五日目(三)

お昼になる前に家に戻ると、家では釣りキチさんと桂坂さんが、額に汗して家の片付けをしていた。想像していたよりハードな作業だったようだ。


「他の家もざっと回ってみたんだけど、そんなに使えそうな道具はないわね」


桂坂さんは腕を組んで、残念そうに告げた。


「これ、運んできたの?」


スカウトさんが指さしていたのは、小さな石臼だった。確か朝、僕たちが出かける時にはここにはなかったはずだ。その問いには、釣りキチさんが答えた。


「ええ、隣の家の奥にあったので。何かに使えるかと思って」


「これ、重たかったんじゃないですか? どうやって運んだの?」


僕は軽く石臼に触れてみた。硬くずっしりとした感触でいかにも重量がありそうだ。


「転がしてきたのよ」


汗を拭き拭き、桂坂さんが答える。なるほど。それならここまで運んでくることもなんとか出来そうだ。僕は家の中を見渡してみた。切り倒した木をくり抜いて作った容器とか、鋭く削られた石の棒とか、色んな道具は揃っているが、どれもまあ原始的なものばかりである。


「ガラクタばかり、って言いたそうな顔してるわね」


桂坂さんが僕の顔を覗きながら言う。


「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


僕は歯切れの悪い言い方をした。


「まあ、健太の言いたいことも分かる。こんなもの何の役に立つんだ、って思うのは当たり前だろう」


スカウトさんがフォローしてくれた。


「だが、わずかとはいえ、ここに人が住んで生活していた事実の証拠が上がった。例えば、その石の棒だが、それだけ削るだけの技術があったってことだ」


「スカウトさんの見方は正しいと思います。そもそもこれだけの家を作る技術はあったはずですけど」


僕はそう言って、天井を見上げた。


「ここにはちょっとしたものでも、何にもないのよね。糸とか紙とか、鉛筆やコップすらない。私たち四人の荷物の中に色々な小物が入っていたので、メモも簡単にできるし食事も作れるんだけど、それがなかったら本当生活大変だと思うわ」


桂坂さんは心から安堵しているようだった。


「それって本当に幸運だったのかな?」


僕がそう呟いたのを桂坂さんは「どういう意味?」と僕に厳しいまなざしを向けた。


「それはたまたまじゃないんじゃないか、ってこと」


「つまり、必然性があったからってこと?」


「うん」


俺がうなずいたのを見て、スカウトさんが補足した。


「言い換えれば、食べ物など手にする所有物が多い状態が転移する条件の一つってことか?」


「ええ。その可能性もあるかと」


「うーむ!」と頭をひねりながらスカウトさんは考え込む。

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