第20話 失敗から学ぶ

「さて、本日は反省会から始めようと思う」


 ちゃぶ台を囲むお嬢たちの表情は暗い。それはなぜかと言うと、祐一はゲーム実況なんて始めてからわかるこもと多いと、一通りの基礎を叩きこんでから三人に実況動画を撮らせてきたのだ。

 それを昨日各々のアカウントで投稿し、本日それを確認することになった。


 三人それぞれの実況タイトルは――


アンジェの【エレガントなるエビルハザードRE4】 

視聴数 159 GOOD 8 BAD 4 チャンネル登録者 4


いろはの【委員長のテロリス9999】

視聴数 69 GOOD 2 BAD 0 チャンネル登録者 6


レオの【ストライダー武蔵】

視聴数 17 GOOD 0 BAD 0 チャンネル登録者 0


「まぁ三人とも見事な爆死だな」

「「「…………」」」

「動画ってのはやっぱり鮮度があって、伸びるのは投稿して二日くらい。それ以降はもうほんとに微増って感じで、今この数字だと恐らく明日明後日もかわらないと思う」

「正直こんなに伸びない物とは思いませんでしたわ……」

「私も1000くらいはすぐにいくものだと思ってたわ」

「甘い甘い。俺も1000いくのに何カ月かかったか。一応皆の動画は俺がチェックして、字幕とか付け加えて編集した上で出したもんなんだけど、ここは響風先生に話を聞こうか」


 そう言うと全員の動画を視聴していた響風が顔をあげる。


「ん~初投稿のくせに名乗り無しでいきなり始まるとか、いろいろ言いたいことはあるけど、まぁフクカイチョーのから話すね。フクカイチョーがやったのはホラーゲーエビルハザードRE4。気づいてると思うけど三人の中で視聴数、GOOD両方伸びが良い。見て思ったのはフクカイチョーがキャーキャー言いながらゲームを頑張って攻略する姿勢、ありがちだけどリアクションが面白いから多分それで伸びてる感じはするね」

「あ、ありがとうございます」

「BAD評価がついてるのはキャーキャー言うのを嫌いな視聴者からつけられたものだと思う。女の子が騒いでんのが好きな視聴者と、嫌いな視聴者は真っ二つに分かれるからこのへんはしょうがないかな。ただプレイスキルに関しては、もうほんとどうしてこうなったってレベルだから、トークがうまくないと多分シリーズ化しても伸びないと思う」

「う、うぅ、厳しいですわ……」

「次、委員長のやったゲームは王道パズルテロリス9999。頑張って説明しようとか、喋っていこうっていう努力は見られた。ただ悪く言っちゃうと、あんまりゲームうまくない女の子がなんとか乏しい知識でゲーム解説しながらプレイしているって感じだった。実況ってより操作説明動画って感じで、よくも悪くも普通ってとこかな」

「確かに……もっと慣れが必要だと思ったわ。完全にゲームの説明でいっぱいいっぱいになってしまったから」

「でも好感度は高かったよ。たどたどしくても頑張ってたし初実況って感じ。そのおかげか視聴数に対してチャンネル登録数が良い」


 そう言うと、いろははひしっと響風を抱きしめた。


「響風ちゃん、あなたを妹にしたい」

「兄者に飽きたら行くわ」

「めちゃくちゃ言うなお前……」

「そんで最後、カイチョーには悪いけど全然ダメだった。なんでかって言うと、ゲームに完全にのめりこんじゃってほとんど喋ってない。ゲームのプレイ自体は結構上手かったけど、これじゃ完全にプレイ動画」

「俺もそこは意外だった。生徒会長はプレイスキルよりトーク力が欲しい感じだったな」

「ゲームしながら喋るというのが思っていたより難しくてな……」


 酷評されたレオは自分でもわかっていたのか、むぅと難しい顔をする。


「皆この前見せてもらった人気の出てないVライナーと同じ過ちをしてしまったわけね」

「ああはなるまいと思っていましたが、いざやってみると難しいものですわ」


 いろはとアンジェは肩を落とす。しかし響風は三人に首を振った。


「まぁこの中で戦犯をあえてあげるとするなら兄者だけど」

「なぜですの?」

「これゲーム選んだの兄者でしょ? どのゲームもかなり古いし、正直このタイトルの実況を見てもなんでこれ? って印象しかない。フクカイチョーのRE4はホラーなのにシリーズの中で一番アクションに寄って操作難しいし、委員長のパズル組みながら実況ってのは多分ゲーム実況で一番難しいことやらせてる。生徒会長のストライダー武蔵もレトロアクションゲー屈指の難易度だから、黙っちゃうのもわかる。正直どれも初心者実況向きのタイトルじゃない」


 響風があいつはひどい奴だと祐一に視線を向ける。


「まぁな。今回の失敗はわざとさせたところもある。実況で重要になって来る要素で、ゲームの人気ってのもかなり重要ってことを言いたかったんだ」


 だから初心者でゲームの人気を借りずに伸びるってのは難しいんだと言う祐一だったが、他の生徒たちはしゅんとしょげていた。


「み、皆そんな深刻にとらえなくていいぞ! 実況十分頑張ってたし、最初の動画で大成功大爆発なんてできるわけないからな! あくまでお試し、動画投稿ってどんなもんかを――」

「響風パンチ!」


 響風のえぐり込むようなボディーブローが祐一の腹に突き刺さる。


「おごうぇ……何すんだテメェ」

「自分の生徒をわかってて辱めた罰だ」

「アホか成功より失敗の方が圧倒的に学ぶことが多いんだぞ。現実は供給過多で生き残るだけでも厳しいんだよ」


 腹を押さえる祐一にふんすとふんぞり返る響風。


「初めてでいきなり生き残りなんか考えなくてもいいだろ。兄者はちゃんと動画見たのか?」

「見たよ、皆頑張って実況やってるなって……」

「アホの兄者め。実況は頑張ってやるもんじゃない。楽しんでやるもんなんだよ」

「…………」

「楽しんでない必死のゲーム実況なんか誰が見たいんだ」


 祐一は彼女達の動画を編集しているとき、皆詰まったり困ったりしてるシーンを何度も見た。助長になると思いカットしたが、確かにそれは試行錯誤してゲームをクリアしようとしているというより、ゲーム実況の勝手がわからず、本当にこれでいいのか不安になっているようだった。


「すまん」

「あたしに謝ってもしょうがないだろ」


 祐一は三人に向き直ると、畳に膝をついて深く頭を下げた。


「すまん。失敗からいろいろ改善点を見つけていくのが実況者としてのスタートだと思っていたんだが、一番重要な楽しんでプレイするってところが抜けた状態でゲームを”やらせてしまった”。本当に申し訳ない」

「そ、そんなお気になさらず!」

「そうよ、桧山君の言うように失敗から学ぶことは多かったわ」

「そちらの意図は十分伝わった」

「すまん……この動画に関しては個人で非公開にしてくれ。皆も不本意な動画をそのままにしておくのは嫌だろ」

「いいですわ。わたくしはこれを戒めとして残しておきます」

「ええ、桧山君の言う通り、ここからがスタートでどれくらい伸びるかが楽しみになるわけでしょ?」

「すまん。そう言ってくれると助かる」


 祐一が謝罪すると、響風が服の袖を引っ張る。


「兄者兄者、やっぱり皆それぞれ一人でやるよりグループでやった方が面白いと思うよ」

「あぁ俺もそれは思ってた」

「グループ……ですの?」

「響風と話してたんだけど、3人いるなら3人で対戦企画とかやった方が面白いんじゃないかって」

「一人1チャンネルはまだ荷が重いから、3人でやれば自分の苦手なところを補っていけるし、実況に慣れてから株分けする感じで個人チャンネル展開した方が勝ち目あるんじゃないって」

「なるほど」

「皆ゲーム不慣れだし、最初は話し合いながらやっていった方が気楽じゃない?」


 響風が聞くといろは達全員が頷く。


「それじゃあ今後はマルチプレイ系のゲームを探していくか」

「レースとか、サンドボックスのクラフト系とか最初はオススメ。後はドラファンXとかMMO初心者に優しい」

「もうこの際レトロゲーにこだわる必要もないかもな」

「それあるね。VR主流だから、そっちに流れた方がいいかも」


 今後の方針を決めると、アンジェがおずおずと手を挙げる。


「そ、そのできればなんですが……引率していいただけると非常にありがたいと言いますか」

「引率?」

「兄者が一緒にやってゲームフォローしてくってことだよね?」

「そうですそうです!」


 コクコクと頷くアンジェ。


「その……練習しているとはいえ、操作すらおぼつかないところがありまして……VRは特に難しいと聞きますし」

「俺は別に構わんが、その方がいいか?」

「「絶対良い」」


 いろはとアンジェが食い気味で言うので、祐一は圧倒される。


「わかった。じゃあ今度からは俺も参加してゲームをしながら実況の実習をしていくようにしよう」

「お願いしますわ」

「そうなるとチャンネル名考えとかないといけないな」

「チャンネル名?」

「そうグループで活動する為のチャンネル名。できれば相応しいのを考えておいてくれ」

「わかったわ」


 こうして砂倉峰生徒会+ヤンキーの動画配信グループが結成されたのだった。

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