2 僕の話
外は曇っていた。彼女が濡れていたので、雨が降っているのかと思った。
歩くと僕の仲間が声をかけてくる。
「やあ、今日は雨が降りそうだな」
左目を悪くした男で、開く右目でぱちぱちと瞬きする。彼の鼻は敏感で天気も良く当たる。雨のにおいは間違いではないのだろう。
「じゃあ、急がないとな」
「なんだ? 特売日か?」
「そうじゃないよ。人を探してる」
「人なら、そこらじゅうにいるだろう」
興味をなくしたのか、早々に欠伸をしている。知り合いとはいえ、こいつも失礼なやつだ。濡れる前に帰ったほうがいいぞと背中を掻いて知らせてくれた。帰る場所はもうないのだと、教えるのは面倒だった。
「生きてるやつじゃない」
「死んだやつなら、墓に行きな」
「この国じゃ、そうそう埋まってないだろう」
「灰にするなんて、物好きがいたもんだ」
「最近死んだ女だよ」
「女も毎日死んでるさ」
「男もだよ」
そりゃそうだなんて、開いた右目で空を見る。
「ひどい雨が降るぞ」
話にならないと踵を返した。すると、男が思い出したように言った。
「儂には見える目がないが、あいつらならよく知ってるだろう」
カァカァと鳴きながら、一斉にカラスが飛び立った。
なるほどと思い、僕は彼らの飛ぶほうに顔を向けた。
「気を付けな」
「ありがとう」
男はゆっくりとした足取りで歩き、古書店の軒先に腰を下ろした。あそこは退屈しのぎにはぴったりだ。
僕は走りだした。雨が降る前に、話をつけたかった。
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