性が腰掛けていた。即位式を間近に控えたシレアの第一王子、カエルムである。
この美丈夫の左右には書類が山と積まれていた。彼は先ほどから一時もその場を離れず、それらに目を通しては、羽根ペンを走らせているのである。何しろ秋まで諸外国へ外遊へ出かけており、帰ってきてまだ間もないのだ。留守中に溜まった仕事を片付けるのに日がな一日、この執務室に籠もりっきりなのである。
ふと、カエルムの端正な顔が上げられた。と思うと、何やら扉の向こうでこちらに駆けてくる足音がする。
カエルムは何時間かぶりに伸びをすると、座ったまま体を回し、窓の外を眺めた。冬晴れの空が美しい。
「殿下ぁっ!!」
「どうした、ロス」
扉も叩かず息せききって駆け込んできた従者に振り返りもせず、問う。
「ちょっとは驚いてください! 書庫の中に妙な本が……」
「本?」
そこで漸く、従者へ顔を向ける。彼が手にしていたのは、一冊の書物だった。表紙には短い言葉。
——『天空の
「そんな書が、この城にあったか?」
「なかったと思うから慌ててるんですよ。しかもそれだけじゃありません。この本、文字がどんどん増えてるんです」
「どういうことだ?」
ロスと呼ばれた従者が、急いで頁をめくる。書の三分の一から四分の三あたりのところが開かれると、そこでは紙の上で文字が——驚くべきことに——今、二人がみている間にも増えて、つまり自ずから文章を綴り続けていた。
「なんだ、これは」
「だから驚いてるっていうんですよ。しかも初めからこれが起こってるのでは無くて、途中からですよ? しかも、止まったり動いたり、規則性もない!」
***
カクヨムコン5に参加してみることにしました『天空の標』の主人公と従者にご登場いただきました。執筆について、気まま〜に行こうと思います。
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