第7章 的当てゲーム



 あそ部の部活をしよう、と姫乃は提案する。

 そして考え付いた内容を説明した。


 準備時間は約三分。


 今まで木陰を恵んでくれていた木の下に、そこらへんに落ちていた棒を突き立てる。

 そして、各部員の手の中には拾い集めたカラフルな小石。


「白っぽい色のが7点で、赤い色と青い色のが5点、黄色い色のが3点。……それでこの小石を」

「あのぼーっと突っ立ってる棒に当てて、その点数を競うわけね。順番はどうする」


 姫乃の言葉を引き継いで、未利が喋った。

 棒だからぼーっと立っているのは当たり前なんだけどね。

 動き回られたら困るし、まず驚く。


「じゃんけんがいいの」


 なあちゃんの提案で、決まった順番は以下の通りだ。


 なあ、未利、姫乃、啓区。


「なあ最初なの。がんばるの」


 よーしなの。と肩をぐるぐるまわして準備体操。

 えいやっなの。と気合いの掛け声と共に投石。


 ヒューンと飛んでいった石は、途中で失速して、ぽと……と物悲しげに落ちた。


 ……。


 結果はゼロ点。


「途中で落ちちゃったの……。なあしょんぼりなの」


 飛距離不足だった。


「えいっなの、えいっなの、えいっなのっ!」


 ……。

 総合得点ゼロ点。


 一投目以外はちゃんと飛んだんだけど、どれも的に当たらなかった。


「つ、次はきっと当たるよ……」

「しょぼんなの。でも、なあ頑張るの」

「よーし次はアタシか、ぶちかましたろーじゃん」


 肩を落として落ち込むなあを励まして、順番は次の人へ。


 二番目は未利だ。

 棒に当てるというよりは、棒を倒しに行く意気込みだ。


 野球の投擲フォームみたいな体制になった力の限り腕を振った。


「うりゃああっ」


 投げられた石は勢いのまま飛んでいくのだが。

 しかし、おしい。

 ちょっと横に石が右にそれたかな。

 と、そう思って結果を想像したのだが、次の瞬間、棒が自らの体を右に揺らした。


「えーと、魔法使った……?」

「う……」


 姫乃は未利を見つめた。

 未利は視線を逸らした。


 どうやら黒みたいだった。






 何でもありだとちょっと混沌としかねないので、姫乃は簡単にルールを決めた。


 魔法は使わない。

 他の人の力は借りない。

 それらをこっそりやるのも、ばれないでやるのもダメ。


 こんな感じだ。


 一週間とはいえ、クラスメイトのあそ部での活動を見てきた。

 皆、発想が柔軟なのか本当に色んな手を打ってくる。ルールに反しない範囲で。

 予想外、斜め上、奇想天外、空前絶後。

 ……まあ、初めにとんでもない手を打ったのは雪菜先生なんだけどね。出だしが出だしだったから、それを見習った側が軽く常識を超える方法を考えるようになっちゃって……。皆が皆それをやって、大体最後はとんでもない事になる。


「ちぇっ、ルール改定なんて聞いてないし」

「魔法をありにしちゃうと、いくらなんでも未利が有利すぎるよ」

「そうなんだけどさぁ」


 未利は当然、良い考えだと思ったのにと不満げにしている。

 

「仕方ないの、ズルは良くないってなあは思うの。ズルしちゃ、めっなの」

「ズルじゃなかったし、ズルにしなけりゃいいんじゃないの、ねえ? ルールなんか決めなくっても……」


 なあちゃんに諭されても、希望を捨てきれなかったのかチラチラとこちらに視線。


「……ダメだよ?」


 反射的に、頷いてしまいそうになったが。

 もちろんそう返した。

 左右の人差し指でバッテンを作って。

 圧されそうになって少し疑問形成分が入ったが……。

 効果は抜群だった。


「ぐあぁ、殺られた。今のその表情、計算してないところがまたクリティカル!」


 ちょっと違う方面の効果だったようだが。

 未利は体力のの九割を削られたような顔をして呻く。


「うーん、さすがだねー。眉を下げて申し訳なさそうな表情をしつつもー、わずかに懇願するような微妙な上目づかいー、破壊力あるねー」


 啓区はいつもの表情で分析。


「ふぇ? なあよく分からないの」


 なあちゃんは……、うん分かってないみたい。


 ……、何だろうこの反応。

 想像してたのと違うよ……?

 そういえば、ルミナリアもたまにこんな風になる事あったなあ……。


「雪菜先生がやるとただの痛さしか感じないけど、さすが姫乃。末恐ろしい」

「あー、あの時はほんと真冬の寒風吹きすさぶー、みたいな空気だったよねー。その後、あの格好で校長先生の協力取り付けに行って、僕たちから逃げきる為に家庭科室を職員以外立ち入り禁止にしちゃったんだっけー」

「部活どー楽しかったの! 先生はひらひらのお服でひらひら動いてたの、なあも着てみたいの。ひらひら動けるかなって思うの」


 あぁ、それは一番最初のあそ部の部活だ。


 なつかしいなぁ。

 あの頃は、雪菜先生の行動に皆ただただ驚くばかりだったなあ。先生なのに苗字じゃなくて名前で呼びなさいとか言ってたし。

 一週間経ったら、もうそれも含めて色んな行動にある程度慣れちゃったけど。


 でも思えば、そんな雪菜先生の行動に慣れちゃってたから、この異世界でも何とかやっていけているんじゃないかな。


「雪菜先生の下で一年間生徒してたら、色んな意味ですごく成長できそう」

「同感」

「だねー」

「ふぇ?」

 





 そして、ルール改定から少し時間は経って、今は三回戦の頭だ。


 姫乃が案じるように声をかける相手は、石を何個も手のひらの中にまとめて持って、獲物を狙う肉食獣のような視線を的に注いでいた。

 肩をぐるぐるまわして、投擲準備に入る。


「ええっ、未利、本当にそれで投げるの……?」

「大丈夫だって、姫乃。……どおおおおりゃっ!! ちっ、点数すくなっ」


 女子にあるまじき気合の入った掛け声の後、結果を見た未利は女子がするべきではないような舌打ちをする。あんまりそう言う事はしない方は良いと思うんだけどな。


「全部まとめて投げりゃ、何とか集団心理とか何とかで当たると思ったのに……」


 結果は、当然芳しくなかった。

 七点の白い石が一つ当たっただけで、合計七点。

 的に命中したの一割にも満たない。

 というか一つきりだ。


「えっと、それは人の場合で……石に期待するのはちょっと的外れなんじゃ」


 どこから突っ込めば分からない。

 というか根本的におかしいような気もするのだが。


「的を外しただけにねー。さっきの二回戦の時も、逆に自然の強風にやられて的外したんだよねー……かっこわらいー」

「かっこわらいってなんじゃあっ! 文とか言葉の後につける(笑いあれ)か! そういう事か。つまり詳しく説明して、詳しく笑っとるんか!!」


 啓区がそんな事を言えば、未利がそっちに向かって石を投げまくった。


「ちょ、未利。駄目だよ。さすがに痛いよ、石は!」

「わわ、未利ちゃま駄目なの! 啓区ちゃま怪我しちゃうから、いけないのっ。なあ頑張って止めなきゃっ!」


 姫ちゃんとなあちゃんが二人がかりで、止めにかかる。

 本気で投げてるわけじゃないと思うけど、怪我しちゃったら大変だよ。


「ルール改定! 的は敵! もしくは友!」

「どっちも呼び方が違うだけで人だよ」

「だめなの未利ちゃま、きょーぼーになっちゃ駄目なの!」


 啓区も怒らせる様な事言わなきゃいいのにな、と思うのだが。

 何だか楽しそうで、言えないんでよね。

 

 そんなやり取りが数分続いた後は、二番手の番だ。


「次はなあなの、えいえいえいえいっ……」


 安定のなあちゃんだ。

 投げ方はほぼ同じ、ちょっと間隔が短くなったくらいで。

 ひたすら真っすぐを意識して意思を投げ終えた。


「ふぇぇ、素早く投げたいいかもって思ったのに、うまく当たらないの。なあしょんぼり」


 五点の赤色二個で十点、三転の黄色が一個で三点。合計十三点だ。

 まあまあの結果だと思う。

 そんな結果を見て、啓区が「未利に比べてたら上出来だと思うよー」とかいった物だから、また何か始まりそうになったけれど。


 次は姫乃の番。


「うーん、どうしようかな……。あっ、そうだ」


 しばし、悩んだのち、近くに立つ木を見つめる。屋根とかは上れないけど、これくらいなら大丈夫かな。

 その木は、少し前まで木陰の恵みに甘えて休憩していた木だ。


 職人の町に住む職人は、人だけじゃないのだろうか。

 その木は、木が成長するならかくしてこうあるべきみたいなイメージでももってるのか、かなり自由な形をしていた。

 木の表面には、足場になりそうな大きな石が何故が埋まってるし、本来だいたいはまっすぐ伸びるはずの幹はぐにゃりぐにゃりと、余計な蛇行をしている。

 まあ、その足場のおかげで姫乃みたいな初心者でも登れるのだけど。


 そして、登ってどうするのかと……。


「なるほどー」


 啓区が意図を理解したようだ。


 考えたのだ。横から投げるのは上下左右、投擲方向を考えなければならないし、目標の的まで投げつける力もいる。

 けれど上からなら、それらを気にしなくてもいい。

 位置を合わせる手間があるけれど、それだけ。後は下に向かって石を落とすだけ。


「考えたね姫乃」

「凄いの姫ちゃま! なあ思いつかなかったの」


 結果はかなり良かった。

 歴代……と言ってもたかだか三回ぽっちの歴史だが、ベストの成績を堂々と修めて見せた。

 七点の白色が三つで十四点。5点の青い石が一つで5点。三点の黄色一つで三点。合計二十二点だ。


 そして、最後は啓区の番。


「なんかー、姫ちゃんの後に僕って申し訳なくなってきちゃうなー」


 木から降りるのを待ってくれた後、啓区が石を準備して前へと出た。


 だが、結果は……。


「えーと、何かごめんねー」


 数投を放り投げるようにして、的外れな所に当たっただけだった。


 そうこうしている内にようやく準備が終わったのか、セルスティーが姫乃達を呼ぶ声がした。


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