第28話 キャラメイク
◇
VRJOYの市場拡大により、ゲーム会社各社はVRソフトに注力するようになった。
開発コストの増大から祐一が配信していたテニスゲームのようなVRミニゲームか、大型アップデートを繰り返すオンラインタイトルゲーの二分化が進む。
祐一の得意ゲームであるギャングorヒーローは後者であり、すでにシーズン3の大型アップデートが完了。
運営開発側も、是非ユーザー皆で盛り上げてほしいと動画配信を推奨、賞品をつけた大会を催したり、幕張で行われるファン感謝祭やコミケの企業参加などオフラインイベントも充実しているのが人気の強さであった。
そのおかげで普段はあまりゲームをやらないカジュアル層の取り込みに成功。登録ユーザーも全世界合わせて2000万人を突破し、ゲーム実況界でも勢いのあるタイトルだ。
祐一の装着しているVRJOYが起動すると、PONYのロゴと開発メーカーであるグッドゲームカンパニーのグッジョブマークが続けて映る。
祐一の意識がゲームサーバーへと接続されると、海面に浮かぶようなフワフワとした感覚に襲われる。
毎度のことながら自分がいつ電脳世界へと入り込んだのかわからない。恐らく企業ロゴが出るくらいまでは現実世界にいたと思っているが、実はゲームを起動した時点で既にゲームの中に入っているのかもしれない。
『VRJOYへようこそ。準備がよろしければスタートをコールして下さい』
「スタート」
システムアナウンスの後に祐一がボイスコマンドを発すると、ふわふわしていた空間から暗転しゲームが開始される。
次の瞬間、彼の目に映ったのはテレビ局のコントロール室。
たくさんのモニターが並び、機器を調整するスタッフと、それを険しい顔で見つめるプロデューサらしきスーツ姿の女性がいる。
一見すると生身の女性にしか見えないが、これは既にゲームが作り出した仮想世界であり、この目に映っているもの全てが造り物である。
スーツ姿の女性NPCは転移してきた祐一を見ると、ツカツカと歩み寄って来た。
『あなたが新人の
「U1だ」
『そう、U1これからいくつか質問を行うわ。まず初めにあなた自分の容姿は気に入っているのかしら? それとも変われるなら別の人間になりたいと思う?』
「このままでいい」
「そう、じゃあ現実世界の顔とこの世界での顔、同じになるけどそれでいいのね?」
「大丈夫だ」
「OK【リアルアバター】で話を進めるわ。VRスキャナーがあなたの顔をスキャニングするからちょっと待ってちょうだい」
若干メタの入った対話形式のキャラメイクが始まり、祐一はそれに答えていく。
今回彼は他のメンバーたちと進行度を合わせるために、新規キャラクターを作成し一からスタートするのだった。
キャサリンの出題する質問に答え、あっという間にキャラメイクを終えると、祐一はゲームのロビー画面へと転送される。
ゲームロビーとはオンラインゲームを行う上で、他のプレイヤーと待ち合わせをしたり、だべり場として使用される空間だ。
ゲームによってその形は様々だが、主に公園や村、都市だったりすることが多い。
このギャングorヒーローの初心者ロビーは、ジャスティスTVというテレビ局の待合所をモチーフにしている。
ヒーローもギャングもこのテレビ局から依頼を受けてクエストを進めていく為、役割的にギルドとも呼ばれる初期の拠点とも言える場所だ。
「久しぶりに初心者エリア来たな」
祐一の目の前を通り過ぎる恐竜の顔をしたアバターの頭には、ネットゲームならではのネームプレートと初心者を表すポリスバッヂのアイコンが浮かんでいる。
他にも白い三角形の頭をした【はんぺんマン】や、髑髏が顔面に描かれた全身タイツ姿の【下級戦闘兵】など、ヒーローギャング問わず様々なプレイヤーがロビー内を闊歩し、クエストを受けたり友人らしきプレイヤーとの会話を楽しんでいる。
ふとキャラメイクした祐一の体が窓ガラスに反射すると、そこにはいつも見慣れた強面の顔にサングラス、服装はジャージに金属バットという、どう見てもチンピラにしか見えない姿が映っていた。
しかしながら彼が特別というわけではなく、他にもジャージ姿の初心者が散見される。
このゲームキャラメイク中に職業を選択できるのだが、選んだ通りキャラクターが作成されるわけではなく、キャラメイク終了後最終的にゲーム側が職業やステータスを生成するのだ。
しかしながらなぜか無職にされる割合が高く、初心者の多いマップは失業都市や要職安都市などとネタにされている。
「また無職か。初めてやった時も無職だったな」
運営曰く職業の偏りをなくす為と言っているが、明らかに無職に偏っている気がする。
祐一が中空を撫でると半透明のメニューウインドウが開き、そこから自分のステータスを確認すると
所属【中立】
装備【ジャージ】
武器【金属バット】
職業【コソ泥】になっていた。
「あかん、無職より没落しとる……」
ゲーム開始直後の初心者はまだ陣営が中立になり、ギャング側にもヒーロー側にも所属していない。
しかしこの職業でヒーロー側に所属するのは難しいだろう。
「正義のコソ泥なんか絶対いないもんな……」
リセットして良い職が出るまでマラソンするという手もあるのだが、正義のコソ泥という響きが面白いので、そのまま続行することに決める。
祐一がしばらく待つと、同じようにキャラメイクを終えたいろは、アンジェ、レオが姿を現す。
「おっ、来たな」
キャラメイクを終えた彼女達の格好は、いろはは聴診器を首にかけ白衣を羽織った女医スタイル。
アンジェはレオタードのようなインナーの上に重鎧を着た聖騎士。
レオは右目に眼帯をつけ、胸元にスターバッヂが光るセクシーな警官。
「VRって凄いものね。正直かなりなめてたわ」
「わたくしもです。完全に映画の役者の一人になったような気分でしたわ」
「おい待てお前ら」
「どうかいたしましたか?」
小首をひねるアンジェ達。
「とりあえず全員格好がおかしいが……。アンジェここはどこだ?」
「どこってテレビ局ですが?」
「周りの人の格好はどうだ?」
「やはりテレビ局と言っても会社ですのでスーツの方が目立ちますが」
「そうだな。じゃあお前の格好はなんだ?」
「聖騎士ですが?」
「明らかに時代背景おかしいだろ!? なんでお前だけファンタジー系なんだよ!?」
「プロフィールには間違ってジャスティスシティに転移してしまった異世界の騎士と書かれていましたが」
「転移系かよ……。なんでもありだな」
「そうね、副会長の格好はこの世界観だとちょっと浮いてるわね」
「後君らもおかしいな。明らかに初心者の装備じゃない。そのキラキラ光ってる注射器とか、ホルスターに入ってる銀ピカの銃はなんだ?」
「「「課金した」」」
「初手課金するんじゃねぇ!!」
祐一は彼女たちがいくらゲームを理解しようと、本質は度を越えたお嬢だということを失念していた。
桧山祐一
職業:コソ泥
タイプ:ゴロツキ
属性:格闘、金属
武器:金属バット
装備:ジャージ(黒)
所属:中立
スキル:窃盗(相手の持ち物を一定確率で盗む)
八神いろは
職業:闇医者
タイプ:支援
属性:毒、水
武器:メス、注射器
装備:闇医者の白衣
所属:中立
スキル:ビーストシリンダー(動物の能力をプレイヤーに付与する)
アンジェ・ブルーローズ
職業:聖騎士
タイプ:防御
属性:金属、飛行
武器:槍
装備:戦乙女の装束
所属:中立
スキル:戦乙女の翼(一定時間飛行能力を得る)
レオ・ブルーローズ
職業:警察
タイプ:攻撃
属性:氷、銃
武器:電磁ロッド、銃
装備:ポリススーツ(青)
所属:中立
スキル:フリーズバレット(対象に氷結を付与)
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