第40話 アンジェクエストⅠ
夕食をとった後ゲーム実況グループ【セーフハウス】一同は、祐一の部屋でとあるゲームをプレイしていた。
集まった3人の少女は、あれやこれやと様々な意見を出し合いながら攻略を進める。それを眺めるヤンキーが一人。
セーフハウスメンバーとは――
鋭い瞳にショートカット、常に沈着冷静で的確に物事を判断するセーフハウスのブレイン。クールビューティーの委員長こと八神いろは。
両親は大病院の医長を務める、金はあるが愛はない家庭。Vステでの活動名はブラックドクター。名前だけでなく言動も黒い。
最近は脱優等生しギャルデビューした問題児。日サロに行くのも時間の問題か?
説明書に視線を落としながら、コントローラーを握る姉に指示を出すセーフハウス1の問題児。
青い瞳に金髪縦ロールのオホホですわ女子こと砂倉峰生徒会副会長。
自称天才、自称最強、活動名はゴールドナイト。プライドの高い高飛車ポンコツ騎士。
実家は世界を牛耳るスーパーセレブ、しかしスカートを穿き忘れても気づかない天然。アンジェ・ブルーローズ。
難しい顔でコントローラーを握るのは本物の天才。
アンジェの姉で絶対零度の威圧感を放つ生徒会長。逆らうものは誰であろうと容赦しない、ロングストレートの髪にグラマラスなボディ、見た目は超絶美女、頭脳は天才、ゲームは脳筋、活動名はブルーポリスだが、暴力上等なマッドポリス。 最強の獅子レオ・ブルーローズ。
もう一人のメンバーは祐一の義妹、ゲームスキルは天才、配信すれば5000人もの視聴者を集めるカリスマ実況者。
しかしその実態はブラコンオタクの教官グリーンこと桧山
彼女たちをまとめるは見た目ヤンキー、中身は主婦、砂倉峰最強のヤンキー桧山祐一。活動名はそのまんまヤンキーマン。
そんなメンバーが今、食い入るように画面を見つめてプレイしているゲームは、大作RPGでもなければ、難解な推理ゲーでもない。
『ごめんヤンキーマン君……今日は一緒に帰れないの……』
「くっ……この女どこまでも私を手こずらせる……」
可愛らしい声優のボイスに苛立たしげに眉を吊り上げるレオ。
画面に映る二次元の文学系美少女は、さようならと残してフェードアウトしていく。
本日はVRではなくレトロギャルゲーに勤しむセーフハウス一同。
現在普通にプレイしているように見えるが、ノートPCがゲーム画面をキャプチャし配信用のスタンドマイクが彼女たちの音声を拾っている。
ゲーム実況者としての動画収録作業中だ。
普通は多少なりともキャラを作ったりするのだが、彼女たちはそんな事一切気にせず好き放題に話す。
「
ギャルゲにおいてフラグとはグッドエンドを迎えるために、行わなければならない行動や、必要なステータスのことである。
「お姉様ドーピング剤を使って、ステータスを上げてみてはどうでしょう?」
【マッスルサプリ(課金アイテム、プレイヤーの人間ステータスを上げる。お値段3000円也)】
「そうだな」
レオは躊躇なく課金を行い、プレイヤーの人間ステータスをマックスにしていく。
「人間ステータスはこれでいいとして、問題はあの女の好感度調整だ」
「お姉様、次はブランド物のバッグをプレゼントしましょう。この女、設定によれば多数の兄弟を抱え、貧困にあえいでいるそうです。きっとお金に困っているはずですわ」
「なかなか鋭いなアンジェ。さぁこれで私を好きになれ」
【ヴィットンのバッグ(ヒロインの好感度が上昇する。お値段1万円也)】
レオがを文学系少女に課金アイテムをプレゼントすると、好感度上昇のSEが鳴る。
『うわーヴィットンのバッグだ。ヤンキーマン君ありがとう。大好き~♡』
「やはり所詮どの女も金になびくのです。どんどんヴィットンのバッグをプレゼントしましょう」
ちなみに現在プレイしているこのギャルゲ『ラブラブ
セーフハウスチャンネルは対人ゲームに関しては
ちなみにこのゲーム、ヒロインが課金アイテムを受け取らない、課金アイテムを受けとらせる課金アイテムが必要など、課金システムがエグすぎて炎上した過去を持つ。
ファンからは「ラブ+α? そんな作品ないよ」と黒歴史認定される始末。
「須藤美久、私の女になれ」
人によっては羨ましく聞こえる言葉。祐一達の通う砂倉峰高校の女子ならば、レオのその言葉にメロメロになる者も少なくないだろう。
しかし相手はゲームキャラ、画面外のプレイヤーが超絶美女三人組など知ったことではない。
なんなら
レオはゲーム内日付を進めながら、ヴィットンのバッグを贈り続ける。
しかし画面のキャラクターはヴィットンのバッグに飽きたのか、プレゼントしても好感度上昇のSEが鳴らなくなった。
「なぜだ、なぜ好感度が上がらん?」
レオの疑問が届いたのか、須藤美久は申し訳無さそうに答える。
『ごめんヤンキーマン君。私あんまりこのプレゼント好きじゃないんだよね……』
「「「はぁ!?」」」
「貴様つい先日大好きと言っておいてそれか!」
コントローラーを投げ飛ばすレオ。
「お姉様、この女ヴィットンに飽きたのではありませんか?」
「つまり、より高いものじゃないと満足できない体になってしまったってことか……」
「強欲ね。ゲームキャラながら恐ろしいわ」
「どうします? バッグがダメならこのダイヤの指輪を贈りますか?」
【ダイヤの指輪(ヒロインの好感度が特大上昇する。お値段3万円也)】
「致し方あるまい」
慣れた操作でオンラインストアの画面を開くと、いろはが制止する。
「待って会長、既に須藤美久だけで15万円以上課金しているわ、その分デートくらいさせてもらわないと。もしくは水着イベントでもおきないと割に合わないわ」
祐一には金払ってるんだからお持ち帰りさせるのが当然よね? さもなければ風呂屋に沈めるしかないわとしか聞こえない。(個人の見解です)
「ふむ……そうだな。15万払ってまともに会話すらしてないのはおかしいだろう」
新入社員の給料一ヶ月分の手取りくらい貢いで、口すらきいてもらっていないとは。現実世界のエッチなお店の女の子なら、相当仲良くしてもらえるのでは? と思う。
レオはゲームのマップ画面で須藤美久を発見すると、なんの脈絡もなく【美久をデートに誘う】の
『ごめん……ヤンキーマン君、その日は用事があって……』
「「「はぁ!?」」」
「普通これだけ高価なプレゼントを貰ったら義理でも付き合うべきでしょう!?」
「この女どれだけヤンキーマンの心を弄ぶつもりなのかしら。許せないわ」
「いや、恐らくこの女の思考はこうだろう。ここで折れては自分は15万程度の女と思われる。まだここで折れるべきではない……と」
「まだ絞れると判断したわけね……」
「さすがお姉様ですわ。しかし聞けば聞くほど、この女のいやらしさが滲みでますわね」
この女どうする処す? 処す? と不穏なオーラを放つ金持ち女子三人。
「あのさ、どういう思想でギャルゲやるかは自由なんだけど、主人公の名前に俺の名前使うのやめてくんない? あとお前ら勘違いしてるが、その子は高価なプレゼントが一番効果薄い」
「嘘よ。ブランドもののバッグを贈られて喜ばない女なんていないわ」
「そうですわ、金目のモノは誰がもらっても嬉しいものでしょう?」
腐っとる。コイツらの性根が腐っとるとしか思えない祐一だった。
「この子達はまだ高校生なんだよ。お金より愛を優先させる歳なの」
「あぁミュージシャンやスポーツマンとか、夢を追いかける男に弱いタイプね。可愛いわね、その考え」
「つまり最初バッグをもらったときは、大して嬉しくもなかったのに嬉しいふりをしていたということか」
「サイテーサイテですわ! いらない物をプレゼントされても断れない人って一番タチが悪いですわ」
「タチが悪いのは唐突に金目のモノをバンバンプレゼントしてきて、俺と仲良くしろって言ってくる主人公だけどな。大体お前らなんで友達機能使わないんだよ」
祐一はレオからすっとコントローラーを奪うと、ゲームのメニュー画面を選択してマップ移動から友達の元へと向かう。
『なんだテメェか……。あっ? 美久の好きなもの? 知るかよ……まぁあいつ本とか好きだし、この前植物の世話とかしてたから花とかでもいいんじゃねぇのか?』
ヤンキー風の友人キャラクターが、ぶっきらぼうな口調でヒロインの好みを教えてくれる。
ギャルゲーによくいる、好感度等を教えてくれるお助けキャラというやつだ。
「友達に好きな女の子の名前を伝えれば、こうやって好みとか好きなデートスポットとか教えてくれるんだよ。フラグも多分植物の世話が鍵だろ」
「「「…………」」」
「なぜ黙る」
「……この友達キャラ、どことなくリアルヤンキーマンに似てるのよね」
「そ、そうですわね。見た目に反して面倒見が良くて優しいところとか、喧嘩に強いところとか……」
「それがどうかしたのか?」
「どうということはないのですが……」
「本命に浮気相手の情報聞いてる気分になるのよね……」
「???」
祐一は首をかしげながらコントローラーをレオに返す。
「美久の好きなものは本と花、そのへんを重点的にプレゼントして、放課後は園芸部に顔だしてみろよ」
「でもこの女、わたくしたちの誘いに乗ってこないのですよ?」
「その子はいろんな女の子に声をかけていると、警戒して誘いに乗ってこなくなる。しばらくはその子だけを追っかけてみればいい」
「女友達がいるだけで警戒するって、ちょっと自意識過剰なのでは? この子絶対友達いないわよ」
「この時期にこのようなコミュニケーション
「須藤美久も、いきなり札束で殴ってくる主人公にコミュニケーション不良とか言われたくないだろうな」
「とりあえず話をするために課金しましょう」
ゲーム会社にとってはこの上ないくらいの上客だった。
そんな感じでポンコツゲーム実況者兼、Vライナーとしての生活を続けるセーフハウス一同だった。
◇
祐一は散々課金したのに誰とも結ばれることなく高校生活を終えた、哀れな成金主人公エンドを迎えた少女たちに、せめてもの慈悲でコーヒーでも淹れることにする。
するとキッチンに夕刊などと一緒に取り込まれた、一枚のエアメールが置かれていることに気づいた。
「エアメール? このインターネットが普及した時代に珍しいものが……」
今どき紙で送られてくる手紙なんて8割は広告だが、赤と青の縞々で縁取りされ英字で宛名が書かれたそれには。
『親愛なる姉上へ。セルフィーネ・H・アルテミス』
と書かれているのが、かろうじて読み取ることができた。
「アンジェか、レオ宛か?」
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