7-2


「サポートの仕事か?」

 こいつ、ディスコード知ってんのかな。知らないかもな。どうでもいいけど。

「ああ。もうすぐ東名阪だからな」

「そうか」

「何の用だよ」

「いや別に。用はない」

 用もないのに電話かけてくんなよな。俺は疲れたし、寝たい。

「あっそ。礼華のレコーディングは」

「一曲も終わらなかった。あいつ、泣きそうになりながら帰ってったよ」

 礼華はサイドギターだけど、残念なくらいにリズム感がない。単純に、基礎練習が足りてないんだろうと思う。多分、サイドなら簡単だろうって舐めてかかったタイプだな。サイドギターってそういうことじゃねぇんだけど。

「メンバー泣かせるとか、ひっでーリーダーだな」

「言うなよ。今回からは本気出してもらわなきゃリズム隊に着いてこれないだろ」

「まーな」

 今までのベルノワールとは天と地の差だからな。かと言って、あいつら3人をまとめてクビにするわけにはいかない。それぞれファンが付いてるだろうってことを考えると、ある程度ビジネス的なことも織り込まないとな。メジャーだし。

「とりあえず、礼華のレコーディングは伸びそうだよ」

「朱雨と綺悧も伸びるだろ、その調子だと」

「ああ、伸びるな」

「ま、頑張ってくれよ、ディレクターさん」

 どこまでを求めて、どの辺を妥協するかは宵闇次第だ。俺も、宵闇のベースには全面的にOKだとは思ってない。けど、日程が許す中でのベスト、ってもんがある。今回だけで100%まで持って行くことを目指すのは現実的じゃないし、そもそも頑張ったからって、ほんの数日でそこまでレベルが上がるもんじゃない。日々の練習あってのもんだからな、一朝一夕にはいかねぇ。

 でも、今まで全て妥協で低空飛行を続けて来たよりは、断然良くなってるはずだ。

「お前も来い」

「は?」

「お前も全面的にディレクションしろよ」

「はぁ? お前バカじゃねーの?」

 呆れて、とぼけた声が出る。

「お前も立場があんだろ」

「立場?」

 このワンマンリーダー、意外に抜けてるな。

「急に来た俺があいつらまでディレクションしたら、お前のリーダーでディレクターでプロデューサーだって立場がねぇだろ」

 ベルノワールの全権は宵闇にある、ってスタンスをぶち壊しちまったら、あいつらも戸惑うだろうし、運営の仕方がガラッと変わっちまう。あいつらはバンド運営に対して何の意見もなく、ただ宵闇に着いてきただけって顔してたからな。いきなりは変われないだろうし、もう暫くは引っ張ってってやんなきゃならない。それは、俺がやっちゃいけねぇんだ。あいつらは宵闇に着いて来てるんだから、あくまでも宵闇が責任持って引っ張らなきゃいけねぇ。

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