第8話-甘えたい

 夕食を食べ終えた俺は皿洗いをする。沙耶ちゃんは洗い終えたお皿のふき取り。

 お父さんと由香さんは真剣に話している。ちらっと聞こえたけど、みんなでここに住むとかなんとか。

 葵ちゃんとまどかちゃんは午前中にやったロニオ・カートをやっている。


 お皿を洗っているとふと沙耶ちゃんが話しかけてくる。


「ねえお兄ちゃん」


 何か考え込むような口調で俺を呼ぶ。


「どした? 沙耶ちゃん。疲れちゃったかな?」


 すると沙耶ちゃんは首を横に振る。


「少し、私のお話聞いてくれる?」


「もちろんだよ」


 ありがとうと、言葉の代わりに笑顔を見せてくれた。


「私ね、長女だから、葵やまどか、それにお母さんに迷惑かけないようにってずっと思ってた。」


 俺はお皿を洗いながらも一言も漏らさぬように聞く。真剣な話だと思ったから。


「だからね、私、人に甘えるってこと、できなかったんだ。けど、お母さんが再婚することになって、お兄ちゃんが出来て、やっと甘えられるんだなって思ったの。だからお兄ちゃん!」


 少し息詰まる。沙耶ちゃんは一回深呼吸してこう言った。


「甘えてもいい?」


 この言葉を言うのは初めてなのだろう。

 誰にも言えなかった言葉。

 誰かに言いたかった言葉。


 沙耶ちゃんは少し追い詰められていたのだろうか。

 俺はそんな沙耶ちゃんという妹を兄として守ってやりたい。聞かれるまでもないじゃないか。


「もちろんだよ沙耶ちゃん。話してくれてありがとう。いっぱい甘えていいよ。」


 すると沙耶ちゃんは緊張がほぐれ、涙目になりながらも、最高の笑顔を見せてくれた。


「ありがとう! お兄ちゃん!」


「おうよ!」


 俺も笑顔で答えた。



 この後、俺は風呂洗いも済ませて、一度部屋に戻ることにする。


「お父さん、風呂沸かしといたからー」


「はいよ! ご苦労さん!」


 部屋に戻った俺はベットにダイブする。

 疲れたわけじゃない。今日一日でいろんなことがあったから、なんか横になりたくて。


 横になってると、廊下側からノックがする。


「どうぞー」


 俺は体を上げ、ベットに座る体制になる。


 ガチャ。


「にいちゃん。ゲームありがと!」


 葵ちゃんだった。


「わざわざ持ってきてくれたのか。えらいな葵ちゃんは」


 すると葵ちゃんはゲームを部屋に置き、えへへーと照れている。


「にいちゃんのお部屋奇麗だね!」


「そう?普通だよー」


「ううん。お部屋奇麗だよにいちゃん。お母さんのお部屋はぐちゃぐちゃだもん。」


 なんとも返事に困る。


「あ、あー、そうなの?」


 この言葉しか浮かばなかった。


「にいちゃんのにおいがするー」


 まあ、それはそうだろう。俺の部屋のなのだから。


「にいちゃんー」


 呼びながら抱き着いて来る。


「わ! どうしたの葵ちゃん!」


「えへへーにいちゃんのにおいー」


 顔が動いてくすぐったい。


「ちょ、葵ちゃん! くすぐったい」


 こんなことをしていると、廊下から声がする。


「開けるよお兄ちゃん」


 くすぐったくて返事ができない。


 ガチャ


 沙耶ちゃんのようだ


「お兄ちゃ……葵!」


 何やら沙耶ちゃんがおこみたい。


「葵! ずるい! 私もする!!」


 え?


 沙耶ちゃんも抱き着いて来た。

 左に葵ちゃん、右に沙耶ちゃん。


 なにこの状況。

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