第10話 消失点

盗んだのは私だ


太陽に近づくにつれて燃えていく記憶が

堪らなく愛しかった青い青い夜


秒針は放物線なんか描かずに

月を割りに行った



さよなら



ページが連なっている私の毎日は

いつも神話みたいにヴェールで覆われて

とても私のものとは思えない


ビニール袋に入れた

将来の夢を揺らし

明日のことはただ

慌ただしくレシートに打ち込んだ


気が付けばあんなに不思議だった雲の形は


ただ空を滑るかたまり


夏のにおいは

押し入れの雑誌と一緒になって

毎朝のコーヒーくらいの感傷


私はいつしか小さなピリオドを抱いて

やっと迷子になれた気がしていた



だけどごめんね


盗んだのは私



何も知らないにんげんは

太陽が燃えるということの

本当の痛みで絶滅する


人の声は柔らかい


自転車の速度は見えないし

木漏れ日はいつも反転する


全てが宙返りするように

瞬きの間で何度も生き返る


私はいつか手放した秒針の

終わりのない秒針の

架空の最後をこの先ずっと

目蓋の裏にしまって

どこへでも引越してしまう


いつか大人になったら

私に言ってやって欲しい


消失点などどこにも見えない

せめて自分勝手に生きて

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