第29話 直結

「はい、とりあえず君らの課金装備は全て没収です」

「「「なぜ!?」」」

「いきなり課金装備使ったらゲームバランスが崩れるだろうが!」

「売ってあるものを使ってなぜバランスが崩れるのだ?」


 レオが痛いところをつき、祐一は苦い顔をする。


「そうですわ! 据え置き機のゲームでもある一定期からDLCという文化が進み、それを使えば楽々ゲームを進めることができましたわ!」

「ぐっ、こいつら課金に味をしめてやがる……。説明するとだな、昔のゲームってのは売れても100万本とか300万本とかの国内だけの販売数だったの。それも購入層は圧倒的に若年層が多かった。でも、ゲームをやってた世代が徐々に大人になって、大人でもゲームをするのが当たり前の時代になったんだよ」

「幅広い層がターゲットになるのはいいことね」

「そう、いいこと。ただ社会人は子供に比べて圧倒的に時間がない」

「そうね」

「そういう人の為に時短アイテムがDLCで販売された。経験値2倍とか資金3倍とかはそのためにある」

「でも誰でも買えるわよ?」

「まぁゲーム会社からしたら皆等しく客だからな。買ってくれれば誰でもいいが、やっぱりDLCに手を出すのは経済的に余裕のある大人の層だ」

「でも私たちあまりゲームの腕が良くないから、使えるものは使った方がいいんじゃないの?」

「個人で遊ぶならいくらでも課金するといいが、ゲーム配信を行っていくならゲームバランスに関係する武器や防具系の課金は絶対にするな」

「どうして? 皆サクサクプレイが見たいのではないのですか?」

「課金で無双するって主旨のチャンネルならそれでも構わんが、基本的に視聴者は課金装備を公式チートズルと判定する。普通にやって手に入らないもので無双する姿は共感を得にくい」

「つまり勝って当たり前だから見ていて面白くないってことね」

「そういうこと。新しく出た課金装備の紹介動画とかならありかもしれないが、普通にやっていく分には使わない方がいい。近年課金武器の出力は抑え気味に設定されているが、君らの今持っている武器は序盤くらいの敵ならほぼワンパンで倒せる。でもそんなもの使っても面白くないだろ?」


 本来ここは効率を優先するお嬢様の価値観として、ゲームはわざと苦労するものであると理解を得難いところだった。

 しかしドラゴンファンタジーの最初の街でスライムに追いかけ回され、後一撃で殺すか殺されるかのギリギリを経験し、装備をひのきの棒から竹やり、ブーメランとグレードアップし徐々に成長する楽しみを覚えた。

 その為、彼の言葉はすんなりと飲み込むことができた。


「本来ゲームが一番面白い最序盤をショートカットしてしまうのは俺個人的には非常に勿体ないことだと思う」

「せっかく購入しましたのに……」

「ならキャラメイクやり直した方がいいのかしら?」

「ステータスに関係ある武器さえ使わなければそれでいい」

「わかったわ」


 全員がピカピカと光り輝く武器を初期装備に切り替える。


「まさかいきなり課金の話からすることになるとは……」


 小さく息を吐く。ただ使えるものは使え理論もわかるので、その辺の折り合いは彼にも難しいところだった。

 すると不意に祐一のアカウントに誰かからメールが送られてきた。


【助けて】


 メールを開いた瞬間、悲壮感漂うメッセージ。一瞬何か問題が起きているのかと思ったが、差し出し人が今宮になっている時点でそれはないと察する。


「すまん、皆ちょっと待っててくれ」


 祐一は一旦初心者ロビーのテレビ局の外へと出ると、メールの返信を行う。


【どうした?】

【今すぐギャンヒーに入って来て】

【なんで?】

【ゆかがいるの】

【天王寺が? 彼女と二人でゲームしろよ】

【ゆかが負けすぎて凄く機嫌が悪いの。それでワイに八つ当たりしてくるの】

【知らんがな】

【お願い早く】

【天王寺って初心者だっけ?】

【そう、この前やり始めた】


 祐一は初心者同士で遊んだ方が上手くなるかと思い、今宮の誘いを受けることにした。


【わかった。じゃあ今デルタサーバーのジャスティスTVにいるから来るなら転送して来い】

【あれ、お前おるか? フレ欄にはおらんぞ?】

【新しくキャラ作り直したから】

【ほーん、じゃあすぐ行くわ】


 祐一は今宮たちが合流することを伝えようとテレビ局に戻ると。


「ねぇねぇ彼女達初心者~?」

「すんごい可愛いじゃん。それリアルアバター? それともエディットアバター?」


 不機嫌気にするいろは達の前に並ぶ、三人の陽キャ系プレイヤー達。


「俺達結構プロってるからさ、初心者ならウチのチーム入りなよ」

「俺達ヒーローチームで、一撃必中少子化対策課クリティカルベイビーってチームなんだけどさ」

「俺たちと楽しくゲームやろうよ。ところでどこ住み? ラインやってる? インスタに写真とかあげてない?」


「オイ」


 そこに凄まじく低い声が響く。


「なんだ……よ……」


 陽キャたちは、金属バットを肩に担いだヤンキーが鬼の形相で立っているのを見て顔が青ざめる。


「なん……ですか?」

「それは俺のツレだ……。ちなみにだが、俺はリアルアバターだ」


 リアルアバターイコール現実世界と同じ顔ということなので、三人は更に震えあがる。


「遊ぶんだったら当然俺も入れてくれるんだよな?」

「いやぁ、えっとその……」

「ちなみに私たちその人の女だから」

「えっ?」


 いろはが悪乗りすると、レオがクツクツと悪役じみた笑みを浮かべる。


「そいつは悪い男で三股してるんだよ」


(やべぇよ、完全に893の女に声かけちゃったよ!)

(だから俺はあんなマブい女が三人並んでるのは罠だって言ったじゃん!)

(嘘つけ、お前だって外国人見てテンション上がってただろうが!)


 醜い仲間割れを始める陽キャ三人衆。

 するとそこにSFに出て来そうなパイロットスーツを着た今宮が姿を現す。彼も当たり前のように強面のリアル顔のままゲームをプレイしている。


「おぉユイチすまんのー、おぉん? なんやお前えらい大所帯やのぉ」

「おぉ、こちら今日俺たちにゲームを教えて下さる少子化対策課の皆さんだ」

「ほーん、そうか、ほなワイらも世話なるわ。よろしく頼むで兄ちゃんら」


 強面が二人に増えて、更に動揺する陽キャたち。


「いや、その……ちょっと俺達用事を思い出したんで」

「あーそうそう僕も政見放送見ないと……」

「この国の未来が心配なんで……」

「「「それじゃーさようならー!」」」


 急いで逃げ出していく少子化対策課。


「なんやお前、なんで直結厨に絡まれて……」

「まぁそれがだな」


 今宮は後ろにいる生徒会メンバーに気づくと「げっ」と声をあげる。


「前にゲーム教えてるって言っただろ」

「お、おう。なんか猛烈に嫌な予感がするぞ」

「生徒だ」


 紹介されて柔和な黒い笑みを浮かべる生徒会メンバーたち。


「助けてくれるなんて、桧山君の次に優しいわね今宮君。私はどうやったら彼らをアカウント停止にできるのかずっと考えていたわ」

「案外ヤンキーも悪くありませんわね。まぁわたくしはどれだけおだてられたところでついていく気は微塵もありませんでしたが」

「手が出そうになったから感謝している。さすがにいきなり殴るのまずいだろう。いきなりはな……ククク」

「お、おい、なんやこいつらめっちゃ怖いぞ……」


 今度は今宮が激しく動揺する番だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る