第70話-知幸

 そういえば知幸と出会った時は、桜が満開だったっけ――――


 そう。 あの日はよく晴れ、桜が満開だった中学二年生の頃の事


「んー。 今日は何か面白いことないかなー」


 学校が終わり、通学路に咲く桜を見ながらそんなことを口にした。

 別に言葉を発すれば変わるわけでもないのに。


 毎日がつまらなく見えた。お父さんお母さんが離婚したからかな

 俺は親の離婚ショックから立ち直れずにいたんだ。 あれからもう一年は経つのに


「あの、大丈夫ですか?」


 いきなり声をかけられる

 そんなに変な顔してたかな……?


 ――――


「ま、そう言うことなんです」


 俺はなぜかこの人に悩みを打ち明けていた。

 話したこともないこの人に。

 でもこの人は頷きながら聞いてくれたんだ


「そうですね…… 失ってからわかる物ってありますよね。 実は俺もこの前愛犬を失くしちゃったんですよ」


 深刻そうな顔をして打ち明けてくる。


「いつも邪魔してくるし、散歩はめんどくさいし……。 でも、いなくなってあいつのいい所が分かってさ。 膝に座ってくるときの安心する温かさとか、黙って悩みを聞いてくれたりとかさ」


 目から涙が流れているのが見えた。 この人にとって、とても大切な命だったんだ


「まぁ何が言いたいかと言うと、失ってから分かるなら、失わないと分からない。 ならその失った物を忘れないように、そして感謝しながら生きていかないとって言いたいんです。 マイナスな事だけ見ていたらきっとあいつも悲しむと思うから」


 俺は気付かされた。 マイナスの事を感じるのもちろん大事だが、それを教えとしてこれから生きていかなきゃいけないんだなって。


 それがきっと人間なのだろう

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