第97話-父ちゃんの夢
「わー! 私も釣れたよお兄ちゃん!」
沙耶ちゃんが嬉しそうに釣れたお魚を見せてくれる。
そしてささっとバケツに自分で入れる。
「ねえちゃんおさかなさん触るの平気なの?」
葵ちゃんがバケツを覗き込みながら訪ねる。
「うん。 生きたお魚さんを触るのは今日が初めてだったけど、いつもお兄ちゃんの料理お手伝いしてるからねー!」
えっへん! と胸を張る沙耶ちゃん。
「ねえちゃんでも凄い所あるんですなぁ……」
口は悪いが関心しているご様子。
「沙耶はお魚触れるようになったのね。 すごいじゃない!」
お母さんも関心しているご様子。
「おさかなさん可愛い」
まどかちゃんはお魚さんに夢中なご様子だ。
――――
あれから二時間くらい経っただろうか。
もう夕焼けが差し込んできている。
無事葵ちゃんもアジを釣り上げ、バケツにはおよそ二十匹くらいのアジの山が出来た。
「いやー結構釣れたねー」
改めてアジでいっぱいのバケツを見て思うと同時に、お父さんだけ何も釣れていない事に気が付く。
お父さんの方を見ると、竿を置き、海をじーっと見つめていた。
「ああ、亮一君。 お父さんさっきからあんな感じなのよ。 いつも釣りの時はああなのかしら?」
と、そこに葵ちゃん。
「とおちゃんだけ釣れなくてすねてんじゃないの?」
「うーん……。 二人で釣りしていた時は、釣れない日でも終始元気よかったんだけどなー。 ちょっと行ってくる」
お母さんに妹達を任せ、お父さんのもとへ行く。
近くに来たところで、お父さんは海を見つめながら俺に話しかけてきた。
「お父さんな、夢だったんだ」
「え?」
突然どうしたのだろう。
「家族みんなで釣りへ出かけて、こうして海を眺めることが。 亮一、お前には感謝しているんだ。 あの日、再婚していいって言ってくれて。 お父さんの幸せが亮一自身の幸せだって言ってくれて。 父さんは、亮一のおかげで世界一幸せな父さんになれたんだよ」
その横顔から、「ポロリ」と涙が映った。
「お父さん、これからだよ。 もっと幸せを作って行こう」
「!?」
お父さんが振り向く。 そこには、亮一・沙耶・葵・まどか・そしてお母さんが笑顔でお父さんを見つめていた。
夕焼けがお父さんの涙を照らし、俺は世界一きれいな涙を見たのであった。
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