36-37
「世界一のリズム隊だって言われてやろうぜ」
ヤツは強く頷く。
「さっきも言ってたけどよ、わかってんな? 俺は一生お前のドラマーだ」
めちゃくちゃ幸せそうな、嬉しそうな柔らかい素の表情と、ミュージシャンとして、リーダーとしての自信に満ちた表情が、一緒に顔に浮かぶ。
「俺も早く、お前のレベルに追いつくよ。待っててくれなんて言わない。お前はお前のスピードで進んでくれ」
それでこそ、俺のベーシストだよ。ああ、俺は待たないし、お前が着いてきてるかなんて振り返ったりしない。お前が着いてきてんのは当たり前だし、隣に並んで来るのもわかってんだから。
そんなこと、言わなくてもわかってるよな。
ヤツの肩を叩いて笑う。
「次のライブ楽しみだな! チケットのはけ具合どうよ?」
「9割ってとこかな」
「ソールドさせてぇなぁ。そういや、さっきMCで言ってたインストアの方の定員は?」
「東京、大阪はまだもう少し空きあるみたいだよ」
「ってことは」
「昨日の時点で名古屋はあと3枠だって」
「おー! 流石地元はありがてぇな」
きっと、こいつらが名古屋にいた時からずっと大事にして来たファンが、誰一人としてそれを忘れないで待っててくれてるんだろう。俺も、こいつらが作ってきたものを壊さねぇように、ファンサービスってやつを頑張ってみるさ。
吸殻を灰皿に入れたタイミングで、ドアが開いて3人入って来た。どっかの関係者か、スタッフか。出演者じゃない。
そんなに広くない部屋だし、出るか。宵闇に目配せして喫煙室から抜け出す。
「そろそろサンドリオン始まるかな」
宵闇はスマホを見て、そう言う。
「見てぇな。テラス席行こうぜ」
あの雪緒さんがどんなプレイすんのか、見ない手はねぇよな。
2階に上がり、楽屋とは逆方向の通路を進んでテラス席に入る。リュウトくん、まだいんのかな。ざっと見渡してみたけど、それらしき人影はない。
ステージはちょうど入れ替え中だ。
遊びに来たバンドマンや、取材なんかの関係者っぽい人がバラバラと席に座ってる。俺らも座るかね。見回すと、上手側最後列の端、3席連結のところが空いてる。
「あそこ座ろうぜ」
そこを指さすと、宵闇はすぐにそこの壁際の席につく。俺も隣に座って、スマホを出す。
あ、リュウトくんからLINE来てたわ。
「おつかれさま! ベルノワール、カッコよかったよ。今からデートだから帰るね。今度感想言うよー」
何だよ、デートかよ。…ん? あいつ彼女いたのか。知らなかったな。それこそ今度話聞こう。
立ってテラスの手すりの所まで行って、下を覗き込む。俺らがやってた時より客は増えてる。やっぱ金曜日だもんなぁ。そりゃそうだよな。この時間からだよな。
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