釣りキチさん(三)

その後もポツポツと他愛ない会話を繰り広げていたが、会話にも飽きてやや沈黙の時間が続いた。


重苦しい雰囲気の中で、僕はスカウトさんに問うた。


「僕たち、帰れますかね?」


スカウトさんはすぐに返事をせず、しばらく思案したあとおもむろに語り始めた。


「帰れる、と信じたいところだが、現実的に考えるとちょっと厳しいかも知れないな。結構、歩き回っているが、これだけ何もないとなると! よほど広い森なんだろう。集落があったことからすれば、近くに人が通る道があってもおかしくないはずなんだがな」


僕もそう思う。集落があったってことは、かつてはそこに人が暮らしてたわけで、森を出るルートもあったに違いない。それとも人里から完全に孤立した村だったのだろうか?


「ここに住んでいた人達はどういう生活をしていたんでしょうかね?」


「さあな。村人と一緒に家財道具もある程度無くなっているので、想像するしかないが、十軒もあることからすれば、何代かに渡るかなり定着した暮らしをしていたんじゃないのかな」


僕は隠れ里という言葉を思い出した。忍びの里、あるいは落人の村。世間からは隠しておきたい村の存在が、かつてあったとしても何も不思議ではない。


しかし、あの集落がそのような目的で作られたとしても、人がいない説明にはならない。この村を捨てて何処かに移動したとしても、あまりにも生活臭が中途半端なのである。


「スカウトさんは、ここ日本だと思います?」


「さあ、どうかな。日本ぽい印象は受けるが断定は出来ないな」


スカウトさんは首をひねりながら答えた。


「スカウトさんは、日本各地を歩き回ってたんですよね?」


「いや、旅して回ってたわけではなくて、居場所を転々としてたって感じだな。国内だって、行ったことのない場所はたくさんあるさ」


「似たような場所ありますか?」


スカウトさんはキョトンとした顔を見せた。


「似たような場所って……森だったら、日本中に山程あるから、どこだって似たようなもんさ。ただ、これだけ深い森はあまり入ったことはないがな。実際には、このぐらいの人が入ったことのない山なんて、たくさんあると思うぞ」


「例えば、富士山の樹海とかこんな感じなんでしょうか」


「まあ、近いけどな。でも、少し違うような気がする。うまく言えないけど」


結局、スカウトさんでもここがどこなのか推測することすら無理ということが分かっただけだった。僕は話しながら歩いたせいか、夕方には極度に疲れてしまった。ここ数日の無理が今頃効いてきたのかも知れない。もうそんなに歩けない気がする……


「ほら、健太、頑張れ! もう少しで家だ」


スカウトさんが僕を励ましながら連れて行く。僕は死んだような顔をしながらも、必死でスカウトさんの後に続いた。


「今日はうまくいけば、魚にありつけるぞ」


そうだった……釣りキチさんが見事釣ってくれれば、魚が食べられるかも知れない。そう考えた僕は、再び元気が出てきた。


「分かりやすい奴だなあ」


スカウトさんが僕を見て笑った。

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