第2話

 その日は、6歳になった清々しい朝だった。


身支度をして、ばあちゃんのところへ行くと、突然空襲警報が鳴った。二人で防空壕に駆け込み、ぎゅっ目を瞑り頭にかぶった頭巾を手でおさえた。


 しばらくして空襲警報が解除された。二人で家に戻ると、ばあちゃんは美味しくないさつまいもをいくつか籠に入れ、私に手渡した。


「ゆうこ、これと頭巾を持って先にいつもの山に避難しときなさい、ばあちゃんは後でいくから。」


「嫌だ、お腹痛いもん。」


私は一人で行きたくないのでとっさに嘘をついた。


「あらそう。なら、そこで寝ときなさい。」


言われたとおり、布団をしきまた寝ようとした。


 1時間ほどたっただろうか。とんとん、とノックが聞こえた。


「ゆうこちゃん、遊ぼ!」


近所の子たちだった。はーい、遊ぼ!と返事し、外に出ようとした途端ばあちゃんに掴まれた。


「あんた、嘘ついたんか」


そう言ってばあちゃんが手を上げた。


「ばあちゃん、ごめんなさ」


い、まで言えなかった。宙にふわっと浮いた。意識がすっと消えていった。



「……こ…、ゆ…こ…、ゆうこー!」


ふと、意識が返り朦朧とした中で、私を呼ぶ声がする。ばあちゃんだ。


「ばあちゃん!ばあちゃん!!」


お腹にぐっと力を入れて精一杯声を出した。すると瓦礫をかき分ける音がし、急に辺りが明るくなった。私は、家の床下にある防空壕に埋もれていたらしい。ばあちゃんが私を発見して安心したのか、涙を流して抱きしめた。


「ゆうこ、良かった…」


しばらくして、ばあちゃんは私の手を握りしめ、歩き出した。


「ばあちゃん、どこ行くの?」


「福岡の親戚のところへ行こう。このままここにいてはいけない気がする。」


 どのくらい経ったか覚えてないが、ようやく親戚のお家まで来た。お腹も減ったし、暑かった。でも。


「私のとこには、他の人を泊める余裕はないから、帰ってくれ。」


そう言われた。他の親戚のところへ行っても、同じだった。


 最後の家に粘り強く頼み込んで、ようやく少しの間すましてもらえることとなった。



 しばらくは、長崎から離れて過ごし、原爆の記憶の上にたくさんの日常の記憶を重ねていった。しかし、突然また思い出して、パニックに陥るときもあった。


...


 大人になって、この体験を語り継がねばといつしか思うようになっていた。小さい頃ずっと肌身離さず持ち歩いていた頭巾とともに何十回も、何百回も涙を流しながら語った。私の思いが届き、泣きながら真剣に聞いてくれる方もいた。ああ、伝わっているんだ、そう感じた。



 そんな中、娘に子どもが生まれた。そう、私の孫だ。涙を流して子どもを抱きしめた。この子が生きる未来が、戦争のない世界でありますように。そう、願っていっそう心を込めて語り継ぎした。


 しかし、その孫はすぐに天国へ行ってしまった。私よりも早く。原爆症だった。頭が真っ白になった。神様、私の孫は、私は、何をしたっていうのですか。どうして、こんなにも早く孫の命をつんだのでしょうか。何か、なにか、悪いことしましたか。



 あの日から、原爆は、私を呪い続けている。



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