第4章 海の男 08
ウーガナの操舵のおかげか、船に足を乗せた魔獣はそれ以上こちらに乗りだすような事をしなかった。
「さて、ダメージを与えたは良いが、ここで尻尾を巻いて逃げてしまっては根本的な解決にはならないのだろうな」
自分達はそれで助かるだろう。だが、回復してしまえば遠くない将来で他の船が襲われることとなる。
イフィールとしてはできればここでとどめを刺してしまいたかった。
できれば、だが。
「何か有効な方法があればいいのだが」
呟くと、船のスピードが上がりわずかな距離が開く。
ダメージを受ける敵を船で引きずるような形となった。
「魔獣は魔石を取りこんで強くなる。だが、ここまで肥大化したものは聞いたことがないな……」
有効な攻撃方法が思いつかないが、前例がないからといって、それに甘えるわけにはいかない。
「イフィールさん!」
そこに姫乃が駆け寄ってきた。
「中に入ってろといったはずだが? それとも何か分かったのか」
短い間だが色々見せられてきた。答えを期待してしまうのは仕方がないだろう。
だからといって、全て甘えるなどの堕落を自分に許しりはしないが。
「あの、ツバキ君が。あの魔獣は闇の魔石を取りこんだものだって言ってて、何かの参考になればいいいと思って」
「そうか、いるのか。闇の魔石……そんなものがあるのか」
聞いたことがない。
「詳しく聞こうとしたんですけど、ツバキ君も闇の魔力が内包されていることぐらいしか、よく分からないらしくて」
「いや、十分だろう」
ツバキについては姫乃から聞いたことがある、石の町で協力した正体の分からない少年だという事ぐらいだ。
闇の魔石なるものの存在は聞いたことがない。気になる所だが、正体を追及するのは後回しだ。
とにかくそれを破壊する。
魔石は弱点になるだろうが、イフィール達には場所が分からない。
「その魔石の場所は分かるか?」
頷きが返ってくる。
「あそこです」
彼女が指さしたのは頭部だ。
この位置では視認できない。おそらく頭頂部にあるのだろう。
問題は、
「あそこまで行く方法があればいいが」
たどりつくことができるかどうかだ。
イフィールの疑問にいつの間にかやって来ていた未利が答えた。
「行く事はできないけど、見るだけならできる。あの見張り台を使えばいいんじゃないの」
あごで示すのは、船の遠くを見るための見張り台だ。
「よし、分かった」
「あ、イフィールさん、待ってください、私達が行きます。イフィールさんは残らないと。皆への指示があるのに」
姫乃に言われて足を止めるが、危険な役割だ。
ウーガナの操舵によって船は絶えずスピードを上げているし、魔獣の攻撃によって揺れている。
無事に上に登れるか分からないし、そこで放り出される危険もある。
「だが………」
言いよどむイフィール。
姫乃はそんなイフィールを見て、口を開いた。
「私達なら、自由に動いても支障はないはずですよね」
せめてもう一人くらい運動神経がいい仲間いてくれればいいのだが、こればかりは仕方ない。少しの間とはいえ、この場にいる三人とセルスティーでやってきていたのだ。今いる人員で何とかしなければいけない。
そこまで考えたところで。
あ……れ?
思考に引っ掛かりを感じた。
何かがおかしい。でもその違和感が分からない。
まるで大切な事を見落としているかのような……。
「……分かった、頼む。だが、くれぐれも無茶はしないでくれ」
考えはイフィールさんの返答によって途切れた。
今は目の前のことに集中しなくては。
姫乃の言葉に説得される形となって、イフィールは渋々自分達を見送った。
背後で話し声が聞こえる。
『どうだ、俺様の操縦は……』
振り返るとイフィールさんの肩にコウモリが乗っかっている。
コウモリの口が開いて、ウーガナの声そのものが聞こえてきた。
「わざわざ自慢を言うために遣わせたのか? こっちからも伝言だ。伝えてくれ」
イフィールは肩にとまったコウモリのツノを撫でて言葉を続ける。
「自分の作業に集中しろ。今から魔獣討伐の作戦を行う。船のスピードをおいつかれない程度に少しだけ緩めろ。手を抜くなよ」
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