第16話 お嬢とコインと攻略本
「おぉユウイチ、お前なんかめっちゃバテとんな……」
学校にて、机に突っ伏した祐一を見て今宮が驚きの声を上げる。
ゲーム家庭教師が始まって僅か一週間で、彼はかなり老け込んでいた。
「モンポケが憎い……あんなに属性を増やしたモンポケが……」
「何言うてんねや。そこに深みがあるんやろうが」
「もう全てのゲーム6、いや4属性でいい。おバカさんには対応できない……格闘とかサイキックとか幽霊とか全部ノーマルでいい……」
「あぁ、なんかお前ゲーム教えるバイトする言うてたな」
「火はね、燃焼し尽くすと消えるから火属性の弱点は火なんだよ」
「なに言うてんねんお前は?」
「俺も全く同じこと言った。だから俺は属性を教えることを諦めた」
「なんか苦労してることだけはわかるわ……」
その日の昼休み。
相変わらず妹はお兄ちゃんと昼ご飯を食べてくれないので、渋々今宮と昼食をとろうとしたその時。
「桧山君今いいかしら」
「なんだ?」
「ちょっと生徒会室まで来てくれる? 緊急で」
「なんやイインチョーまたユウイチいじめる気か?」
「違うわ。むしろいじめられてるのは私たちよ」
「はっ? どういうこっちゃ?」
祐一はため息をついて、いろはとともに生徒会室へと向かう。
すると中では、凄まじく真剣な顔で
「金貨がね、どこにあるのかわからないの……」
いろはの声は若干悲壮感がこもっている。
「違いますわお姉様、3-1のカメカメランナーが落とすって攻略本には書いていますわ!」
「3-1のどこにカメカメランナーがいるんだ。海ステージだぞ!?」
「そこの土管から上に上がるんです!」
「ここは入れないと言ってるだろうが! わからん奴だな!」
「もう貸して下さい!」
「ダメだ、お前に貸すと3秒で死ぬ!」
あぁ、小学生のときを思い出す……。遠い目をする祐一だった。
「なぁ当たり前のようにゲームやってるけど、あれはいいのか?」
「学校でのゲームに関してはお目こぼしするって言ったでしょ? あなたが金曜までに【スペースブラザー】の金貨全部集めて来いって宿題だしたから悪いのよ」
「お目こぼしって自分も含まれてんのかよ……。つってもまだ月曜だから全然時間あるぞ。しかも攻略本見ていいから金貨の場所はわかってるはずだろ」
このスペースブラザー30年も前に発売されたものだが、横スクロールアクションゲームの基本全てがつまっており、初心者にオススメの作品である。
祐一はゲームに慣れる意味を込めて、ステージのどこかに隠されている【花丸金貨】取得を彼女達に命じたのだ。
「このゲームステージが100あるのに、私たち昨日家で6時間くらいやってとれた金貨が3人平均3枚なの」
いろはの深刻な顔に冷や汗が浮かんでいる。
「そうか……そのペースだと一か月かかるな」
このゲーム慣れているものなら4時間程度でクリアしてしまえるショートステージの連発なのだが、彼女達にはかなり荷が重かったらしい。
「これなら属性ないからいけると思ったんだが……」
ゲームについて教えを乞われることは、自分より下手な奴を早々お目にかからない祐一にとっても初めての経験だ。
「じゃあとりあえずわかんないとこを何ステージかやろう」
「お願いするわ」
なぜか生徒会長席に座らされた祐一のゲーム画面を、全員が食い入るように見つめる。
「攻略本にはここに金貨があるって書いてあるんですけど、こんなところに道はありませんわ。間違っているんじゃないでしょうか? どうしますこの出版社潰します?」
「怖いことを言うな。しかも誤植じゃない」
祐一はキャラクターを操作すると、金貨のある壁へと突っ込んでいく。するとマップの裏側へとキャラクターが入り込み、チャリンと金貨をゲットした時のSEが鳴る。
「えっ、キャラクターがいなくなってしまいましたわ」
「ゲーム画面では見えてないが、実はマップ自体はまだ先がある。昔のゲームはこういった画面外に隠しアイテムを配置することが多い。単純に100個も金貨隠せって言われたら、ちょっと反則みたいな場所に設置するだろう」
「「「へー」」」
「わりかしこの手のゲーム画面外戦法ってのは今のゲームでもやってて、入れないと勝手にプレイヤーが思い込んでる場所に宝箱を設置したりしてる」
「でも、こんなの教えてもらわなければ絶対わかりませんわよ?」
「だから当時のゲームは友達との情報交換が大切だった。インターネットが活発じゃなかったから、頼れるのは同じゲームをしている友達か攻略本、もしくはコ□コ□やボ〇ボ〇みたいな少年誌の片隅に書かれているゲーム攻略情報ぐらいだった」
「それってかなり運任せの攻略情報ね。完全クリアできないんじゃない?」
「できなくていいんだよ。当時のカセット型ゲームソフトってくっそ高くて、簡単にクリアされると逆に子供が可哀想って理由で難しく作られてる。レトロゲーでありがちなチート級に強いCPUの原因は大体コレ」
「なんでクリアすると可哀想なの? 次を買えばよろしいのでは?」
「普通の家庭は君らみたいに金持ってないからな。1万近くするゲームソフトをポンポコ買えないのよ。それを開発者がわかってるから一本で長く遊べるように調整したんだ」
「なるほど」
「まぁその深さ故に挫折する子供も多かったけどな」
「あの、もう一つ聞きたいんですけど、なんで昔の攻略本ってこんな間違いが多いんですの?」
「攻略本を早く出したいから。基本的にゲームの攻略本は一番早く発売されたものが
「そ、それはいいのです?」
「SNSや攻略サイトが発展してる今なら、商業誌でこんなのありえないとか
話している間にもチャリンチャリンとコインを取得していく祐一。
「凄い、あっという間にコインが5枚も」
「桧山君、あなたまさか配信では上手いのを隠してプレイしていたのかしら?」
「違う、お前らが度を越えた下手くそだから、普通の下手くそをみても上手く感じてるだけだ」
マイナス100の連中がマイナス30くらいの人間を見て、めっちゃ上手く見えるのと同じである。
「今のうちに操作に慣れておいてくれ。今はジャンプとダッシュボタンと方向キーしか使ってないけど、これからボタンがどんどん増えていくからな」
そう言うと生徒会の面々は眉をひそめ困った顔をした。
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