7-3


「ああ…そうか」

「だろ? 俺はお前とマンツーだったからディレクションでぶっ叩いたわけで、お前をさておいて俺があいつらに口出ししまくったら、お前の牽引力がなくなる」

 せっかく、宵闇の中央集権で方向性だけは安定してるんだ。ここは宵闇を立てて、そこをブレさせちゃいけない。

「ここまで引っ張って来たんだろ。ワンマンリーダーでやり切れよ」

 興味ねぇから宵闇の経歴は知らないけど、バンド経験の数は少なそうだな。俺はそれなりにいくつかバンドもやって来たし、リーダーを務めたこともある。メジャーバンドの運営を間近で見る機会もあるから、その辺は宵闇より俺の方がわかってる感じだ。

 電話の向こうで、宵闇がふふっと笑ったのが聞こえる。

「そうする。お前のリテイクまでに、ちょっとでもあいつらを引き上げとくよ」

「あいつらもバカじゃねぇなら、食らいついて来るだろ」

「ああ、あれでもここまで一緒にやってきたからな」

 宵闇の声が、意外に優しい。クールぶってるかと思えば、俺のプレイで本気出して来たり。身勝手なワンマン運営かと思えば、結構仲間意識あったり。少しずつ第一印象を裏切って来る。

 付き合ってみると面白いタイプかもしれないな。第一印象は最悪だったけど。

「んで? 俺もう疲れてるから寝るけど」

 電話してたらいい感じに目が覚めて来たし、飯は無理でも風呂くらいは入ってから寝られるな。

「何だ、もう寝るのか」

「飯も食ってないけど、何もしたくねぇからな」

「食ってないのか? 腹減ってんだろ」

「多分?」

 疲労感の方が勝ってるから、腹減ってんのはどうでもいい。

「夕、住所言え」

「は?」

 今の話の流れで、何で住所だ?

「住所だよ。東京都、その後は」

「ああ? あー…大田区…」

 何となく押し切られ、住所を宵闇に教える。

「よし。まだ間に合うな。30分以内にピザ屋行くから、食え」

「はぁー? 何勝手に注文する気なんだよ。俺は払わねーぞ」

 宅配のピザなんか、贅沢品だ。そんなもん金払って食うくらいなら、DVDの1枚でも買いたい。

「俺が払っとくから心配すんな」

「へ? どういうことだ?」

 払っとくとは。

「オンラインで決済しとく。じゃあ切るぞ。おやすみ」

「ん? あ、ああ、おやすみ」

 断る間もなく、宵闇から電話を切った。あいつなりの親分肌なんだろうか。いきなりピザ奢ってくれるって、独特の親分肌だな。

 呆然としているうちに、宵闇の言った30分が過ぎ、あつあつのピザが2枚届いた。

 よかった、ハワイアン入ってなかった。

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