1-2
そんなある日、専門学校時代の師匠である金沢先生から電話がかかってきた。
「優哉、ドラマーのオーディションあるけど受けないか」
「あー、オーディションすか? どんな?」
師匠は時々、その伝手からこういう話を振ってくれる。それであれこれ仕事をゲットさせてもらってるからありがたいことだ。
「ヴィジュアル系だから、お前知ってるかな」
「ヴィジュアル系っすか」
「お前ならヴィジュアルも良いからいけるだろ」
「はぁー」
俺のヴィジュアルが良いかどうかは、俺は知らねぇけど。ま、悪くはないと思う。
「何てバンドっすか」
「ベルノワール」
「は? ベルノワール? えっ?」
俺は思わず吹き出し、ゲラゲラ笑う。そりゃ笑うだろ。あのネタバンドが、ドラマーをって。
「どうせ打ち込みじゃないっすかあそこ!」
「うるせーぞ優哉、耳痛いわ」
「俺にエアードラムやれってんすか」
自慢じゃねぇが、俺は専門学校の同期の中でもダントツの実力だし、卒業前に講師にならないかって話もあったんだ。エアードラムとかふざけた話だ。
「だから、それをきちんとしないと世界進出出来ないってことで、前のドラマーはクビになったんだよ」
「へぇ、世界進出、へー!」
ご大層なことで。ま、ヴィジュアル系はヨーロッパとかアジアとかでウケが良いらしいからな。
「冷やかしでもいいから、ちょっと受けて来いよ。俺から返事しとくから」
「へいへーい。資料新しいのいります?」
そうは言っても、師匠の顔も立てとかねーとな。
「マヤちゃんのライブのDVD渡しとくよ」
「へーい。よろしく!」
マヤちゃんは、一番長くバックバンドやってる女性メタルヴォーカリスト。バックバンドのメンバーはかなりハイレベルで、ギターには新世代のギターヒーローって呼ばれてる長崎芳之さんもいる。かなり勉強になる仕事だ。
それにしても、ヴィジュアル系か。
やったことねぇんだよなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます