第31話 通話可能な世界



「ロングミストが消滅した……?」


 手紙の内容は、街が一つ突然消えてしまったという内容だった。


「エアロ、これ……」


 姫乃は事情を知っているかもしれない彼女へと問いかけるが。

 そこに雪菜先生の声がかかった。


「原因不明、町があったところから突如光の柱を立ち上らせて、その後町は無くなっていたのよ」


 編み終えたマフラーを首に巻きながら立っている。

 その横には訓練は終えた未利。


 光の柱か……。

 あの時に船で見た光はひょっとしてその光だったのか。

 イフィールさん達はどうして教えてくれなかったんだろう。


「イフィールちゃん達も好きで隠してたわけじゃないわ。姫ちゃん達を思ってたのよ」


 意味もなく隠すわけはない、か。

 そうだよね。

 あのイフィールさんが、ただ隠しごとをするわけはないだろうし。


「そうです、隊長が考えなしに無駄な事をするとは思えません。隊長はすばらしい人なんですから」


 横に視線を向けると、復活したらしいエアロがナチュラルにイフィールを持ち上げていた。

 彼女はひょっとして尊敬する人間を過剰に持ち上げる癖でもあるのだろうか。

 すごい人だってのは、その通りだと思うけど。





 訓練が終わった後、全員はあらためて一か所に集まった。

 未利と顔を合わせづらいエアロは当然、その場から離脱している。


「で、アンタ顔も出さないで何やってたの?」

「ちょっと探し物ついでに散歩してきただけだよー」


 未利が訓練中姿が見えなかった啓区に尋ねるが、返ってきたのはそんなはぐらかしだった。


「散歩ついでに食堂にもない食いもんをどうやって購入してきた。まさか外に出たとか?」

「あははー」

「笑ってごまかすな」


 問い詰める未利だったが、まったく真相を明かす気のない啓区の態度にその内疲れた顔になってきて諦めた。


「それよりー、ちょっと見てもらいたいものがあるんだけどねー」


 落ち着いた所で、啓区はポケットから甲羅がカラフルなマーブル柄になったうめ吉を取りだして戻す。


 ……ど、どうしたのそれ。色が変わるどころじゃなくて模様がついてるよ。


「あ、間違えたー。じゃーん、何とかして充電したよー」


 代わりに取りだしたのは携帯電話だ。


「いや、さっきの何? 衣替え? ブームなの? 雪菜先生といい冬でもないのに、超気になるんだけど」

「まー、その内分かるよー」


 未利の当然の突っ込みはさらっと流され、姫乃に携帯が渡される。


「えっと、できないはずじゃなかったっけ。どうやって充電したの?」

「雷の魔法を使って根性で何とかしましたー」


 根性で何とかできる問題なのかな。


「啓区ちゃま頑張ったの? 偉い偉いなの」

「根性とかアンタには一番あわない言葉だわ」


 だよねー、と啓区が同意する。

 そこは頷かないとこが普通なんじゃないかな。

 あ、でもみんな普通じゃなかったし、普通じゃしなさそうな事をするのが普通なんだよね。


「と、いう事で姫ちゃん、かけられるよ」

「えっ、あ……と、でも」


 それは嬉しいんだけど、いきなり渡されても心の準備とか……。


 啓区は携帯を姫乃に渡す。

 姫乃は他の面々を見て、意思を確認するが。


「あー、アタシはいいから、ホント」

「なあちゃんは……」

「つばめさんの皆にかけるより姫ちゃまが先のほうがいいと思うの」


 今回は姫乃の番、という事らしかった。

 

「そ、そっかじゃあ」


 ドキドキしながら番号を押していく。

 電話を耳に当てて静かに待つのだが……。


「……繋がらないみたい」

「何で? この前は繋がったのに電波状態が悪いとか? ……って電柱もないのに良いとか悪いとかあるのかって話だけど」

「うーん、これはもしかしてー。未利、前かけてみたとこやってみてー」

「良いけど……」


 何か思い当たる節でもあるのか、啓区が提案する。

 姫乃は未利に電話を渡し、かけるのを見守った。


三座みさのとこは、えっと……」


 未利は思い出しながら電話番号を一つずつ押していって、耳に当てる。

 数秒。

 呼び出し音の後で電話は繋がった。


『やっと繋がりましたわね。何度もかけ直しましたのよ』

「何で繋がんの?」


 聞こえるのは前聞いた時と同じ声だ。

 未利は驚きながら、姫乃達と顔を見合わせる。


『そんなの知りませんわよ。魔法の力とかでしょう』

「え、魔法……、ちょっとアンタまさか、こっちの世界にいるわけ?」

『こっちの世界がどっちの世界なのかそれじゃあ分かりませんわよ。でもええ、分かりましたわ。貴方も魔法の存在する世界にいらっしゃるんですのね』


 携帯の電波はさすがに世界までは越えられなかったらしい。

 だがその代わり、姫乃達と同じようにこの世界へ来てしまった彼女達と連絡を取る事はできたようだった。


 異世界異なのにどうやってやり取りしているのか。気になるところではひとまずそれはおいておくとして、お互いに知っている事について情報交換する。


 その中では件の調合士の生存についての話もあった。

 彼女達と一緒に行動しているらしい。

 無事なようで本当に良かった。


「そっちも大変な目にあってるみたじゃん」

『ええ、おかげさまで。貴方達も随分な目に遭われたようですわね。ラナーさんの話から、もしやと思っていましたが』

『しっかし、そっちは教会に潜入捜査ねぇ。スパイかっての』


 三座という電話の向こうの少女。彼女は今は、聖導教会の本部にいるらしかった。

 セルスティーさんの他にも何人か仲間がいるみたいだけど、そこらへんの事はとりあえずまたの機会の紹介だ。


 彼女らはギルドという便利屋みたいな組織に所属していて、教会の行動に疑念をもっているメイスという人物の依頼を受けて、内部に潜りこんでいる最中だと説明してくれた。


「断定はできませんけど、きな臭いものを感じましたので、調査させていただいていますわ。ああ、余裕があったらそちらで気が付いたことがあれば報告してほしいですわね。白金騎士団という方たちが今頃任務でそちらにいらっしゃるようですから。個人的に好かない人達なので出くわした際は、気をつけてくださいな」

「分かった。っていってもこの広い町で出くわす可能性は限りなく低いんだろうけど」


 そんなやり取りがあって、互いの今後について話した後、未利は電話を切った。

 家にはつながらなかったけど、この広い異世界で姫乃達と同じ世界の人達が頑張っていると思うだけでも元気をもらえた気がする。


 ……と、そんな事を考えてたのだが。


 未利はため息をついて、こちらを……姫乃の顔を見て、一言。


「あ、何かごめん」

「え、なんで謝るの?」


 ああ、と考えて納得する。

 気にしちゃうよね。



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