第一話
私、未来から来ました! 1
死んだ目でWEB小説投稿サイトを眺める。
小説投稿サイト、ネットに小説を投稿したり、投稿された作品を読む事が出来るサイト。無料という手軽さ、誰でも気軽に投稿できる。その気軽さゆえに埋もれてしまう作品ばかりだ。埋もれてしまった作品が面白くないわけではない。見てもらえるかは8割流行2割運だ。ちなみに俺は投稿をした事がないので確かな情報だという確証はまったくない。
「おはよう童貞。目が死んでるけどどうしたんだい? 一限講義がだるいとか?」
「童貞呼びは止めろ……それにお前も童貞だろ」
こいつは諸星快斗。陰キャ童貞仲間で厨二ナルシな残念イケメン。顔はいい癖にオタクを隠さないせいで未だに童貞。陽キャ女子に顔の良さでチヤホヤされて一悶着あったらしく三次元女子にトラウマ持ち。陽キャのオーラに敏感で、陽キャになろうとしてる同士がいると蛆虫を見るような冷たい視線を向けている。周りからの評価は黙ってればイケメン。
「お前すげーよなぁ」
「顔がかっこよすぎる?」
「あほか。小説投稿だよ」
ああ、なるほど。と諸星は苦笑いを浮かべる。
諸星はもう一年ほど毎週日曜に小説を投稿している。本人のモチベもかなり高く毎回クオリティの高いものが投稿される。そのため少ないながら固定ファンがいる。
「僕の小説が凄い。というのは良くわかんないかな。見てくれてる人はかなり少ないし」
「それでも投稿し続けてるのが凄いんだよ」
「そっか。ありがとう、初。そこまで言うからには新作を読んで感想をくれるんだよね」
「うっ……」
投稿し続けているという行為はWEBでの創作活動において、最強の取り組みといえる。毎週日曜投稿を一年も続ければ、ある程度拙かろうと中堅にはなれるだろう。しかし諸星の小説には問題があった。
それは、内容の重さだ。彼の小説はいわゆるダークファンタジーと分類される重苦しい展開や悲劇的展開を重視したものだ。ダークファンタジー自体は人気ジャンルで悪くない。しかし、こればかりは彼の才能とも言うべきか。手軽に読めることが長所のWEB小説にしては彼の小説の内容は本格的すぎて非常に重たい。特に国家の政治的な闇や重要人物の戦死を描くことを好んでいるため死ぬほど重い。読んでいて疲れてくる。
「前の作品のヒロイン達が惨殺されるシーンがトラウマになっててお前の小説怖い……」
「あはは。まあ僕のが人を選ぶのは分かってるから。冗談だよ」
爽やかな笑み。柔らかな口調と相まって男の俺でも頬が緩むイケメン度。しかし。
「ヒロインは演出のために殺すもの。なんで理解されないのだろうね。わーわーはやしたてるだけのクソより男の友情の方が尊いのにさ。なあ初もそう思うだろ。幼い頃からの相棒、永遠のライバル……敵同士共闘するとかも燃えるよね。血みどろで感情をぶつけ合う様なんて想像だけでイける……!」
「落ち着け。何がイけるんだ落ち着けまじで」
女子へのトラウマで腐男子気味なのがいけない。彼の小説の固定ファンはお察しの通りで、推しが苦しい目に合うのが大好物な腐った方々だ。
「それはそうとまだ投稿できてないのかい? 童貞を守るのは君の自由だから否定しないけど、投稿童貞は早く捨てるべきだと思うよ」
「分かってはいるんだけどな……」
俺の話をしよう。
簡潔に言えば正統派イケメン。運動できて頭も良くてで女子にモテる。ごめんなさい嘘です。
どこにでもいる感じの陰キャ顔。童貞でぼっちなオタク。特技は無い。ラノベ作家を目指しているが、最初から応募は怖いのでネット小説から始めようとしている。だが、作品は書けているのに。投稿する踏ん切りがつかない。
「投稿しても読んでもらえなかったら。いや、読んでもらえないならいいんだ。読んでもらった上でつまらなかったらどうしようって。読んで人たちは時間を無駄にしたことになる。俺の作品が誰かの貴重な時間を奪うかもしれないんだ。それが怖い」
これは言い訳だ。誰かのことを思いやっているようなもっともな理由に仕立てているだけで、結局は自分の作品に自信がない。ここの物語の展開は受けないんじゃないか。このギャグ寒くないか。この設定変えた方がいいかも。もっと文章が上手くなってから……
俺はずっと投稿のボタンを押せないでいる。
「まあいつも言ってるけど考えすぎだと思うよ。君がWEB小説サイトを利用してて時間を無駄にしたって思ったことあるかい? ないんじゃないかな?」
「割とある……」
「あ……僕もあった……」
諸星の結果を考えない適当なフォローで更に投稿がし難くなったところで、講義が始まる時間が来た。
高校の復習が終わり、新しい記号が出てきて最近分からなくなってきた講義をぼーっと聞きながら、俺は新しい小説の構想を練る。
投稿されず永遠と眠ることになる物語達。ラノベ作家になるために、まずはWEB小説。そう決めたのは自分だ。どれだけ書いてどれだけ待っていても、公開しなければ評価すらされない。心の奥底で分かっていても、俺は一向にラノベ作家への第一歩を踏み出せずにいた。
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