#3 お嬢VR世界へ
第24話 桧山家の朝
爽やかな月曜の朝――
「ククク、これで完成だ……」
桧山家のキッチンで三白眼気味の少年はにんまりと悪魔じみた笑みを浮かべると、グリーンの葉っぱをスープカップに浮かべる。
パッと見チンピラのボスにしか見えない少年は、ヒヨコ柄のエプロンで手を拭くと出来上がった朝食を見やる。
テーブルの上に用意された皿にはキツネ色のトーストに、ベーコンエッグ、カットされたトマトが花のように並べられたサラダにオニオンスープ。
あまりにも完璧な朝食に少年の頬は吊り上がる。そうこの男、ヤンキーの見た目に反して凝り性なのである。
「さて……お前らいい加減起きろ!」
祐一はフライパンとフライ返しを叩き合わせ、カンカンと音を響かせながら二階へと上がる。
まず一番最初に起きてきたのは高そうなシルクのナイトウェアを着たいろは。
いつもの一部の乱れもない整った容姿はどこに行ったのか、髪はバサバサで目の下には薄いくま。
響風の部屋からゾンビの如く、ズルズルと体を引きずりながら這いずって来る。
「……浦鉄99年マジキツイ……」
「それ金曜の晩からやってたよな」
響風の部屋へと入ると、散乱した衣服にジュースのボトル、スナック菓子のゴミ。その中に埋もれるようにしてアンジェと響風が抱き合ったまま寝ている。
両者ともに下着姿のままで、アンジェに至ってはどこで売ってるんだと言いたくなるドギツイ黒の下着だ。
「フクカイチョー、陰陽師カードは売ったらあかん奴……」
「3が出ませんわ……」
「何浦鉄の幻影見てんだ、お前ら起きろ起きろ! 今日平日だぞ!」
「無理」
「無理ですわ」
「無理じゃねぇ! 起きろ! 浦鉄99年してて寝坊とか正月みたいなことすんじゃねぇ!」
祐一は二人をズルズルと引きずりながら一階の洗面所へと連れていく。
「寝るなよ!」
「ネタ振り了解」
「ネタ振りじゃねぇ!」
祐一ママは次いで自分の部屋へと入る。
すると彼のベッドの上で、プラチナの髪をした芸術品のような少女がスヤスヤと寝息をたてている。
「会長朝だ起きろ! 生徒会長がゲームやり過ぎて寝坊とか怒られるぞ!」
「…………」
全く無反応なレオに近づくと、タンクトップ越しに大きな胸が呼吸に合わせて上下する。
一応これでもブルーローズ家の跡取りらしく、超がつくほどの上流階級の人間である。
「起きろー!」
耳元で大声をあげると、レオの目がカッと開き祐一をギロリと睨む。
「うるさい黙れ……」
威圧感のある声が響くが、彼にその手の類は通用しない。
「人のベッド占拠して爆睡してんじゃねぇよ」
「なんでもするから寝かせてくれ」
「えっ、今なんでもって……って違う、起きろ!」
レオは寝ぼけ眼のままベッドの下に手を伸ばすと、そこからブランドものの財布を取り出した。
中から10万ほどをひっつかむと、祐一に放り投げた。
「それで黙れ」
「こういうのよくないと思いますよ生徒会長!!」
◇
最近急激に慌ただしくなった桧山家の朝。
それもそのはず、この二週間ほど週末になると生徒会メンバーが集まってお泊り徹夜ゲーを慣行しているからである。
「「「「いただきます」」」」
テーブルに並ぶ4人の少女。ムシャムシャと食事を食らう響風、お上品に口元をフキンで拭きながら食べるいろは。
アンジェはヘアアイロンで跳ねまくっている髪を直し、レオは珈琲片手にタブレットでデジタルニュースを読む。
「桧山君料理上手いわね」
「兄者は顔はアレだが、家事能力は高い」
「アレってなんだアレって。お前の目玉焼き潰すぞ」
「やめろよ! あたしラピュタ食いするんだから!」
「髪が、髪が直りませんわ……」
「アンジェ、髪直してたら飯が冷めるぞ」
「もう少し、もう少しだけ。これ以上みっともない姿を晒せませんわ!」
ケツ丸出しで寝てるところを見てしまっているので、今更これ以上醜態をさらされても特になんとも思わない祐一である。
「桧山君、食事代だけど払うわよ」
「いらねぇよ。昨日銀行いったら本当に金振り込まれてて引いたわ」
「あれは授業料よ?」
「じゃあこれも授業内に含めといてくれ」
祐一といろはが話していると、レオがドンと札束をテーブルの上に置く。
「…………」
「足りなくなったら言え」
「兄者現ナマの威圧感って半端ないよね」
「旦那に不満があっても嫁が一発で黙ってしまうようなことするんじゃない。本当にいらねぇよ。大体ツレの家泊まるのに一々金払ってたらきりないだろ」
「「ツレ」」
その言葉に反応するいろはとアンジェ。
「ってかよ、君ら頻繁に泊りに来るけどお家の人大丈夫なの?」
「私の親ほとんど家に帰ってこないから」
「ウチは親は今確かロンドンだったか?」
「
「ねぇ君らのお父さんほんと何やってる人なの? 首脳なの?」
「日本ではお姉様がブルーローズ家のトップですので、お泊りで文句を言える人間はいませんわ」
「それはどうなんだ? 皆いるって言っても男の家に泊まってるんだぞ? しかも巷で評判の悪いヤンキーの」
「ヤンキーの家にお泊り、非行、インコー、妊娠のコンボで人生転げ落ちるな」
響風が茶化すと、いろははクスリと笑みを浮かべる。
「フフッ、もしそんなことになったら親の慌てふためく顔が見れて私は満足よ」
「兄者黒イインチョー怖い」
生活を共にしていて、時たまいろはの背後から黒い炎が見え隠れしているのに桧山兄妹は気づいていた。
レオは話を聞いていてふむと顔をあげる。
「安心しろ。今は男が避妊具を使わなくても72時間以内であれば経口避妊薬で回避できる」
「むしろ男に避妊具を使わせる方が避妊失敗のリスクは高いらしいわよ」
「だそうだぞ兄者」
「君らさっきからなんの話をしてるの!?」
やめて、いきなり性教育始めないでと叫ぶ祐一。
五人は朝食を終え、通学する為に家の外へと出るとそこには見慣れぬ黒塗りのリムジンが停まっていた。
車の前には燕尾服を着たスパイラルパーマの美青年が立っている。男なのに色気のある笑みを浮かべ、出てきた全員に優雅な礼をする。
「おはようございますお嬢様方」
それを見て顔をしかめるレオ。
「誰?」
祐一がアンジェに聞くと「侍従のランスロットですわ」と短く答える。
――――――――――――
あけましておめでとうございます。
今年も真面目にバカバカしい話を書いていきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
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