1 僕の話
僕は窓際で未だに彼女と距離を保っていた。一定の距離。近付きすぎてはいけない。雨の匂いと、血のにおい。
僕に馴染みあるそれを彼女から嗅ぐ日が来ようとは思ってもいなかった。
「ねえ、あなたとお話ししに来たのよ」
もっと近くに来てくれてもいいじゃない。最初の驚きなどなかったように、彼女は落ち着いている。
しかし、彼女の頭の傷が僕の頭にこびりついたように感じる。痛々しい傷が乗り移ったようなのだ。赤く、泥臭い傷跡。
さらに薄汚れた姿には見覚えがある。僕にとって、僕らにとって身近だからだ。
轢かれたのだろう。
そして、死んだ。
彼女は死んだ。冷たい手のひらは動くはずのないものだ。
「どうして?」
声を出さずにはいられなかった・
「私って運が悪いでしょう?」
どこか悟ったように、彼女は言い放つ。
「仕方ないのよ。今日はね、お別れを言いに来たの」
彼女はそっと近付き、僕に触れた。やはり、熱はなく、冷たい風が頬を触れるようだった。
「お礼もね」
彼女は耳元でありがとうと呟いて消えた。
僕は夢を見ていたのかもしれない。そう思いたかったが、夢にするには冷たすぎた。
「ところで、なんの特売日だったんだ?」
僕のちょっとした疑問に答える人間はもうどこにもいなかった。
彼女と同じように、僕も不運だ。
外に出るしかなかった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます