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ベルノワールというそのヴィジュアル系バンドは、俺たちドラマー仲間の中では何年も前から有名だった。
悪い意味でな。
俺はずっと本間大嗣さんが好きなメタル野郎だから、ベルノワールのライブは見たことがなかったけど、見たツレたちの評価は散々だった。
「マジでドラムひでーよ。3ヶ月の初心者かってレベル」
「何だよそれ。そんなんでライブやってんの?」
「他のパートが何聴いてプレイしてんのかわかんねーよ、あれ。ある意味すげーわ」
ツレのドラマーでベルノワールを見に行ったヤツは、全員口を揃えてそう言ってた。ちらっと聴いた曲自体は割とメタル寄りで、そこまでダメじゃなかったけど、ライブなんかは時間の無駄だな。俺はそう思って見に行かなかった。
でも、地元名古屋での人気は何故か急上昇。
まあ、あれだな、見た目だ。写真を見るとそりゃもう美麗で各種美形揃い。お約束の黒を基調にした綺麗なおべべでバシッと揃えて、スキのない化粧。もう笑っちゃうレベル。
そんで、ライブ後のチェキ会でのサービスは最高なんだとよ。アイドルかよ。
あー、しょーもない。典型的な、カッコだけのヴィジュアル系だ。
それが、ある日突然聴ける音になった、ってツレが爆笑しながら教えてくれた。
「あ? ドラム変わったのか?」
「変わってねぇ!」
「てことは」
「デジタル導入したら、突然ドラム聴けるようになった」
お察しだ。打ち込みじゃねぇかそれ。エアードラムってか。
別に、打ち込みや当て振りを否定するわけじゃねぇ。打ち込みの正確無比なリズムや、均一な音はそれを必要とする音楽があるし、当て振りもゴールデンボンバーの樽美酒研二まで行けば、エンターテイメントとして立派に成立する。けっこう樽美酒好きだよ、俺。カッコ悪りぃのは、生ドラムのフリして打ち込みだってところだ。
で、そのベルノワールってのはそこからトントン拍子にメジャー行ったけど、CD聴いてもあからさまに打ち込みだし、YouTubeでライブ動画見たら、動きと音ズレてんだもんな。フィルインのセンスは全然なくて最悪だし。結局、ずっとドラマーの間ではネタバンドとして笑い者だ。
俺? 俺は大学出てから音楽系の専門学校行って、名古屋から東京に来た今はフリーであちこちのヘヴィメタルバンドとかソロアーティストのバックバンドなんかのサポートと、スタジオミュージシャンやりながら、たまに趣味バンドやってる。
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