1 僕の話

 僕は窓際で未だに彼女と距離を保っていた。一定の距離。近付きすぎてはいけない。雨の匂いと、血のにおい。

 僕に馴染みあるそれを彼女から嗅ぐ日が来ようとは思ってもいなかった。

「ねえ、あなたとお話ししに来たのよ」

 もっと近くに来てくれてもいいじゃない。最初の驚きなどなかったように、彼女は落ち着いている。

 しかし、彼女の頭の傷が僕の頭にこびりついたように感じる。痛々しい傷が乗り移ったようなのだ。赤く、泥臭い傷跡。

 さらに薄汚れた姿には見覚えがある。僕にとって、僕らにとって身近だからだ。

轢かれたのだろう。


 そして、死んだ。

 彼女は死んだ。冷たい手のひらは動くはずのないものだ。

「どうして?」

 声を出さずにはいられなかった・

「私って運が悪いでしょう?」

 どこか悟ったように、彼女は言い放つ。

「仕方ないのよ。今日はね、お別れを言いに来たの」

 彼女はそっと近付き、僕に触れた。やはり、熱はなく、冷たい風が頬を触れるようだった。

「お礼もね」

 彼女は耳元でありがとうと呟いて消えた。

 僕は夢を見ていたのかもしれない。そう思いたかったが、夢にするには冷たすぎた。

「ところで、なんの特売日だったんだ?」

 僕のちょっとした疑問に答える人間はもうどこにもいなかった。

 彼女と同じように、僕も不運だ。


 外に出るしかなかった

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