第22話 60%の女王 中編
祐一は用意していた
二人がコントローラーを握りしめると、画面にゲームメーカーのロゴと壮大なBGMが流れる。
スタートボタンを押して現れたゲームタイトルは、広大なフィールドで様々なドラゴンをハンティングする、大ヒットアクションゲーム【ドラゴンハンターG】だった。
現在ドラゴンハンター
当然レトロゲーに分類される為、
普通なら見にくいと思うが、ここ最近レトロゲームしかやっていない祐一たちには見慣れた画面である。
ゲームをスタートすると、海辺のマップに二人のハンターが現れ、ボスモンスターの捜索が始まる。
「前々から気になってたんだが、委員長とアンジェが実況やりたいって言いだしたのも意味わからんのだが。会長はそれ以上に意味が分からん。なんで実況なんか始めようと思ったんだ?」
ボスの位置を知っている祐一は一目散で蜂蜜を拾いに行くと、前々から気になっていた疑問を投げかける。
「言っちゃ悪いがゲーム実況なんてあまりいい趣味じゃないぞ」
「やっている自分が言うか?」
「やってるからこそ言うんだよ。ゲーム実況なんか基本ゲーム会社のお目こぼしで生きてるし、どんだけでかくて人気が出たところで許可とってなかったらただの違法配信だからな。再生数1億いってようが権利元がアウトといえば軽く削除される。グレーゾーンで生かされてる人間だ」
「そうだな。案件放送以外は全部限りなく黒だ。しかし今ではゲーム実況者もタレント同等の地位を確立していると思うが?」
「VRが台頭してからは確かにそう思うことはあるけど、結局それはほんの一握りの有名Vライナーだけっすよ」
砂浜で巨大カニ【アイアンクラブ】を発見した祐一は、マーカーボールを放り投げる。
するとマップにボスの位置がマーキングされ、すぐにレオのキャラクターが合流する。
「誰しも最初から地位を確立しているわけじゃないだろう」
「それを普通の高校生が言うならわかるけど、豪邸に住む会長が目指す夢じゃないだろう」
「私がマンガや動画を見ていたらおかしいか?」
「いや、おかしいとは言わないが、才能と未来のある生徒会の人間が持つ趣味じゃない」
「人を型にはめるのはやめろ。私とて流行物にはそれなりに興味をもつ」
「ほんとっすか~?」
「あぁ、そうだこの前アンジェとタピオカを飲んだ」
「タピオカ自体若干古さを感じますが、マジっすか?」
会長は甘く見るなと口端をつり上げる。
「カップを胸の上に置いて写真を撮る、タピオカチャレンジが流行っているのだろう?」
「間違ってるけどそれ最高。ってかやったんすか?」
レオはスマホを取り出すと、撮った写真を見せる。
そこにはアンジェと二人で、タピオカを胸の谷間に乗せている画像が映し出されていた。
「うわ、すげぇ。二人ともめっちゃクールな顔してるのがシュール」
レオはふふんと勝ち誇った笑みを浮かべる。
祐一はピコンと頭に電球が光り、キャラクターをベースキャンプに放置すると部屋を出て階下に降りる。冷蔵庫から『飲んだら殺す』と書かれた響風のタピオカを持って部屋に戻った。
「会長今やってできます?」
「お前風呂上がりにそんなカロリーモンスターのタピオカなんて――」
「あぁ、やっぱ無理っすよね。あれカップの大きさによって難易度かわりますし」
暗に小さいカップを使って難易度下げたでしょと言われ、カチンと来るレオ。
「貸せ」
レオはタンクトップの自分の胸の上にタピオカを置いて、そのままストローでミルクティーを啜る。
「どうだ」
「すげぇっす」
祐一はレオの胸の当たり判定の大きさに感動すると同時に、やっぱこの人アンジェの姉だなと若干の天然ぷりを確信する。
「会長って氷の彫像みたいに思ってましたけど、意外と熱くなりやすかったりタピオカチャレンジでどや顔したりと可愛いところあるな」
そう言うと会長はクツクツと悪役じみた笑みを浮かべる。
「ククク……可愛いなどと初めて言われた。常日頃から可愛げがないと言われ続けているし、自分にそんな素養があるとは思っていなかった」
「会長完全に悪役側っすからね」
するとレオのキャラクターが、突如乱入してきた大型火竜に頭から丸カジリされて死んだ。
【レオさんが力尽きました】×3
【任務に失敗しました拠点に帰投します】
「……おい、私はカニを倒しにきたはずだぞ。なんだあのトカゲは」
「あいつすぐ乱入してくるんすよね」
「あれは倒せるのか?」
「まぁ頑張れば。カニと合流されると面倒なんで、俺が叩いとこうか?」
「必要ない。お前には言っていなかったが実はこのゲーム家で10時間ぐらいやっている」
「あぁ道理で装備がちょっといいものになってると」
【レオさんが力尽きました】×3
【任務に失敗しました拠点に帰投します】
リベンジを試みるが、再び画面に踊る任務失敗の文字。
即落ち2コマのように、大の字になって倒れるレオのキャラクター。
「おいおいしっかりしろよ60%の女王、なめプか?」(ゲーマー特有の死んだ奴に対するマウント)
「ぐっ、なぜそのあだ名を」
「おぉ? 本人公認か? 普段60%の力でリアル流しプレイしてるって」
「黙れ、私が100%の力を出せば誰もついてこれなくなる」
【レオさんが力尽きました】
「おぉん? 100%がなんだってぇ? 戸愚□さんみたいなこと言ってんじゃねぇぞ?」
「ぐぐぐ……」
「流しプレイでVライナーできると思ってんのか、おまおぉん?」
祐一は眉をハの字に曲げ、口を△にするとレオを煽り倒す。
「ぐっ……」
「蜂蜜欲しいんだろ? 蜂蜜下さいって言えよ」
「ぐぐぐ……蜂蜜くれ」
「くれ? くれと言いました今?」
「く、ください」
「しょうがないな」
祐一のキャラは蜂蜜をレオに手渡す。
「次3乙したら罰ゲームな」
「いいだろう。なんでも言え」
「じゃあ俺の指定したゲームをやってもらう」
「いいだろう。別に私に苦手なゲームなどない」
「とか言いつつ高台で弓チクしてんじゃねぇぞ」
「作戦だ」
絶対に死にたくないという強い意志を感じるムーブ。
しかし雑魚ハンターキラーの火竜が
辺りに火球を吐きまくる火竜。いつ流れ弾に当たってもおかしくない状況。
「あれ一発当たると即死っすよ」
「これはもう運ゲーだろ」
「60%の力を100%解放すればなんとかなるのでは?」
「6060とうるさい男だな!」
祐一のキャラに火球が飛び、ジャンピング回避を使う。すると隣に座るレオが、ドンっと肩からぶつかって来て操作を妨害する。
「うぉぉ!? 何すんだ! やることが小せぇ!」
「チッ」
「舌打ちすんな!」
それからもレオは事あるごとに祐一に体当たりを入れる。
「この野郎100%の力がそれとは。でもな日頃響風の妨害を受けている俺にはその程度――」
祐一はチラリと横目でレオを伺うと、タンクトップの肩ひもがずり落ち、レオの胸の上半球が見えていた。
「ノーブラジャー!! ノータピオカ!!」
その瞬間祐一はコントローラースティックを指でぶりんと弾き、火竜の前に飛びだしてしまう。キャラクターは言うまでもなく火だるまになった。
「何だか知らんがヨシ!」
「ヨシじゃねぇ!」
「そのまま上手に焼かれてしまえ」
しかし間一髪HPがミリで生き残る。
「はっはっはっ(息切れ)生きてるって素晴らしい!」
「しぶとい……」
「敵を倒せ! 味方の死を願うんじゃない!」
「おい、脚の関節決めていいか?」
言いながら脚を絡めて来るレオ。
「ダメに決まってんだろ! 敵倒せって言って――」
【レオさんが力尽きました】
火竜は突然のバックブレスでレオを消し炭にした。
【任務に失敗しました拠点に帰投します】
「…………」
「じゃあ……これ……やってもらうから」
祐一が差し出したゲームは。
「茜色の世界で君と合掌? なんだこれは? RPGか?」
「いや、響風の乙女ゲー」
「乙女?」
「簡単なゲームだよ」
レオはすぐにこの罰ゲームの恐ろしさを理解するのだった。
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