第15話 生徒

 それから一週間後の日曜日


「開業届って未成年でもできるんだな……」

「そりゃ最近小学生起業家がいるくらいだしな」


 祐一は響風と共に税務署で開業届を出したところ、流れるような手続きであっというまに開業できてしまった。

 一応これで桧山祐一はボッチチャンネルの個人事業主になったらしい。


「兄者はこれで社長ってことでいいのか?」

「ちょっとというかかなり違うがそれでいいや」

「あたしもボッチチャンネルに入ったのか?」

「一応入れた。これからお前の動画収入は俺が管理して、それをお前に渡す」

「おぉ、なんかほんとに会社みたいだな。ピンハネするなよ?」

「しねーよ。だから今日からVコインつけていいぞ」


 VコインとはVステーションのLive配信中に、視聴者から貰えるおひねりの様なようなもので、投げ銭や、ギフトなどとも呼ばれる。


「18歳じゃなくてもVコインつけていいんだっけ?」

「Vコインは大丈夫。広告はダメ。後月額会員も大丈夫」

「月額会員って月500円くらいで会員メンバーになるやつだよね? あれたまにあるけどメンバーになるとなんか意味あんの?」

「配信者次第だが、メンバー用の動画を出したり、メールでありがとうって言ったりする。メンバーは配信中に専用スタンプが使えるようになる」

「へー……めんどくさ。なんかVコインって金持ち同士でマウントとりそうであんま好きじゃないんだよね」

「お前はVコインつけたらめちゃくちゃ貰えそうだもんな」

「後高額Vコインと一緒にこのゲームやって下さいってコメント残す視聴者。あれ配信者側からすると超困る」

「向こうは純粋な善意だと思うけど、金絡むとやっぱりやらなきゃいけないかなって気になるもんな」

「まぁそれで生活楽になるならつけるけど……」

「その辺はお前の好きにしろ。別にお前の財布をアテにして生活するつもりはねぇ」

「むむむぅ……」


 どうするか頭を抱える響風。


 二人は税務署帰りに古本屋によってから、いろはから送られてきた住所へと向かっていた。

 今日は問題のゲーム家庭教師第一回目で、顔合わせを兼ねて3人同時に行われるらしい。

 響風は面白そうだからという理由でついてきた。


「確かこの辺りであってるはずだが」


 そう思い角を曲がると、たまげるほどデカい西洋屋敷があった。

 一瞬ここは本当に日本なのかと二度見してしまうくらいのデカさ。


「なぁ兄者、ここは日本なのか?」

「日本……だろ」

「大丈夫か。スーパー普段着で来ちゃったが、こういうとこってドレスコードとかいうやつがあるんじゃないのか?」

「あったら外に引きずりだしゃいいだろ」


 相変わらずのパワー系である。

 見上げると首が痛くなりそうな柵門の前に来ると、レーザーでも放ちそうな監視カメラが彼らの方に向く。


「兄者、なんか言った方がいいんじゃないか?」

「えー、本日寄せてもらうことになっている桧山祐一と響風です」


 そう言うと柵門が電動で開く。

 カメラから『中へお進みください』と響いた。


「なにこの広い庭……」

「どんだけ悪いことしたらこんな家に住めるんだ」

「兄者バラ園があるぞ。やばくない?」


 二人は美しい庭に驚きながら屋敷の中へと入ると、メイド服を着た女性が深々と礼をする。


「こちらでお嬢様方がお待ちです」


 メイドに続き赤絨毯の敷かれた廊下を歩く。


「兄者、やばそうな壺ある。高そうな壺割ってみたとか視聴数稼げそう」

「ブレイク系は最近評判悪いぞ。ってそういう問題じゃない」


 二人は迷路みたいな屋敷を進み、私室の前へと通された。


「こちらです。それではよろしくお願いいたします」


 メイドは深々と頭を下げて去っていく。


「な、なんか緊張するな」

「やれ兄者」


 響風は完全に祐一の後ろに隠れていた。

 ガチャリとドアを開くと中で待っていたのは――


「…………」

「あらどうかした? ハトが弾丸くらったみたいな顔してるわよ」

「それは死んどるだろ」

「ど、どうぞいらっしゃいませ。祐一さん、響風さん……でよろしかったかしら?」


 中で待っていたのは、優雅にお茶しているレオとアンジェといろはの生徒会メンバーだった。


「いや、まぁ……そうなんだが。これはどういう……どうもこうもないか」


 ここで今更生徒はどこにいるんだ? なんてくだらないボケをするつもりもない。

 つまり生徒とは彼女達生徒会の主要メンバー三人の事である。


「委員長、これはなかなかにタチが悪い。俺開業届出して来ちまったぞ」

「偉いわね、それでいいわよ」

「からかってるのか?」

「からかうなんてどんでもない。あなたにはこれからみっちり私たちのゲーム指導をしてもらうわ。勿論指導料も払う」

「指導料なんていらねぇよ。たかがゲーム教えるくらい」


 祐一はガリガリと頭をかく。


「ダメよ、仕事としてちゃんとやってもらうわ。私あなたの大ファンだもの。あなたの授業を受けられるならいくらだって払うわ」

「またほんとか嘘かよくわかんねぇようなことを」


 委員長は同い年とは思えないほど妖艶な笑みを浮かべると、祐一の前で組んだ足を組み替える。


「良かったな兄者美人ばっかりで。全員性格悪そうだからあたしはヤダけど」

「俺もだ」


 祐一はまぁしょうがねぇと頭をかく。


「ちなみに全員ゲームの経験は?」

「ない」

「ないわ」

「ありませんわ」

「でも大丈夫、動画で見てるから」

「動画で知った気になってる奴が一番怖い」

「それでは早速始めます?」


 するとアンジェがニコニコ顔でVRヘッドセットを持ってきた。


「ゲーム機は既に用意してありますわ」

「ソフトはDL販売のものを買えばいいのよね?」


 いろはとアンジェがハードの準備をしようとするが、祐一はそれを止める。


「待て。今日はそんな高価なものは使わない。というかしばらくは使わない」

「どういうことかしら?」

「君らに最新のVRマシンは豚に真珠、失礼馬の耳になんとかだ」

「なにげに酷いこと言われたわね」

「でしたらどのようにゲームを?」


 祐一は古本屋で購入してきたゲームのガイドブックをドンっと置く。


「まず座学から始める」

「「「ざ……がく?」」」


 今度はアンジェたちが驚かされるのだった。

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