第10話 お祈り無双


 神竜(の、卵)……アーナロゼと契約した私、幸坂菫は『祈り』を捧げることで神竜(の、卵)アーナロゼの力が使える。

 水守さん曰く、アーナロゼは創生神で、その創生神の力とは『神力』と呼ばれるもので……魔力とは違う『創造』の力があるんだって。

 ややこしーい。

 ややこしいけど、まあ要するにつまり!


「私がアーナロゼにたくさん祈れば、アーナロゼの力がそっちこっちに働いて世界が動き出すってことなんですね!」

「……大分省略しましたね……? ……まあ、でも大体そんな感じの認識でいいと思います……。何が出来て、何が出来ないのかは実際やってみないと分かりませんし」

「ですよね!」


 という事のようだ。


「では午後は俺も畑作りを手伝います。幸坂さんはアーナロゼの言っていた「森を元気にしてみる」……を実践してみてください」

「はーい!」

「…………やけに元気になりましたね?」

「だって土を耕すのもうやらなくていいんですよね」

「はい、別にいいですよ。今日は」

「やった! ……。…………え、今日“は”?」

「今日“は”」

「………………」


 …………まだ結構耕せそうなスペースあったもんなぁ……。

 どんだけ畑作るのよ……。


「滞在期間がどの位長くなるか分かりませんし……幸坂さんとアーナロゼの力があってもこの世界に我々の世界の野菜が無事育つ保証もありませんからね」

「…………そ、そうですね……」


 クッソ、このど真面目お巡り〜〜!

 この現実主義者〜!

 真面目がすぎるってば絶対〜!


「…………水守さん……」

「なんでしょうか」

「……どの世界でも生きるのって大変ですね……」

「そうですね」


 でも日本ってモンスターもいないし、24時間営業のコンビニがあっちこっちにあるし……いい国だったんだなぁ……。

 うっ、思い出したら色々心配になってきた。


「そういえば、優勝戦誰が勝ったんだろう……」

「幸坂さんの職場の話ですか?」

「そうです! SGの優勝戦だったんですよ!」

「えすじー?」

「スペシャルグレードっていう意味で、競馬で言うところのG1です! こないだやってたのはチャレンジカップといい、グランプリに出場を賭けた大事なレースだったんですよ!?」

「…………はぁ?」

「くっ! そうですよね、分かんない人には分かんないですよね……!」

「すみません……。オートレース、競輪、競馬に並ぶ公営競技である事は知っているんですが」

「そうですよ!」

「!?」


 立ち上がる。

 そうなのよ、競艇……ボートレースは国で認められた公営競技!

 なのに!


「おかしいんですよ! 公営競技なのに、国主体で運営されるべきもののはずなのに! 競輪はレース場がどんどん閉鎖になっていくし、オートレースも一場閉鎖になりました! なのにパチンコ店は全国にポコポコポコポコ出来て公営競技場はお客も減るし若い人は存在も知らないし競馬する人にはやたら見下されて馬鹿にされるし! その上カジノを作るですって!? ばっかじゃないの!? そんなことするくらいなら日本発祥のボートレースを世界に広めろよ! 地味だし競馬に比べて簡単だぁ? やってから言えよ!! 競馬より目が少ないから当たりやすいと思ったら大間違いだからな!? くそぅ!」

「…………」

「…………」

「…………そうですね」


 …………この温度差よ……。

 フッ……。


「午後も頑張りましょ〜…………」

「はい、頑張りましょう」



 ***



「でも具体的に森を元気にするってどうやるんですかね」

「さぁ?」


 くっ、分かっていたけど煤けた木々しか立ってない。

 この森はなんで燃えたのかしら?

 ……いや、そんなこと分かったところで仕方ないんだけど。

 うーん、畑の時みたいに祈る……。

 一本の焼けた木の前に立ち、手を組み、目を閉じて祈ってみることにした。

 まあ、物は試しよね。

 さっきアーナロゼに聞いたことを信じて実践よ!

 アーナロゼの事を信じる。

 そして、祈る!


 ……木よ、元気になーれ。

 元気になーれ。


「どうだ!?」


 目を開けて顔を上げる。

 …………ん!?


「……………………」


 言葉が出なかった。

 だって、目を開けたらそこにはかすかすの煤けた幹ではなく……立派な大木があったのだ。

 幹が茶色い皮に覆われて……生き生きとした緑色の葉っぱが生い茂っている。

 こ、こんなことある……?

 こんなことって……!


「み、み、水守さん水守さん水守さん水守さん!!」

「はい、見てました。凄いですね」

「もっと感動して下さいよ! そしてもっと私を褒めた方がいいです!?」

「落ち着いてください」


 わわわわわ!

 両手をパタパタさせて鍬を振るう水守さんに駆け寄る。

 だって、だってほとんど燃え落ちていた木が普通の木になってるんだよ!?

 すすすす凄いよ!

 これは……!


「奇跡ですよ! 奇跡が起きましたよ!?」

「…………」

「なんで反応薄いんですか!?」

「むしろなんで自分でやって自分で大はしゃぎなんですか?」

「え!?」

「え?」

「…………」

「…………」

「私がやったんですか!?」

「はい。だから一度落ち着いてください」


 なんだってぇ!?

 私凄いな!?

 え? 私がやった!?

 あ、そうか私がやったのか!

 え?


「祈りの力すげーー!!」

「…………水飲んできたらいいんじゃないんですか?」



 〜〜給水中〜〜



「少し落ち着きました」

「なによりです」


 ぐっと口元を袖で拭う。

 ふ、ふぅ……あまりの事に年甲斐もなくはしゃいでしまった。

 夢の国でもこんなにはっちゃけた事ない……と、思う……のに。

 だって、あんなカスカスの煤けた木が目を開けたら元気な木になってるのよ?

 燃えてカスカスだったのよ?

 木炭みたいだったのよ?

 それが公園の木みたいに、太い幹に生い茂る葉っぱ!

 驚くでしょ、普通!


「こ、こんな感じで森を元気にしていけばいいんですかね?」

「そうだと思います。良かったですね、上手くいって」

「よ、よーし、頑張ります!」

「はい、よろしくお願いします」

「…………」

「? どうかしましたか?」


 なんかすっごいやる気出てきた!

 と拳を握る。

 でも、すでに私の耕したところを軽〜く上回る感じで地面が耕されていて……。


「え、地面固くありませんでしたか?」

「? 柔らかくなっていましたよ? 午前中に幸坂さんが『祈り』で柔らかくした、と言っていませんでしたか?」

「あ、はい」


 …………。

 えー……だからってそんなにたくさん耕せる〜?

 私が二メートル四方で耕したような畑が八ヶ所に増えてる〜……。


「あまり作りすぎても世話が追いつかないかもしれません。十ヶ所くらいにしておこうと思いますが……」

「あ、はい……そうですね……」

「本当は肥料があればいいのでしょうが……正直人糞は…………」

「絶対ダメですよ」


 それは私も許さねーよ。

 ……神殿の中にトイレは一応あったけど……やっぱり水洗トイレなわけもなく…………。

 私が子供の頃にあったボットン便所だったのよね。

 ボットン便所が分からない奴はググれ。

 ふふふ、アレ、溜まったらどうしたらいいのかしらー?

 …………考えるのが怖いので考えるのはやめよう。


「……それに、肥料もやり方があるらしいですし……」

「え、そうなんですか?」

「でもさすがにそこまでは両親に教わっていないんですよね……農業に関する資料も送ってもらった方がいいでしょう」


 ど、ど真面目…………。


「幸坂さんは引き続き木々の回復……いえ、復元……と言うべきなのか……森の修繕、の方がいいでしょうか」

「そ、そうですかねー……」

「そちらをお願いします」

「は、はーい」


 感動がないなー……相変わらず事務的というかなんというか。

 ……そして本当にサクサク作業に戻りやがるし。


「…………はぁ、私も頑張ろう」


 もっと褒めてもいいと思うし、もっとはしゃいでもいいと思うんだけどなー。

 だって凄くない?

 木が復活したのよ?

 凄いでしょ、どう考えてもー。

 奇跡よこんなの!

 アーナロゼの力すごい!


「…………」


 こうなったら……この辺一帯の木をぜーんぶ復活させて、ガチの森っぽくして驚かせるしかない!

 見てろよあの野郎……!

 神竜の奇跡を見せつけてやるからな!



 ***



「幸坂さん、夕飯出来ましたよ」

「ぶわぁ!?」


 肩が跳ね上がった。

 え? ご飯?

 あ、れ? 暗い? いつの間にこんなに暗く……?

 いや、元々結構曇天模様で暗かったけど……。


「ご飯……」

「あと、昨日頼んでいた物資が届いてます。部屋に運んでおいてください。シャンプーなどは、さっき風呂場に持って行きましたから」

「あ、はい」


 生理用品か……そうね。


「…………」

「どうしました?」

「いや、ここどこですかね?」

「浜の近くです。随分頑張りましたね」

「…………」


 褒められた……。

 ……水守さんに、褒められた……。


「で、でしょー!」

「でもさすがにここから先は例のモンスターの付近なので帰りましょう。危ないです」

「は、はい!? はい!」


 帰る!

 え、そ、そんなに遠くまで来てたの!?

 胸を張ってドヤってしたはいいが、モンスターと聞いたらすぐに背が丸まる。

 先に道を歩き出す背中について坂道を登り始めた。

 こんなところまで来たの初めて……坂道になってたんだ……。

 山……そういえば向こうに山が見えたっけ。

 そんなに大きい島じゃないとか言ってたけど……向こうにも、その反対側にもまだカスカスの山がある。

 浜を囲むように……三日月型の島なのかな?


「…………私、本当に結構頑張りましたね」

「そうですね」


 道……まあ、砂利道だけど……その道を囲む木々は全て青々とした葉っぱに覆われている。

 幹も木炭じゃなくて茶色い。

 あ……地面に草も生えて……。


「明日は俺が頑張ります」

「え?」

「とりあえず、南東の浜に居たモンスターを排除します。……アーナロゼが幸坂さんに頼んだ、モンスターの浄化……。それを考えると、同行してもらわなければならないと思いますが……戦闘はお任せください」

「え……」


 ええ〜……わ、私も行くの〜……?

 …………うー……でもそういえばそんなようなこと言ってたな〜……。


「アーナロゼに浄化のやり方など、詳しく確認しておいてくださいね」

「は、はぁい」

「あと、夕飯は約束通りスパイシー唐揚げです」

「え!? やったぁ! ありがとうございます!」

「それと、肉巻きコロッケと肉巻きのソテーです」

「うひゃおう! 肉尽くし! ……、……もしかして、私が食べたいって言ったからですか?」

「調味料が少ないのであまり期待しないでください。……まあ、随分頑張っていたので……」

「……! そうですよ! 私は褒めると伸びるんですよ!? もっと褒めてください!」

「……幸坂さんってB型ですか?」

「…………。水守さんってA型っぽいですよね」

「ABです」


 うわぁ、謎と二面性ありのAB型……。

 血液型占いだとB型女と最も相性最悪なAB型男……!


「っていうか私そんなに分かりやすいですか……?」

「かなり」

「くっ」


 なんでB型ってすぐバレるんだろう。

 B型女って特に即バレするわよね……。

 うるさいとか面倒くさいとかバカとかルーズとか……言われたい放題するし……。


「ん?」


 ぽふん。

 と、頭になにか乗る。

 なでなで。

 ……なでなで……!?

 目だけで乗ったものを恐る恐る見上げると、なんか、腕?

 え?


「「…………」」


 え。え? …………は?


「…………手は洗ってきてください」

「は、はい?」


 神殿に着いてる。

 ……頭の上から水守さんの手が離れていく。

 …………おい…………マジか。


 マジかあの男おぉぉぉぉぉ!!!!!!


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